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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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和希そら主演 宙組バウホール公演「夢千鳥」開幕

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©️宝塚歌劇団

和希そら主演 宙組バウホール公演「夢千鳥」開幕

今最も勢いのある宙組の人気スター、和希そら主演の大正浪漫抒情劇「夢千鳥」(栗田優香昨、演出)が、22日、宝塚バウホールで開幕した。大正ロマンを代表する画家竹久夢二の世界を映画化するうちに自分と夢二が重なり合っていく映画監督のお話で、「NINE」をおもわせる栗田優香氏の力のこもったデビュー作。振付の原田薫氏の衝撃のダンスシーンが見どころで、映画監督と夢二の二役に挑戦した和希が熱演で応えた。

「宵待草」の郷愁を誘うメロディーが消え、暗転して幕が上がると、茂次郎少年(真白悠希)が父親の菊蔵(星月梨旺)から「絵を描くことをやめろ」と激しくののしられる場面が展開する。大正ロマンの懐かしくも柔らかいムードを予想していたら完全に裏切られ、一気に緊張感が走る。そんな茂次郎にやさしくするのは姉の松香(有愛きい)だけ。その松香も「あんたもいつかは運命の人にであう」といいおいて嫁いでいってしまう。姉を一途に慕っていた茂次郎の愛を求める旅はここから始まっていく。

10年後、銀色に輝く鳥たちが舞うなか茂次郎から名を変えた青年画家、夢二(和希)が登場、これからの人生に登場するさまざまな人物が鳥たちとともに交錯する中、主題歌を歌う。なかなか凝った出だしで思わず見入る。

場面変わって現代(とはいっても1970年代くらいの感覚)の空港。海外の映画祭で受賞した映画監督、白澤優二郎(和希二役)が記者たちの質問攻めにあっている。売れっ子監督の名前が黒澤ならぬ白澤というのには苦笑。映画会社の神崎社長(穂希せり)は次回作に「夢二」を提案、妻、他万喜役に白澤と同棲している女優、赤羽礼奈(天彩峰里)愛人、彦乃役にゴシップを噂されている新進女優を抜擢するという。そして映画はクランクイン。

舞台は映画の場面として竹久夢二の女性遍歴を描いていくことになる。夢二には売れない頃から夢二の才能を信じ苦楽を共にした他万喜という年上の正妻、純粋さ故に愛しぬいた病弱な箱入り娘、彦乃(山吹ひばり)、彦乃と引き裂かれたあとに出会う理想のモデル、お葉(水音志保)という3人の女性の存在があり、それぞれの愛憎劇が繰り広げられる。

和希は監督役だが、夢二としても登場、監督として演出するときは夢二役を秋音光が演じているので混乱する向きもあろうが、白澤なのか夢二なのか本人も混乱状態に陥っていく感じが巧みに表現されていた。

映画やドラマ、芝居などで何度も見た竹久夢二の世界。これまでは男性の目からから見た夢二だったが、今回はメーテルリンクの「青い鳥」をサブテーマに、女性目線で描かれていてそのあたりは興味深いものがあった。脇を固めるメンバーに下級生が多く、締まらないところがあったりして全体の構成としてはやや粗削りで、夢二の世界と監督の話が収斂されるラストにもうひとひねり欲しかったが、モダンダンスの異才原田薫を振付に招いた効果は最大限に生かされていて、思わず鳥肌が立つような衝撃の場面が少なくとも2つはあるなど、栗田氏の力のこもったデビュー作だった。今後、要注目の逸材だ。

「ハッスルメイト」以来二度目のバウ主演となった和希だが、前回はショー仕立てだったので実質的には今回が初主演。本公演でも大役が続き、実力を蓄えてきた絶好の時期での公演で、宝塚的にはかなりきわどい役どころを、しかも二役で難なくこなしてしまうあたりは只者ではない。夢二と他万喜の壮絶な夫婦喧嘩の場面でバックにタンゴダンサーが登場、喧嘩が情熱的なタンゴに変化していくくだりは秀逸、そしてクライマックスのソロのコンテンポラリーダンスには息をのむとともに鳥肌が立つすばらしさだった。宝塚の舞台でこんな感覚になったのはいつ以来だろう。

赤羽礼奈と他万喜の二役で相手役を務めた天彩の娘役としての充実ぶりにも驚かされた。監督と事実上の夫婦という女優役と、夢二の年上の妻、かつての天彩には考えられない役どころだが、和希を相手に堂々と渡り合い、新たな女役像を見せてくれた。持ち前の歌のうまさも際立った。

歌といえば要所を歌で締める歌手役の花音舞の存在も大きかった。かつて正塚晴彦作品の矢代鴻的な存在といえばわかっていただけるかも。

天彩と並んでヒロイン格の彦乃に起用された山吹は研3の娘役。可憐な容姿でひときわ目を引き、リリカルな歌声も耳にここちよく抜擢に応えた。セリフの声がややうわずって聞こえる時があり改善の余地がありそう。お葉役の水音も地に足の着いた芯のある演技で

堂々と演じ、しっかりと印象付けた。この二人は下級生なのでプログラムの写真ページには役名なしで小さな写真だけという扱い。これだけ大きな役なのだからせめて役名ぐらいは明記してほしかった。

ほか印象的だったのはバーのマスター藤岡などを演じた凛城きらと紺野役の留依蒔世の息の合ったコンビと若手俳優,西条と東郷青児の二役を演じた亜音有星のスターとしての存在感。彦乃の継母、定代役の美風舞良は宙組最後の舞台にふさわしい貫禄を見せてくれた。

留依の滑らかな歌から始まったフィナーレは、内容の重さを吹き飛ばさんばかりのパワフルでゴージャス。扇を持った男役ダンサーたちに囲まれた天彩の華やかなレビューエトワール、亜音をセンターにしたラインダンス、そして和希を中心にした男役燕尾服のダンスからデュエットダンスとレビューのエッセンスてんこ盛り。和希のセンターがことのほかよく似合った。

和希は「こんな時期に来てくださって本当にありがとうございます」と感謝の言葉。「えっと思われる場面もあったと思いますがテーマは“愛を求める”ということ。いろんな愛があることを皆さんにも考えて頂けるきっかけになれば」と続け「千秋楽までもっともっと精進していいものにしていきたい」と締めくくり大きな拍手に包まれていた

公演は5月3日まで。

©宝塚歌劇支局プラス4月22日記 薮下哲司

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