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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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真風涼帆主演、ミュージカル「NEVER SAY GOODBYE」ようやく開幕!

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©️宝塚歌劇団

真風涼帆主演、ミュージカル「NEVER SAY GOODBYE」ようやく開幕!

コロナ感染者続出で開幕が延期されていた真風涼帆主演の宙組公演、ミュージカル「NEVER SAY GOODBYE」(小池修一郎作、演出)が、2月28日からようやく無事開幕、翌1日の公演を観劇した。この日は本来なら新人公演があるはずだったのだが、準備が整っていないということで中止、本公演だけの観劇となった。再演が望まれながらこれまで実現しなかった同作だが、2006年の初演で初舞台を踏んだ真風以下、現在の宙組の力を結集、初演に勝るとも劣らない見事な成果を上げた。

「NEVER-」は、小池修一郎氏が、絶大な人気を誇った宙組のトップコンビ、和央ようか、花總まりのサヨナラ公演のために書き下ろしたオリジナルミュージカル。1936年に勃発したスペインの内戦を背景にポーランド人の写真家ジョルジュとアメリカ人の作家キャサリンの出合いと別れを描いた作品で、フランク・ワイルドホーン氏が全編の音楽を担当、素晴らしい効果を上げて、その年の芸術選奨文部大臣賞を受賞した。小池氏の数あるオリジナルミュージカルの中でも最も完成度の高い作品だ。

16年ぶりの再演となった今回、振付、装置、衣装などに細かい手直しがあるものの内容的にはほぼ初演を踏襲、初演の忠実な再現となった。しかし、演者が変わると印象が変わるのは当然、真風、潤花コンビは初演の和央、花總コンビにリスペクトを捧げながら実に丁寧に演じ、この作品を2022年に新たに蘇らせた。

1936年といえばドイツにナチスが台頭、世界的に戦争の足音が響きはじめた時代。スペインでは圧政に苦しめられた庶民が立ち上がり王政から共和制に変わったものの、それに不満を持つ教会と軍部がクーデターを起こし国は内戦状態に。フランコ将軍率いる反乱軍に対して政府軍はソ連が支援するPUSC(統一社会党)と自由主義を掲げるPOUM(統一労働者党)に分裂、ナチスドイツが反乱軍を支援したことから三つ巴の内戦になる。このあたりの事情はヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」などにも描かれているが、正面切って描いたのは珍しく、そういう意味でも貴重な作品である。

時あたかもロシアのウクライナ侵攻の真っ最中。初演のころは歴史的事実の再確認のような思いで見られたのだが、現在の状況下で見ると、86年前のスペイン内戦の話がまるで現在進行形のような切実感にあふれ、ラストの二人の別れがなんとも言いようのない悲しみが募った。
  ジョルジュに扮した真風は冒頭からセリフも歌詞も非常に丁寧に表現、作品への愛とリスペクトがひしひしと感じられる好演。写真家として華々しい成功を勝ちとりながらも実はポーランドの貧しい街で生まれたデラシネ(根無し草)で生きる意味を模索するジョルジュを真摯に演じた。初演の和央のイメージが強い役だが真風ならではのジョルジュが息づいた。初演時、和央の動きが制限されていたためダンスシーンがラストだけだったが、今回そのダンスシーンが大幅に膨らみ、カメラを銃に変えて踊る真風の雄姿に悲壮感が漂い、目に焼き付いた。

 キャサリンの潤花も、役としてはどうしても初演の花總のイメージがちらつくが、冒頭に孫娘のペギー役で登場した時から潤花らしい素直な明るさがさわやかでこれは大丈夫と確信したら案の定、しっかりと地に足の着いたキャサリンを造形、最初はよく思わずけんか腰で向かっていくもののジョルジュの本心を知ってから心を許していく過程に納得ができ、二幕のソロも巧拙を通り越した情感があふれて胸を打った。

 人気闘牛士ビセント役の芹香斗亜は黒塗りの精悍な表情で逞しさを表現、民兵のリーダーとしての活躍ぶりも目覚ましく、初演のビセント(大和悠河)より役が大きくなった感がありあり。もともとあったビセントの曲も大幅に加筆され芹香の伸びやかな歌声が銀橋にこだました。

 初演で遼河はるひが演じたPUSCの幹部アギラールには桜木みなとが扮した。ソ連の庇護のもと民兵たちと対立するこの作品中での一番の敵役。虫も殺さぬ甘い表情の桜木が極めて冷徹な行動をとる難役を熱演。また新たな魅力を見せてくれた。

 ジョルジュの恋人で大女優のエレナは天彩峰里。やりすぎると嫌味になりがちな恋敵の役だが天彩のくせのないストレートな演技が好ましく実力のほどをいかんなく発揮した。

 バルセロナ・オリンピア―ドに参加、そのまま民兵組織に志願した各国の選手たちに紫藤りゅう、瑠風輝、鷹翔千空、優希しおん、風色日向、亜音有星といった中堅若手が扮し、「俺たちはカマラード」や「ONE HEART」の合唱で気を吐いた。初演で早霧せいなが演じたモロッコの選手で、民兵たちのアジトを密告してしまうタリックには亜音が起用された。初演で凪七瑠海が演じたビセントの孫エンリケには107期の奈央麗斗(なお・れいと)が抜擢され、初々しくさわやかな口跡で印象づけた。


 あと初演で和音美桜が演じたラ・パッショナリアには留依蒔世が扮し、圧倒的な歌声を響かせたのも特筆される。

フィナーレは初演と一新。芹香の主題歌披露から始まってラインダンス、そして真風メインで赤と黒のマントを翻してのスパニッシュの大群舞(KAORIalive振付)が素晴らしかった。歴史に残る名場面といっていい。公演は3月14日まで。すでに完売していて千秋楽にはライブ配信がある。千秋楽までの完走を祈りたい。

©宝塚歌劇支局プラス3月1日記 薮下哲司
 


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