©️宝塚歌劇団
礼真琴 剣豪役で本領発揮!愛月ひかるも有終の美 星組公演「柳生忍法帖」開幕
礼真琴を中心とした星組による宝塚剣豪秘録「柳生忍法帖」(大野拓史脚本、演出)とロマンチック・レビュー「モアー・ダンディズム!」(岡田敬二作、演出)が18日、宝塚大劇場で開幕した。愛月ひかるのサヨナラ公演でもある「柳生‐」は山田風太郎原作による同名時代小説の舞台化、「モアー」は岡田敬二氏のロマンチック・レビューシリーズの21作目。これまでの名場面集といった感じの集大成的な新作だ。
「柳生‐」は、会津藩主・加藤明成(輝咲玲央)の暴政に反旗を翻し、加藤に捕縛された家老・堀主水(美稀千種)は柳生十兵衛(礼)に残した一族の女たちの護衛と剣術の指南を依頼する。十兵衛は、その女たちに迫る加藤側の剣客、芦名銅伯(愛月ひかる)と彼が率いる7人の剣豪、七本槍の面々と次々に剣をまじえながら女たちに本懐をとげさせるために芦名との対決に挑む。大筋はこんな感じだが、膨大な小説をコンパクトにまとめようとするあまり人物関係の情報量が多すぎて、観客に対する説明不足がおびただしく、一度見たぐらいではとうてい追いつけない。事前予習していたので、十兵衛と芦名の娘ゆら(舞空瞳)との関係性などはある程度理解ができたのだが、予備知識なく見たら、二人の不可思議な関係はこれではちょっとわかりづらい。
一方、十兵衛が指南役に依頼されるまでの序幕が長く、一通り終わってから礼十兵衛が銀橋から登場。華やかなプロローグになるのだが、この序幕で女性を蹂躙した男たちへの復讐話がメーンにしたため、肝心の十兵衛と芦名の対決の構図が付け足しのようになってしまったことが全体の構成として計算違いだったかも。
とはいえ十兵衛役の礼の確かな歌唱力と身体能力抜群のシャープな殺陣は目の覚めるような素晴らしさ。トレードマークの眼帯を付けての登場だが、精悍さが増して男役として一回りも二回りも大きく見えた。剣を持った時の鋭さと、剣を置いた時のやんちゃでコミカルな立ち居振る舞いのバランスも抜群だった。
相手役の舞空は、愛月扮する加藤側の剣客、芦名の娘で加藤の側室、ゆら。十兵衛は憎むべき敵なのだが、人間的な魅力に惹かれていくという役どころだ。設定自体すでに結ばれることがなく結末も見えているのだが、人形のように美しい晴れ着姿のお姫様といった外見からは裏腹な、地に足のついた自立心のあるゆらを的確に表現していた。
この公演で退団する愛月は、十兵衛と敵対する謎の男、芦名銅伯。不死身で108歳という設定。長い白髪が強烈なインパクトで陰のある悪役像を浮き上がらせて有終の美を飾った。双子の兄、天海大僧正役と二役で登場するが、この二役は見るものを混乱させていて、熱演している愛月には悪いが、ここは役を一つにした方がわかりやすかったと思う。
芦名の配下である七本槍が、瀬央ゆりあ以下星組若手に振り分けられた。漣レイラ、ひろ香佑、綺城ひか理、天華えま、極美慎、碧海さりおといったメンバーだ。順番に十兵衛の手にかかって死んでいく。リーダー格、漆戸虹七郎の瀬央と美丈夫、香炉銀四郎の極美が最後まで残る。十兵衛と敵対する敵役とはいうものの、全員個性的で面白い。ただ、この7人にあまり時間が割けないので随分中途半端な扱いなのが惜しかった。一本立ての大作だと生きる役だ。
ベテラン勢では千姫の白妙なつの貫禄が舞台を締め、沢庵和尚の天寿光希、お圭の音波みのり、天秀尼の有紗瞳らに見せ場があり印象に残った。あと沢庵の弟子、多聞坊の天飛華音の溌溂とした若さが目に焼き付いた。
ロマンチック・レビュー「モアー・ダンディズム!」は岡田氏のロマンチック・レビューのなかのダンディズムシリーズの三作目。幕開きや中詰めの「キャリオカ」などなど、これまでの名場面を振付もほぼそのままに再現、なんとも懐かしくなんだかホッとするステージだ。
新味はないがセンターが、歌えて踊れて、今最も脂の乗っている礼なので、昭和の匂いのするレビューが2021年の香りに生まれ変わったのも確か。瀬央と綺城がタンゴで絡むシーンから始まる「ハードボイルド」のスタイリッシュなダンスが礼に似合っていた。
退団する愛月のための場面もふんだんにあり、プロローグのあと間奏曲「薄紫のとばりの向こう」の銀橋ソロ、「ゴールデンデイズ」での軍服姿、そしてフィナーレでは礼と舞空のデュエットダンスに歌手として参加「アシナヨ」を礼から歌いついで最後は3人で挨拶、万雷の拍手となった。
恒例の初日あいさつで礼は「愛さん以下この公演で7人が退団します。今しか見られない星組をしっかりと目に焼き付けてください」と退団する愛月を紹介。愛月も笑顔で答えるなど和気あいあい、なんとも素敵なフィナーレだった。
©宝塚歌劇支局プラス9月18日記 薮下哲司
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