©️宝塚歌劇団 新人公演プログラムより転載
天飛華音、一回り大きく成長「柳生忍法帖」新人公演
星組期待のホープ、天飛華音(あまと・かのん)の「GOD OF STARS食聖」以来2年ぶり2度目の主演となった宝塚剣豪秘録「柳生忍法帖」(大野拓史脚本、演出)新人公演が12日、宝塚大劇場で開かれた。星組にとっては1年8か月ぶりの新人公演となり、出演者全員のやる気がじかに客席に伝わる熱い舞台となった。
「柳生忍法帖」は、隻眼の若き天才剣士、柳生十兵衛(本役・礼真琴/天飛)が、藩主、加藤明成(輝咲玲央/風真斗愛)の暴虐ぶりに愛想をつかし謀反を起こしたものの捕らえられた家老、堀主水(美稀千種/颯香凛)から家中の女性たちに仇討ちのための剣術指南と護衛を任され、加藤側の部下、芦名銅伯(愛月ひかる/碧海さりお)らの妨害をかわしながら彼女たちに本懐を遂げさせるまでを描いたアクション時代劇。これに銅伯の娘、ゆら(舞空瞳/瑠璃花夏)が十兵衛に一方的にほれ込んで十兵衛の危機を救うエピソードや銅伯と双子の兄、天海大僧正(愛月/碧海)の因縁話が絡む。ざっとこんな物語だが、枝葉の情報が多すぎて初見では何が何だかわけがわからず、新人公演を見てようやく全貌がつかめた。
堀一族の女性たちが7人、銅伯の部下、七本槍のメンバーが7人、これに鎌倉東慶寺の千姫(白妙なつ/澄華あまね)と天秀尼(有沙瞳/水乃ゆり)らの尼チームがそれぞれ大きな役回りを受け持っており、出演者にはやりがいがあるだろうが、見物にとってこれだけ登場人物が多いといちいち憶えておられずいらだちさえ感じた。新人公演は全体の出演者人数が少ないこともあってそのあたりは非常にすっきりとした。それにしても十兵衛とヒロインゆらの関係性はどう見ても突飛だし、銅伯に娘のゆらに乗り移る力があったりするのもいたずらに混乱を招き、そんな不死身の銅伯の最後があっけないことこのうえなく、どちらも本筋にはあまり関係がないことがよくわかった。結構面白い話なのだが、それがわかるまでに時間のかかる舞台である。何度も見てほしいという策略かも。
二度目の主演となった天飛は、眼帯を付けての登場だが独眼でも目力があり、思わず引き付けられるような迫力と魅力に満ちていた。稽古中にのどを痛めたというが、ほとんどそれ感じさせない力強いセリフと歌には感服。大柄ではないが煌めくような輝きがあり、これからの活躍が大いに楽しみだ。フィナーレのソロで感極まったのかやや声が上ずったが、それ自身、芝居でカバーしたところに大物の器量を見たような気がした。
ヒロインゆらの瑠璃もオープニングのわらべ歌のソロからリリカルな歌声で聞かせ、十兵衛に対する一方的な恋心も、可憐な容姿のどこからこのパワーがの出るのかと思うほどの熱い演技で、脚本の無理をカバーした。初めての大役だが舞台度胸の良さで彼女も今後の活躍が楽しみだ。
銅伯の碧海は、一度主演経験がある人がサポート役に回ると力以上のものが出るという典型的な例で、本役の愛月を手本に見事な銅伯を体現した。後半は鬼気迫るものがあった。
銅伯の部下、七本槍のメンバーは漆戸(瀬央ゆりあ)が咲城けい、香炉(極美慎)が大希颯(たいき・はやて)鷲ノ巣(綺城ひか理)が御剣海(みつるぎ・かい)平賀(天華えま)が奏碧(そーあ)タケルといったメンバー。それぞれ個性的で豪華な衣装に身を包みカッコいい剣さばきを披露、リーダー格の咲城の堂々たる居住まいが印象的だった。大希の美丈夫にも注目。
堀一族の女性たちは主水の娘、お千恵(小桜ほのか)に扮した星咲希(ほしさき・のぞみ)の熱演が目を引いた。
そして千姫役の澄華の圧倒的な貫禄と存在感、天秀尼役の水乃の情感あふれる繊細な演技、堀主水と柳生宗矩の二役を演じた颯香(さやか)の芝居心ある表現力、沢庵和尚(天寿光希)の夕陽真輝の包容力ある演技、そして暴君、加藤役の風真の見事な悪役ぶり、この5人の役を理解した的確な演技が、この舞台を大きく下支えした。澄華は実質的にこの舞台の主役に見えた。
あと沢庵和尚に仕える見習い僧で十兵衛に憧れる、多聞坊(天飛)に扮した稀惺(きしょう)かずとも初々しくもさわやかな演技で好印象だった。
公演後、天飛は「新人公演が私たちにとってどれだけ学びの場であるか身をもって実感しています」と1年8か月ぶりの新人公演に感極まって涙で声を詰まらせ、満員の客席から励ましの大きな拍手が送られた。
©宝塚歌劇支局プラス10月12日記 薮下哲司
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天飛華音、一回り大きく成長「柳生忍法帖」新人公演
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