©️宝塚歌劇団(新人公演プログラムより抜粋転載)
縣千×音彩唯のフレッシュコンビで「CITY HUNTER」新人公演
雪組のホープ、縣千と入団3年目の音彩唯(ねいろ・ゆい)主演によるミュージカル「CITY HUNTER」―盗まれたXYZ―(斎藤吉正脚本・演出)新人公演(指田珠子担当)が31日、宝塚大劇場で開かれた。枝葉が多すぎて幹の部分が埋もれてしまった感のある作品だが、縣以下新人公演メンバーの半端ではない役作りは、本公演に劣らないものがあり若さならではの躍動感に満ちたフレッシュなステージとなった。
時は1989年。日本流にいうと平成元年だから今から32年前、昭和の匂いが色濃く残る東京新宿が舞台。アフリカ中部の架空の小国グジャマラ王国で軍事クーデターが起こり、王族が処刑され唯一生き残った王女アルマがシティーハンターの冴羽りょうに保護を求めて極秘に日本にやってくるというのが発端。最近のアフガニスタンの緊迫した情勢を見ているとなんとも生ぬるい設定で見ていて気恥ずかしくなるが、そこは漫画と割り切って見物するしかない。冴羽の少年時代のエピソードやヒロイン槇村香の兄・秀幸が開幕早々射殺され、その後ゴーストとして登場するあたりはいいとして、枝葉のエピソードが多すぎるうえ登場人物が多く、テンポが速すぎてみる方が整理においつけないという不親切さは新人公演を見て改めて感じた。終わってみればストーリーのつじつまはきちんとあっているので問題はないのだが……。
「ルパン3世」と同じように出演者の役に対するつくり込みのすごさは本公演も顔負け。なかでも縣の冴羽(本役・彩風咲奈)は、ぎりぎりのところで品を落とさずスマートに演じていて、芝居巧者の面目躍如たるものがあった。「ほんものの魔法使」の犬役や、今回の海坊主と異色の役が続いているが、「ワンスアポンアタイムインアメリカ」のマックス役以来の新人公演で鮮やかな好演ぶりだった。前半、歌唱が不安定でハラハラしたが、後半立ち直り、本公演では隠している凰稀かなめ似の美貌をふんだんに見せてくれたのも眼福だった。
相手役の槇村香(朝月希和)役に抜擢された音彩は、縣と並ぶと随分小柄に見えたが、アイドル系の可愛さに似合わず白羽ゆりに似た芯の通った実力の持ち主で大型娘役の予感。歌にも安定感があった。なにより巨大ハンマーを振り回して熱演する舞台度胸の良さが気持ちよかった。
朝美絢が演じたミックは彩海せら。冴羽とはかつての相棒で今はライバルといった関係性を、縣と息の合ったやりとりでうまく表現、「壬生義士伝」新人公演のころとは見違えるほどの大人の粋な雰囲気を出していた。
綾凰華が演じた香の兄・秀幸は眞ノ宮るい。よれよれのトレンチコートにサングラスというスタイルで、常に冴羽と香の前にゴーストとして登場。時には舞台の進行役も兼ねた難役だが、二人を優しく包み込むような包容力のある演技で印象的だった。
娘役では色っぽい刑事、野上冴子(彩みちる)を希良々うみ、アルマ王女(夢白あや)に研2の華純沙那(かすみ・さな)が抜擢された。希良々の体当たりの熱演も迫力満点だったが、華純の凛とした王女ぶりも特に印象的。
研2といえば「ほんものの魔法使」で注目された華世京が、女優・宇都宮乙(羽織夕夏)の行方不明の息子・豊(彩海)を演じ、整った容姿に加えて芝居心のある演技で目を引いた。ほかに縣が本公演で演じている海坊主に扮した壮海はるまの怪演も特筆もの。偽CITYHUNTERにさせられるマサ(諏訪さき)の聖海由侑(せいみ・ゆう)とジャーナリスト葉子(野々花ひまり)の夢白あやのコンビもいい味を出していた。夢白がこんな弾け方をしたのをはじめてかも。
海原神(夏美よう)の一禾あお、野上警視総監(奏乃はると)の汐聖風美、ジェネラル(真那春人)の星加梨杏のなりきりぶりも見事だったが、冴子の助手の織田(星加)を演じた紀城(きしろ)ゆりやの清潔感あふれるさわやかさも印象的だった。
©宝塚歌劇支局プラス8月31日記 薮下哲司