©️宝塚歌劇団
芹香斗亜主演、宙組公演、ミュージカル「プロミセス、プロミセス」開幕
宙組の人気スター、芹香斗亜を中心としたミュージカル「プロミセス、プロミセス」(原田諒翻訳、演出)が13日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティでの開幕を前に12日舞台稽古が公開された。ジャック・レモン、シャーリー・マクレーンが主演、アカデミー賞を受賞した傑作コメディ「アパートの鍵貸します」(ビリー・ワイルダー監督)のミュージカル版で、宝塚的にはちょっぴりきわどいお話なのだが、原田演出は男女の機微をじっくり描くことに心血を注ぎ、芹香の好演もあって心にしみる舞台に仕上がった。
ニューヨークはマンハッタン、とあるアパートの一室、目覚まし時計の音でベッドからパジャマ姿で起き上がった青年チャックがこの物語の主人公。芹香はパジャマ姿で登場という意表を突いた幕開きだ。歯磨きそして着替えて、満員電車に揺られて出社という独身サラリーマンの朝をバート・バカラックのテンポのいい音楽とともに歌とダンスで展開するオープニングが快調だ。
退社後、行きつけのバーで一杯やっていると上司のドービッチ(若翔りつ)とばったり、連れの女性シルヴィア(花宮沙羅)の体調が悪いから休ませてほしいといわれアパートの鍵を渡したことがきっかけで、次から次へと上司にカギを貸す羽目になり…。ついに人事部長のシェルドレイク(和希そら)からも依頼が舞い込む始末。出世のチャンスと喜んで貸すことにする。そんなチャックも社員食堂で働くフラン(天彩峰里)に心惹かれているのだが、フランには別にお相手がいる様子。会社のクリスマスパーティーの夜、その相手がシェルドレイクであることが分かって……。細かい設定が少し変わっているがストーリーそのものは映画とほぼ同じ。映画をもとにしたニール・サイモンの脚本がよく書けているのと、バート・バカラックの軽快なメロディーがこの都会派サラリーマンコメディにぴったりあって、結構深刻なテーマが暗くならずにからっと仕上がった要因だろう。もちろん主演の芹香のなんともいえない明るい個性がこの作品の成功のカギでもあった。
実はこの作品、日本では5度目の上演(3度目と書いたらいろいろ教えて頂きました)で、一回目は1971年、東宝がチャックに北大路欣也とフランに那智わたるの主演で上演、次いで1988年に薔薇座が「アパートの鍵貸します」の題名でチャックに岸野幸正、フランに戸田恵子、シェルドレイクに安﨑求という配役で上演。次いで直近は2013年、今回と同じ「プロミセス、プロミセス」のタイトルで上演。チャックは中川晃教と藤岡正明のダブルキャスト、フランが大和悠河、シェルドレイクは岡田浩輝だった。今回、愛海ひかる休演で留依蒔世が演じている二幕冒頭に登場するマギー役を樹里咲穂が演じていて絶品だった。「ハウ・トゥー・サクシード」と同じでこの手のミュージカルは、女性だけの宝塚では難しく、今回もやや不安だったのだが芹香はじめ宙組メンバーの適材適所の好演で、その心配は無用だった。
芹香のチャックは、映画のジャック・レモンとは違って長身でかっこよく、一見女の子にもてないはずはないと思わせるが、お人好しでマイペース、他人を寄せ付けないけれどどこか憎めない、いるいるこんなタイプと思わせるピュアな青年像を見事に体現。コメディセンスも抜群で、芹香の代表作の一つになりそうだ。
フランの天彩峰里も、妻子ある男性を愛してしまうが、周囲に流されずはっきりした自我を持つ女性として演じていて、演技派らしい役作りで好演した。ラストの電話のくだりが感動的、ここは原田演出の巧さが際立った。このミュージカルで一番有名な曲を歌うのも聴きどころだ。
フランの不倫相手シェルドレイクを演じた和希そら。本来はかなり年長の役どころをやり手の青年部長的な感じで演じている。全女性の敵のような役回りだが、そこは演技巧者の和希のこと、フランが真剣になるのもむべなるかなといった魅力的な部長像を作り出している。ソロの歌唱も聴かせた。
専科入りして初の出演となる輝月ゆうまのチャックの隣室に住む医者役も物語に大きく絡むキーパーソン。輝月ならではの適役好演だった。二幕冒頭でチャックに絡むマギー役の留依も急な代役にもかかわらず、これまでにない役どころを品を落とさずコミカルに演じて好印象だった。留依はフランの兄カール役との二役となった。
他の出演者のアンサンブルもよくまとまっていて、非常によくできたウエルメイドなミュージカルだった。見終わってさわやかな気持ちで劇場を出られるのはやはり一番だ。
この舞台、著作権の関係でライブ配信がなく、DVDの発売も決まっていないので、観劇を迷っておられる方はぜひ今のうちにチケットを押さえることをお勧めしたい。
©宝塚歌劇支局プラス11月12日記 薮下哲司
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