彩風咲奈、股旅姿でさっそうと登場、雪組公演「夢介千両みやげ」「Sensational!」開幕
彩風咲奈を中心とする雪組による大江戸スクランブル「夢介千両みやげ」(石田昌也脚本、演出)とショー・スプレンディド「Sensational!」(中村一徳作、演出)が19日、宝塚大劇場で開幕した。昔懐かしい痛快娯楽時代劇ミュージカルと次から次へと人海戦術で見せるダイナミックなレビュー、理屈抜きに楽しめる春らしい2本立てだ。
「夢介-」は「桃太郎侍」や「遠山の金さん」といった数々の時代劇の定番を生み出した山手樹一郎が戦後すぐに発表した時代小説の舞台化。1951年(昭和26年)に東映時代劇の大御所、片岡千恵蔵の主演で映画化もされているが、いま宝塚で取り上げるとは、よくもまあこんな埃のかぶった作品をみつけだしたもの。一昔前の宝塚ではしょっちゅう見たような痛快娯楽時代劇、タイムマシンで昭和の大劇場に戻ったような不思議な感覚に陥った。
股旅、三度笠姿の夢介こと彩風が舞台中央に登場、自己紹介の仁義を切るシーンから。なんだか劇場を間違えたような気もする出だしだが、仁義を切るのはまぎれもなく彩風、マゲに前髪はらりと落ちるいでたちが決まった。長身が映え、この辺は昭和のスターとは違うところ。オープニングの彩風のこのかっこよさで一気に埃が落ちた。
小田原の庄屋の息子、夢介(彩風)は世間知らずのボンボン育ち。父親は夢介に千両を渡し”通人”となるために江戸に”道楽修行”に送り出す。今風にいうと金持ちの親が息子に大枚持たせて海外留学させるようなもの。そんな無菌状態の夢介、まずは女スリのオランダお銀(朝月希和)に目をつけられ、まんまと100両の金を盗まれるのだが、夢介は怒るどころか面白い芝居を見せてくれたと、見物料としてその金をそっくりお銀にやってしまう。そんな夢介の朴訥で底抜けの優しさにお銀は一目ぼれ、そのまま一緒に江戸までついてきて、押しかけ女房よろしく同棲生活をはじめてしまう。根っからのお人好しの夢介は江戸でも数々の事件に巻き込まれ、持ち前の明るさと金の力で解決、そのたびに女にも惚れられ、人々にちょっとした幸せをまき散らしていくといった展開。なんだか浮世離れしたお話だが、誰も傷つかない前向きな明るさが心地よい。
彩風は、田舎言葉(小田原ってそんなに田舎?)も体にしみこんでいる感じで、夢介の朴訥な雰囲気を巧みに表現、困っている人を見ると放ってはおけないところなど彩風の人柄そのものがでているようで適役好演。初日は台本通りの進行だが、今後、回数を重ねて余裕が出てくれば、朝月や総太郎役の朝美絢などとのアドリブでのやりとりも十分可能な公演で、まだまだ面白くなる可能性を秘めていそうだ。
お銀の朝月は、気風のいい姉御肌で啖呵を切ったりする勇ましい場面もありながら惚れた夢介の前では少女のような可愛さも見せる、そんなふり幅の大きい役どころを楽しんで演じている。そんなお銀の心根を理解して無言で優しく包み込む彩風の包容力にしっかり甘えるところなどお似合いのコンビだった。
朝美扮する総太郎は、夢介が金を預けている飛脚問屋・伊勢屋の若旦那。名うての遊び人で夢介の遊びの指南役を買って出るという設定。「なんせこの顔、この器量、そして目力」といって笑わせるが、それが嫌味でも何でもないところが朝美のいいところ。自分より夢介がモテる場面でのじりじり感がなんともおかしかった。
宙組から組替えになって最初の公演となった和希そらは、お銀のスリ仲間である少年たちのリーダー、三太役。情報屋で江戸での夢介、お銀の頼もしいサポート役といったところ。狂言回し的な存在で和希が演じるととても印象的でいい役になった。すっかり雪組に馴染んでいる感じ。
江戸への道中で夢介と出会う遊び人、金の字の縣千、剣客の斎藤新太郎の諏訪さき、その弟新次郎の一禾あおの3人も前半だけでなく後半にも夢介とは大きく絡んでくる役どころ。なかでも縣に注目。この公演で退団する綾凰華は悪七こと船頭七五郎役。妻で小唄の師匠、お滝の希良々うみをめぐって夢八と対峙するこれもいい役だった。
娘役も伊勢屋の女中、お松役の野々花ひまり、蕎麦屋の娘で三太の幼馴染、お糸役の夢白あや、それに春駒大夫の愛すみれ、芸者・浜次役の妃華ゆきのらにそれぞれ見せ場があってどの役も印象的。多くの役があってそれぞれがお話の中できちんと生きていた。
106期のホープ、華世京も南町奉行所、同心、市村忠兵衛(桜路薫)の岡っ引き、走助役で溌溂としたところを見せた。新人公演は朝美の役に大抜擢されている注目の人だ。
一方「Sensational!」は、プロローグから中詰めとどの場面も出演者の数が多く、テンポ抜群、聞き覚えのあるメロディーばかりでつないでいき、気が付いたらフィナーレといった感じのあっというまの55分。彩風を中心にソフト帽の男役陣が踊るプロローグがスタイリッシュだが、第5章の「風神」がオリエンタルなムードに満ち溢れて幻想的かつゴージャス、全員が勢ぞろいしての総踊りは圧倒的な迫力。第6章ではオーロラに扮した彩風とプラズマに扮した和希が歌姫・愛すみれの歌で踊るというシーンが眼福だった。
退団する綾にはフィナーレで彩風からバトンタッチして銀橋ソロがあるなど、退団者に対する気遣いも宝塚ならでは。彩風と朝月のデュエットダンスは「死ぬほど愛して」をバックにアダルトなムード。パレードでは和希の三番手が明確にされた。
彩風は「お客様を前にして舞台を務められることがこんなにも幸せなのかと実感しています。この気持ちを忘れず千秋楽まで日々突っ走ります」と挨拶、1月の公演が中止になったことをふまえて、舞台に立てることの幸せをかみしめていた。
©宝塚歌劇支局プラス3月19日記 薮下哲司
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