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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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宙組公演「シェイクスピア」笑いと涙の珠玉の名作誕生、元日開幕

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 ©宝塚歌劇団



宝塚102周年、快調のスタート
宙組公演「シェイクスピア」笑いと涙の珠玉の名作誕生、元日開幕

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
宝塚歌劇の102周年のトップをかざって宙組によるミュージカル「シェイクスピア」~空に満つるは、尽きせぬ言の葉~(生田大和作、演出)とダイナミックショー「HOT EYES‼」(藤井大介作、演出)が元日から宝塚大劇場で開幕した。今回はこの模様を報告しよう。


まず「シェイクスピア」だが、誰がこんなに素晴らしい作品になると予想しただろうか!102周年の宝塚歌劇にいきなり、爽やかな涙と明るい笑いに包まれた珠玉の一篇の誕生だ。

ウィリアム・シェイクスピア。「ロミオとジュリエット」はじめ数々の名作で知られるイギリスの文豪である。しかし、その半生は謎に包まれている。作者の生田氏はそこを逆手にとって、彼が残したさまざまな作品を通して、シェイクスピアの半生を、豊かな想像をふくらませて創作、親子愛、夫婦愛、友愛そして権謀術数、加えて演劇への大きな愛を命題にした見事な作品に仕上げた。そして、その根底には一番大事な宝塚への愛もきっちりと浮かび上がらせた。「バンドネオン」から始まって「ラストタイクーン」「伯爵令嬢」と続いた生田氏だが、今回の「シェイクスピア」で宝塚の座付作者として大輪の花を咲かせたといっていいだろう。

緞帳が上がるとそこは16世紀末のロンドンの下町。二村周作氏の装置がよく雰囲気を伝えている。美風舞良はじめ市民たちが、ペストが流行して明日をも知れない世情を憂いながらもダイナミックに歌うなか、シェイクスピアの妻アン(実咲凛音)とその息子ハムネット(遥羽らら)が、シェイクスピア(朝夏まなと)の新作「ロミオとジュリエット」の初日の舞台を見るために、故郷からロンドンの劇場にやってくる場面から始まる。それは夫婦にとって6年ぶりの再会で、シェイクスピアが、アンと知り合ったきっかけをそのまま戯曲に仕立て上げた「ロミオとジュリエット」の舞台をみながら、アンはかつての出会いを回想する。当時のロンドンの時代的背景とストーリーの発端を要領よく見せ、一気に物語の世界にいざなう。

続く回想シーンがまた見事。シェイクスピアが父親(松風輝)と喧嘩して家を飛び出し、森の中で詩の創作に励んでいるところに、やはり意に沿わぬ結婚話に反発して森に逃げ込んでいたアンと運命的な出会いをする。詩の続きが出来ず、思わず大木を蹴ったところ、上にいたアンが落ちてくるというコミカルな設定にまず笑いが起きる。そんなユーモアが随所にちりばめられ、見る者の気をそらさない。アンに魅せられたシェイクスピアは、五月祭でアンに会えると聞いて、祭りに行くのだが、とんだ大騒動を引き起こす。再会したアンとも引き離され、彼女を追ううちにシェイクスピアはアンの家に。そこで「ロミオとジュリエット」のバルコニーの場面のもとになったシェイクスピアとアンのラブシーンが展開する。ところが、ここがまた洒落たパロディーになっていてなんともコミカル。

祭りで「芝居で女王陛下を膝まずかせる」と豪語したシェイクスピアにたまたま居合わせた貴族のジョージ(真風涼帆)が興味を持ち、シェイクスピアをロンドンに誘い、アンを残してロンドンへ単身赴任、劇作家としての運命が開けていく。そして冒頭、エリザベス女王(美穂圭子)も観劇する「ロミオとジュリエット」開幕前日につながる。ここまでで約30分。

人気絶頂の劇作家となったシェイクスピアは、ジョージが対立する貴族を蹴落とすための人心を扇動するため利用される。それが「真夏の夜の夢」「マクベス」「ジュリアス・シーザー」そして「ハムレット」というわけ。劇団の役者たちが演じるそれらの舞台のハイライトシーンをちりばめながら、シェイクスピアの作家としての苦悩を描いていく。看板役者リチャードには沙央くらまが扮して、様々な役を演じ分け、純矢ちとせも劇中劇でジュリエットなどを演じるが、当時は女性が役者にはなれないというしきたりがあり、男が女を演じているという設定で登場、純矢が久々に男役を楽しんでいる。

シェイクスピアは反逆罪で逮捕され、女王から「夫婦愛についての芝居を書けたら赦免する」と宣告される。多忙のあまり妻のアンを顧みる余裕がなく、彼女が去ったあと傷心にくれるシェイクスピアは、この話をいったんは断るのだがリチャードのひとことで奮起「冬物語」を女王の前で上演することになる。

ここから先のクライマックスは、夫婦愛さらには演劇への大きな愛が津波のように押し寄せる。そしてそれは宝塚への大きな愛にも通じて、深い感動を呼ぶ。誰もが知っているシェイクスピアという文豪を主人公にして、誰も知らない見事な人間ドラマそして宝塚賛歌を紡いだ生田氏に乾杯だ。

シェイクスピアを演じた朝夏は、冒頭、デスクで詩作に没頭する場面から、創作することが人生のすべてという天才肌の青年をさわやかに演じ切り、早くも代表作が誕生した。歌唱も安定して、主題歌「ウイル・イン・ザ・ワールド」(太田健作曲)が心地よく耳に響く。

アン役の実咲は青春時代の初々しさと人妻になってからの落ち着いた雰囲気の演じ分けが見事。持ち前のリリカルな歌唱力も健在で、ひとまわり大きくなった印象だ。

ジョージの真風は、ぎらぎらとした野望に燃える眼光を潜ませながらも、貴族らしい品格も持ち合わせた青年として存在感を見せつけた。立派な衣装にひげがことのほか似合った。

ジョージの妻べスには伶美うらら。ジョージを陰でたきつける冷徹な妻はマクベス夫人をだぶらせた設定だが、伶美のクールビューティーぶりが生かされて適役好演。

しかし、この舞台の大きなキーパーソンはエリザベス女王の美穂と座付役者リチャード役の沙央の二人の専科勢。エリザベス女王の美穂はその圧倒的な貫録と歌唱力で、もうこの人以外には考えられない見事な女王ぶり。また、沙央は、書けなくなったシェイクスピアに再びペンをとらせるきっかけを作るリチャード役を感動的に好演した。「この世界でお前は何の役を演じるのか」というリチャードの問いは、シェイクスピアにだけでなく観客一人ひとりにとっても胸に響く問いとなったに違いない。

かくして「冬物語」は上演されるのだが、まだまだ次々にハプニングが起こり笑いと涙の内に大団円を迎える。幕が下りたあと初日の満員の客席すべてに、いいものを見たという満足感が充満していた。

澄輝さやと、凛城きら、愛月ひかる、蒼羽りく、桜木みなとといったホープたちにもきっちり見せ場があり、期待の娘役星風まどかにも効果的なワンポイントがあり、宙組メンバーをフルに使い切った手腕も見事だった。




一方、「HOT EYES‼」は、1983年の花組公演「オペラ・トロピカル」(草野旦作、演出)以来33年ぶりに全場に大階段を使用するということで話題のショー。

大階段は、いまやレビューのフィナーレに欠かせない宝塚ならではの大道具。しかし、かつてはグランドレビュー以外の鴨川清作氏や草野旦氏が作る斬新なショーには大階段でのフィナーレのパレードがないのが普通だった。鴨川氏の「ノバ・ボサノバ」初演や草野氏の「ジュジュ」「ノン・ノン・ノン」などは実際フィナーレにパレードはなかった。しかし、当時の小林公平理事長が、宝塚歌劇を初めて見るファンのために、ショーにはラインダンスとトップスターが大きな羽を背負うフィナーレのパレードを必ず入れるように指示、それ以降のショーのフィナーレはすべて大階段のパレードがつくようになった。草野氏は約5分かかるパレードのためにショーの中身が短くなることに最後まで抵抗、大階段は使ってもパレードなしのショーを作ったりしていたが、それが理事長の不興を買い、それならばと全場大階段のショーを作ったのだった。使うからにはさすがにうまく使っていて感心した覚えがある。

今回の藤井氏の全場大階段使用の意図はよくわからないが、そんな抵抗の歴史とは全く関係のないところからのアイデアなので、全場に大階段があるというだけという印象で、階段を有機的に使って見せるという印象的な場面はどこにもなかった。全場に階段があるのにいちいち舞台転換で幕を下ろすという意味も不明。かえって前が狭くなり、窮屈に感じた。

とはいえ踊れるトップ、朝夏中心のショーということで、終盤にショパンの「ノクターン」をバックに裸足で踊るソロの素晴らしいナンバー(羽山紀代美振付)があり、ダンサーとしての朝夏の面目躍如だった。耳馴染みのあるJPOPのメドレーなど、音楽的には藤井の好みが横溢、全体的にはなんだかせかせかと忙しいショーだった。なかでは安寿ミラ振付による「dark EYES」が朝夏、真風、伶美の3人によるスタイリッシュかつムーディーな場面で印象に残った。ショーでも美穂、沙央の存在が大きかった。朝夏、真風に続く3番手に愛月をプッシュしてきたのが要注目。次いで澄輝、蒼羽、桜木、和希そら、瑠風輝と続いた。

©宝塚歌劇支局プラス1月3日記 薮下哲司


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