新人公演プログラムから抜粋転載
礼華はる、さわやかに本領発揮、月組公演「今夜、ロマンス劇場で」新人公演
月組の男役ホープ、礼華はる主演によるミュージカル・キネマ「今夜、ロマンス劇場で」(小柳奈穂子脚本、演出)新人公演(平松結有担当)が、25日、宝塚大劇場で行われた。「桜嵐記」新人公演で初主演を務めた礼華が、二度目にして最後の新人公演に挑んだが、大地真央から天海祐希へとつながる月組伝統の若々しく華やかな個性が礼華の一挙手一投足からにじみでて、久々に月組らしいスターを見る思いだった。
「今夜、ロマンス劇場で」は、映画の中からヒロインが飛び出してきて主人公の青年と恋に落ちるというファンタジーで、綾瀬はるか、坂口健太郎主演の映画をもとに小柳氏が宝塚バージョンとしてミュージカル化したもの。この手のファンタジーは、リアルな映画より宝塚の方が似合っていて、作品が本来意図するものもストレートに伝わったのではないかと思う。前半は撮影所のドタバタで笑わせておいて、後半は切ないラブストーリーという鮮やかな展開にファンは完全に涙腺を崩壊させられたようだ。
新人公演は、本公演の達者なメンバーには及ぶべくもないが、作品の力があと押ししたかのように、主演の礼華を筆頭として全員がさわやかに走りぬき、非常に好感のもてる舞台だった。月組はこのところ作品に恵まれていて、新人公演メンバーの努力がしっかりと成果に結びつき幸運というほかない。
月城かなとが演じた牧野健司役の礼華は、登場しただけで周囲に日が差すようなその恵まれた容姿が大きな魅力だが、周囲が作りこんだ芝居をするなかで自然体の演技が、前半はやや物足りなくみえた。ところが後半にそれが逆に生きてきて、主人公のピュアな心根を鮮やかに浮き上がらせた。なんとも言えないさわやかさがこの人の身上で、そのいい部分が存分に発揮できた公演となった。セリフに腹の据わった力強さが加わればさらに大きく伸びそうな予感、歌唱も安定感があり、今後の活躍を期待したい。
ヒロインの美雪(海乃美月)には、106期の花妃真音(はなひめ・まのん)が抜擢された。お姫様役にふさわしい清楚な美貌の持ち主で宝塚の娘役の王道タイプだが、受け身だけではなく行動的な部分もしっかりとこなしていて歌唱も充実、研2とは思えない地に足の着いた落ち着きも見せてくれた。月組には実力があって美しい娘役が豊富で、そんななかで今後どんな位置を獲得できるか温かく見守りたい。
鳳月杏が演じた京映の人気スター、俊藤龍之介は101期の彩音星凪。新人公演の長の期で、映画全盛期の映画スター役への挑戦。派手に大きく演じたが、役に体が馴染んでいない硬さがあって、ここはやはり鳳月の身体全体から醸しでる柔軟なスターオーラをもっと盗んでほしいところ。ビジュアルは申し分ない。
公演中に星組組替えが発表された暁千星が演じている宝塚オリジナルの大蛇丸は105期の七城雅(ななしろ・みやび)。初めて聞く名前だったが、長身で暁そっくりのメイクや銀髪のカツラ、派手な衣装がよく似合い、オーバーに作りこんだ芝居が堂に入っていてなかなかの大物ぶりを発揮した。今後に注目したい。
健司の助監督仲間・山中伸太郎(風間柚乃)は真弘蓮。前回の新人公演では専科の一樹千尋が演じた後醍醐天皇役を圧倒的な存在感で演じて注目したが、今回も、風間にひけをとらない押し出しのある演技を見せてくれた。
このほかで印象に残ったところでは男役では、社長役(千海華蘭)の一星慧の長身を生かした貫禄、プロデューサー、清水(夢奈瑠音)の瑠皇りあの堅実さが作品自体の底上げに大きく貢献、娘役では月の精霊ディアナ(晴音アキ)の天紫珠李、彩みちるが演じた塔子役に扮した結愛かれんが、いずれも新人公演ヒロイン経験者であり、これまでの場数の多さがものをいい、さすがに安定感抜群だった。
きよら羽龍が舞台上での怪我のため急きょ休演、白河りりが自身の役も含めいろんな役をこなしながら代役の女優役、萩京子を華やかに演じたのも特筆したい。
一方、今年の阪急電鉄の初詣ポスターに起用された研1の一輝翔琉(いちき・かける)が本公演では礼華の役である大蛇丸の従者役で蘭世惠翔とコンビを組んで溌溂としたところを見せたのも注目。新人公演オリジナル「ベルばら」のパロディーには大爆笑だった。研1生はほかにも天つ風朱李が鳩三郎役に起用され初々しいところを見せるなど若手の大胆な抜擢が目だった公演でもあった。
オミクロン株の蔓延で、いつどんな事態になるかもしれない中での新人公演、終演後の天紫と礼華のあいさつも「この状況で新人公演を最後までやりとげることができて本当に幸せ」と口をそろえた。東京の花組公演が30日から再開が決まったことは何よりの朗報だ。
©宝塚歌劇支局プラス1月26日記 薮下哲司