瑠風 輝(るかぜ・ひかる)堂々の初主演、宙組公演「シェイクスピア」新人公演
宙組公演、ミュージカル「シェイクスピア」~空に満つるは、尽きせぬ言の葉~(生田大和作、演出)新人公演(同)が、19日、宝塚大劇場で行われ、研4のホープ、瑠風輝が初主演、好演した。今回はこの模様を報告しよう。
シェイクスピア没後400年を記念したミュージカル「シェイクスピア」新人公演は、生田氏自らが演出を担当、涙と笑いで感動的につづったシェイクスピアの半生が、本公演そのままそっくりに再現された。
プロローグのロンドン市街。雑踏のなか最初に歌う市民の女(本役・美風舞良)は真みや涼子。その力強い歌声が群舞となるうちに故郷からやってきたシェイクスピアの妻アン(実咲凛音)に扮した遥羽ららと息子ハムネット(遥羽)の華雪りらにスポットが当たり、その日が「ロミオとジュリエット」初演の初日当日であることがわかる。シェイクスピア(朝夏まなと)に扮した瑠風との再会から、初日の舞台面、そして7年前のシェイクスピアとアンの出会いへ。何度見ても見事な導入だ。
笑わせながら泣かせる、観客のツボを心得た脚本と演出の呼吸が巧みで、それは新人公演を見ていてもよく分かった。ただ、新人公演メンバーは、全員が本公演通りに演じてはいるのだが、本公演と同じように泣かせ、笑わせることはできなかった。出演者全員がまだまだ未熟で、緊張のあまり、やや委縮した感じになってしまったのが原因か。
とはいえ主演の瑠風は、長身でルックスもよく、研4 とは思えないしっかりとした歌唱力で全体をさわやかにまとめた。特に高音の美しさが際だった。ややキーが高くて、男役独特の低音の魅力に欠けるので、低音をだす工夫が今後の課題か。昨年の「NewWave宙」で見事な「闇に広がる」を披露、注目したのだが、あの頃から比べると、たった一年足らずでずいぶんあか抜けして、上り坂の魅力が身体全体からあふれているようだった。時々台詞が早口になって、語尾がはっきりせず、ずいぶん損をしているのでそれも気を付けてほしい。
アン役の遥羽は、今回が初ヒロイン。本役では子役をひたすらかわいく演じていたが、ドレス姿がことのほかよく似合い、田舎育ちではあるものの、きちんと自分自身を持っている芯のある女性アンを、一貫して清楚に嫌みなく演じ切ったのはなかなかだった。歌唱力もあり、クラシックから現代までいろんなヒロイン像に可能性を秘めていて、これからの活躍がおおいに期待できそうだ。
公演の長としてあいさつを務めた桜木みなとは、真風涼帆が演じたパトロンのジョージに回った。必ずしも桜木にぴったりという役柄ではないのだが、さすが、このメンバーのなかでは一日の長というか舞台の居場所が分かっているというか安心して見ていられた。端正なマスクにヒゲがよく似合い、台詞もスムーズだった。ただ、長身の瑠風と並ぶと、いかに豪華な衣装を着ていても、ずいぶん小さく見えた。自分をどういう風に大きく見せこむか、これがこの人のこれからの課題になりそうだ。
専科の美穂圭子が演じたエリザベス一世には、彩花まりが挑戦。美穂ゆずりの迫力と周囲を威圧する貫録で好演した。「メランコリックジゴロ」全国ツアーのときは感心しなかったのだが、今回はなかなかだった。美穂に比べると歌唱力もまだまだではあるが、研7でこの役をここまでこなせる人はなかなかいないだろう。
リチャード役(沙央くらま)は研6の和希そら。「ベルサイユのばら」新人公演でオスカルを演じた経験もあり、大舞台の経験は多いので、ひとりのびのびと楽しげに演じていて、この役は適役だった。後半のシェイクスピアを激励する場面も感動的に盛り上げた。
愛月ひかるが演じたヘンリーは希峰かなた、桜木が演じたロバートは優希しおん。二人ともまだ研2。桜木に通じる甘いマスクの優希に、新たな二枚目スターの登場を見た。
同じ研2の娘役ホープ、星風まどかは、本公演で伶美うららが演じたジョージの妻べスに挑戦した。本公演のエミリアとだぶるダーク系の女性。いかにも娘役タイプの星風には全く合わない役で、かわいそうなのだが、きちんとこなせてしまうところが星風のすごいところ。末恐ろしい逸材だ。伶美は市民の女などのアンサンブルで参加、後方にいても美貌ですぐわかるのがさすがだった。
公演全体としては、どこという大きな破たんはないが、なんとなく小さくまとまってしまったという印象。笑いが大きな要素となっていることから、出演者ひとりひとりのもっとのびのびとした演技が見たかった。本役をコピーすることは大事だが、そこから、自分のものにしていけばさらにいい舞台になるだろう。あと全体的にマイクの使い方がまだ不慣れで、ずいぶん損をしているところがあった。この辺は場数なので、今後の課題としておきたい。
©宝塚歌劇支局プラス1月20日記 薮下哲司