©️宝塚歌劇団
彩風咲奈、朝月希和 雪組新トップお披露目公演「ヴェネチアの紋章」「ル・ポァゾン」
雪組の新トップコンビ、彩風咲奈と朝月希和のお披露目全国ツアー、ミュージカル・ロマン「ヴェネチアの紋章」(柴田侑宏脚本、謝珠栄演出)とロマンチック・レビュー「ル・ポァゾン愛の媚薬‐Again」(岡田敬二作、演出)の名古屋・愛知芸術劇場大ホールでの公演が13日ライブ配信された。
「ヴェネチアの紋章」は1991年、当時の花組のトップコンビ大浦みずきとひびき美都のサヨナラ公演として上演された中世ヴェネチアとコンスタンチノープル(イスタンブール)を舞台にしたコスチュームプレイ。人気絶頂だった大浦のサヨナラ公演とあって、プレミアのつく大人気公演となったが、柴田作品としては中くらいの出来栄えで、まさか新トップコンビのお披露目公演として30年ぶりに再演されるとは思いもよらなかった。
物語は、元首の息子であるものの正当な世継ぎではないため愛する人リヴィア(朝月)と結ばれず、母の故郷トルコに旅立っていたアルヴィーゼ(彩風)が、10年ぶりにヴェネチアに帰って来たところから始まる。アルヴィーゼは舞踏会で人妻となったリヴィアと再会、モレッカの情熱的なダンスで愛が再燃、愛する人を取り戻すために必要な”紋章”を手に入れるためにトルコのハンガリー遠征に参加するが、それが裏目に出て壮絶な戦死。それを知ったリヴィアも海中に身を投じるという結末だ。
語り部のマルコ以外の主な登場人物は全員非業の死を遂げる。同じ戦死でも「桜嵐記」のような一途な思いとは違って救いがない。謝演出は青い影という主人公アルヴィーゼの心情を表現するかのような数人のダンサーを配して各場面を引き締めてはいるものの、あまり意味があるようには見えなかった。モレッカのダンスの場面だけがみどころという初演時と同じ思いが残った。
彩風は、長身のすっきりした佇まいに中世の豪華なコスチュームがよく似合い、登場シーンから華やいだ雰囲気が匂いたつ。センターがことのほかよく似合った。アルヴィーゼという役はトップを極めて退団時に演じた大浦とは真逆のこれからトップを務めるという彩風が演じる役ではないと思うのだが、10年間ずっと思いを胸に秘め、結ばれるために国王の座を奪い取ろうとする野望の男をさらっと演じてしまったところに彩風の男役としての懐の深さを見たような気がした。大劇場お披露目の「シティハンター」の冴羽が楽しみだ。
相手役の朝月も彩風にしっかりついていくといった風情がなんとも気持ちがよく、気の知れたコンビというのは見ていてつくづく安心感があるなあと感じ入った。ダンスシーン以外にそれほど大きな見せ場がある役ではないが、華やかなドレスもよく似合い、持ち前の歌唱も聴くものを引きつける力があった。
語り部的な二番手の役、マルコは綾凰華が演じた。初演では1公演だけ二番手となった安寿ミラが演じたアルヴィーゼの親友という役どころでページをめくって閉じる役。新人公演以外ではおそらく初めてといっていい大役だと思うが、さわやかに好感度十分にこなした。
ほかにビットリオの諏訪さき、ジョヴァンニの眞ノ宮るい、エンリコの彩海せらが若手3人組が溌溂とした存在感を発揮。娘役ではオリンピア役の夢白あやがポイントを稼いだ。
「ル・ポァゾン‐」も1990年の初演は剣幸、こだま愛のサヨナラ公演のショー。伝説のロマンチック・レビューとなり、再演希望が高く2011年に柚希礼音、夢咲ねね、凰稀かなめの中日劇場公演で再演、続いて蘭寿とむ、蘭乃はな、華形ひかるの花組全国ツアーで上演され、今回が4度目。偶然にも、芝居、ショーとも初演はサヨナラ公演の演目という組み合わせとなった。
「Again」とサブタイトルがついている通り、ほぼ初演を踏襲したつくり。いくつかのパートに分かれて各場面に彩風のキレキレのダンスがふんだんにあって朝月とのデュエットを含めて眼を楽しませてくれた。ジゴロ、闘牛、白燕尾と場面的にもメリハリが効いていてそれぞれが際立つように構成されているのがさすがだった。
初演で涼風真世が演じたパートを綾と諏訪が分け合うといった形になっていて、芝居では若手3人組だった諏訪がショーでは大抜擢で、ダブル二番手的な重要な立ち位置で、オープニングの歌手はじめ歌にダンスに大活躍。ショースターとしての実力を存分に発揮した。
綾は闘牛のナルシスノワールの場面で彩風の相手役で踊った。ここは男役同士の妖しい雰囲気を見せる場面だがこの二人が踊るとただただ美しかった。美しいといえば夢白の美貌も各場面でひときわ目を引き、容姿だけでなく歌声の美しさも再確認。
フィナーレの彩風、朝月のデュエットダンスは名曲「アマポーラ」が使用され、優雅な場面となった。映画の「ワンスアポンアタイムインアメリカ」で効果的に使われた曲だが宝塚版では使われなかったので、岡田氏がここで使用したという。二人の門出の曲としてロマンチックにまとまった。
サヨナラ公演用の芝居、ショーを披露公演で再演するというかつてない組み合わせの公演、少々疑問を感じていたのだが、見終わったあとは彩風と朝月の堂々としたトップコンビぶりにすっかり魅了されていた。
©宝塚歌劇支局プラス6月13日記 薮下哲司