©️宝塚歌劇団
水美舞斗、本領発揮の晴れ舞台、花組「銀ちゃんの恋」大阪公演開幕
宝塚のマイト・ガイことマイティ、水美舞斗に「銀ちゃんの恋」を、と考えたプロデューサーの慧眼にまず快哉したい。水美を中心とした花組による「銀ちゃんの恋」(石田昌也潤色、演出)の大阪公演が2日、梅田芸術劇場シアタードラマシティで開幕した。水美は、久世星佳、大空祐飛に次いで三代目の倉丘銀四郎役で、開幕アナウンスにも三代目襲名挨拶があるという最初から人を食ったお遊びモード満点の舞台。男役として充実期を迎えた水美がまさにうってつけの役にめぐりあい、水を得た魚のように生き生きと演じ切った。
原作の「蒲田行進曲」(つかこうへい作)は、1980年、加藤健一、柄本明、根岸季衣の主演で初演され、その後直木賞を受賞、風間杜夫、平田満主演で再演されて、爆発的ヒットとなり映画化もされ、錦織一清、草彅剛によるジャニーズ版も上演された人気戯曲。京都・太秦の撮影所を舞台に、自己チューな人気俳優、銀ちゃんとその恋人で、一世を風靡した落ち目の女優、小夏、銀ちゃんに私淑する大部屋俳優ヤスのただならぬ三角関係を撮影所の旧弊なしきたりをややオーバーに絡めながら描いた屈折した純愛物語。妊婦がヒロインという設定は現実的過ぎて、わざわざ宝塚でやる演目ではないと思ったのだが、あにはからんや本音でぶつかり合う3人の生きざまが、タカラジェンヌのピュアな演技で深い感動を呼び、初演から3度再演、今回は11年ぶり4度目の上演。
とはいえ再演には銀ちゃん役にふさわしい男役が必須条件。13年目となった水美がぴったりとはまった。すでに東京公演が終わっており、ごらんになった方も多いので多くは書かないが、久世星佳、大空祐飛とはまた違った水美独自の銀ちゃんになっていて、自己チューなのにどこか憎めない、とりわけ二部の小夏との撮影所でのくだりでの去り際の孤独感の表現が見事だった。これまでの公演をご覧になった方なら理解してくださるだろう。膨大なセリフをよどみなく、時折ダンサーらしくかっこよくポーズをつけるあたりも水美ならではの粋さだった。
ヤスの飛龍つかさは、汐風幸、華形ひかる、北翔海莉に続く4代目。惚れた男に命がけで尽くす一途な男。出演者が発表されたときからヤスは飛龍だろうと容易に予想がついたが、その通りの配役となり、素直にストレート勝負で挑み、予想を裏切らない好演だった。故郷での結婚式の場面、銀ちゃんと小夏の会話を聞いてしまう撮影所の場面、クライマックスの階段落ち本番前の場面、いずれもヤスの心情を繊細に浮かび上がらせた。
小夏は星空美咲。入団3年目.。1月のバウ公演「PRINCE OF WALES」に続く大抜擢となった。いわゆる宝塚の娘役ヒロインとは違う難役で小夏の出来が作品を大きく左右する重要な役で、経験の浅い星空がどう演じるかやや不安だったのだが、前回のバウ公演と同一人物とは思えない熱演で、銀ちゃんとヤスの間で揺れ動く女心を的確に表現した。初めて見る人にとっては何の違和感もなかったと思う。ただこの役は前回、野々すみ花が完璧に演じていて、その残像がまだ脳裏にある人にはやや分が悪いかも。とはいえ星空にとっては大きなジャンピングボードになったと思う。
専科から悠真倫が監督役、ヤスの母に京三紗がそれぞれ特別出演。悠真は2008年の花組公演以来二度目の出演となるが安定感はさすがだった。ほかに銀ちゃんのライバル橘の帆純まひろ、銀ちゃんの新しい恋人、朋子役の都姫(みやひめ)ここあたりがめだつ役。かつて望海風斗や愛月ひかるが演じた銀ちゃんの親衛隊グループの一人、ジミーは侑輝(ゆき)大弥が演じ焼き肉屋の場面や池田屋での沖田総司役でひときわ目立っていた。
©宝塚歌劇支局プラス9月2日記 薮下哲司
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