Quantcast
Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
Viewing all articles
Browse latest Browse all 575

月組ホープ朝美絢 最後の新公「舞音」

$
0
0



月組ホープ、朝美絢主演「舞音」新人公演

月組のホープ、朝美絢最後の新人公演主演となったミュージカル「舞音」(植田景子脚本、演出)の新人公演(同)が、1日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様を報告しよう。

アベ・プレヴォ原作の「マノン・レスコー」をもとに舞台を1920年代のフランス領インドシナ(現在のベトナム)に移し変えて舞台化した「舞音」の新人公演は、ほぼ本公演通りに進行、朝美以下、懸命にこの難しい作品に挑み、いかにも新人公演らしい、未熟だがいずれは成熟する青い果実のような甘酸っぱい公演だった。

新人公演を見ると、初見のときにはわからなかったこの作品の長所や欠点など作品の全体像が改めてうかびあがってきた。未見の方はこの先を飛ばしてもらいたいが、一番の欠点はシャルルとマノンの結びつきの関係性が弱いということだろうか。シャルルがマノンに一目ぼれして、一方的におぼれていくのはわかるとして、マノンが、最初、多くのパトロンたちの一人にすぎないと思っていたシャルルが特別な存在になる、そのきっかけの描写がどうみても薄い。後半は、マノンが独立運動派のスパイの嫌疑をかけられて投獄され、そこから救出しようと奔走するシャルルの話が中心になり、シャルルのマノンへの愛の強さは納得できるが、マノンのシャルルへの愛は?のままで、そのままハロン湾での道行になだれこんでも、マノンへの感情移入は難しかった。ただ、ラストシーンの幻想的な雰囲気は、それだけでかなりの得点は稼いでいた。原作によりかかりすぎて、人物描写が雑になってしまったことが原因か。後半がやや性急すぎて時間が足りないようにも思う。装置や音楽、振付に外部の精鋭を起用した冒険心は大いに買えるが、その効果は半々。様々な事情はあったにせよ、宝塚の優秀なスタッフをもっと信頼してほしいと思ったのは私だけだろうか。

さて、主演の朝美は、昨年の「PUCK」以来の新人公演主演で、これが最後の新人公演。「PUCK」が、朝美の個性にぴったりとはまり、純粋な心があふれた見事なパックで、その後、バウでのワークショップ主演など、順調にスター候補生の道を歩みだした。今回のシャルル(本役・龍真咲)は、婚約者がいながら自由奔放なマノンにおぼれていくというパックとは正反対の難役。きりっとした現代的な風貌に、クラシカルな純白の軍服がよく似合い、かっこいいフランスの士官だったが、演者が自分で肉付けしないといけない役を生きるというにはやや未熟。歌唱も不安定で、課題を残した。役にうまくはまればいい資質を持っているので今後の活躍に期待したい。

相手役のマノン(愛希れいか)は叶羽時。「メリー・ウィドウ」のカンカンの場面でのアクロバティックなダンスで一躍、名前を覚えた人で、新人公演のヒロインと聞いたときは、そんな地道な努力が認められたのだろうと思い、素直にうれしかった。ただ今回のマノンは、素晴らしい踊り手である以上に、シャルルはじめ、男たちを一瞬で、射止めなければいけないセックスアピールが必要。それも上品なセクシーさである。宝塚の娘役には一番難しいところだ。登場シーンはよく頑張っていたので、その線で全体を作りこめばいいと思う。ただ奔放な部分と純真な部分の兼ね合いが難しいのでそのあたりの配分を間違わなければさらにいいものになるだろう。

マノンの兄クオン(珠城りょう)は暁千星。闇の世界に生き、マノンを食い物にしているダークな役。本役の珠城がそれほどダークには作っていないとはいうものの、暁となるとまるで好青年に見えた。いくらなんでももう少し陰影がほしい。

シャルルの親友クリストフ(凪七瑠海)は蓮つかさ。このドラマでは結局一番よく書かれている役。実力派の蓮だけに、巧みに心情を作り、印象的な役に仕上げていた。もう一人のシャルル(美弥るりか)は研3のダンサー、英かおとが抜擢された。抜擢に応えてよく踊っているが、大柄で朝美とは雰囲気も異なり、かなり違和感があった。そして、この役がやはりドラマに何の意味も感じられないことが、新人公演を見て改めてよくわかった。

ほかに警察署長ギヨーム(星条海斗)が朝霧真。謎の中国人女性オーナー、チャン(憧花ゆりの)に海乃美月。支配人ソン(宇月颯)に輝月ゆうま。シャルルの婚約者カロリーヌ(早乙女わかば)に美園さくら。独立運動に身を捧げるカオ(朝美)に夢奈瑠音とホマ(海乃)に紫乃小雪といったキャスト。なかではチャンの海乃とソンの輝月がさすがのうまさで目を引いた。独立運動家たちにはほかにトゥアン(暁)が輝生かなで、タン(蓮)に風間柚乃が配された。2人とも美形で台詞もあって要注目だった。研1にいたるまで幅広く役が付き、そういう意味では100年後の新体制の息吹が細部まで感じられる新人公演だった。

©宝塚歌劇支局プラス12月3日記 薮下哲司



○…宝塚歌劇を中心にした評論誌「宝塚イズム」(青弓社刊、薮下哲司、鶴岡英理子編)のリニューアル第2弾「32号」(定価1600円+税)が12月1日から全国の書店で発売されました。
巻頭は「PRINCE OF BROADWAY」で再スタートした生まれ変わった柚希礼音を特集。インタビューや今後の期待を。そして「ベルばら」から「るろ剣」に続く「マンガと宝塚の幸せな関係」を様々な角度から大特集します。ほかに話題作「星逢一夜」の魅力解剖、台湾公演レポート、各組公演の公演評、OG公演評。そして「CHICAGO」アメリカ・カンパニーに出演する湖月わたるのロングインタビューと宝塚ファン必読の一冊です。ぜひお近くの書店でお買い求めください。



Viewing all articles
Browse latest Browse all 575

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>