©️宝塚歌劇団
珠城りょう、プレサヨナラは幽霊役!月組バウ公演「幽霊刑事」
8月退団が決まっている月組のトップスター、珠城りょうのプレサヨナラ公演、バウ・プレイ「幽霊刑事(でか)」~サヨナラする、その前に~(石田昌也脚本、演出)が宝塚バウホールで上演中。20日には全国各地の映画館でライブビューイング、ライブ配信も行われた。
「幽霊刑事―」は、有栖川有栖の同名原作の舞台化。珠城は巴東署の刑事・神崎という役どころ。同僚の刑事、森須磨子(天紫珠李)との結婚を控え、幸せの絶頂だったが、開幕早々、いきなり上司の経堂警部(光月るう)に射殺されるという、衝撃の幕開けから物語が始まる。神崎はその理由が全く分からず成仏できないまま幽霊となってしまうが、鳳月杏扮する神崎と同期の刑事・早川だけが、幽霊になった神崎を唯一見ることができる霊媒体質を持っているという設定で、幽霊刑事と霊媒刑事の二人がタッグを組んで真相を探っていくという展開。
石田氏らしいべたなギャグと固定資産税など夢のない現実的なセリフが飛び交うなか、霊媒体質の早川が幽霊になった神崎と婚約者須磨子との仲を取り持ったり、汝鳥伶扮するやはり成仏できない老人の幽霊が登場して神崎に幽霊としての衿持をたれたりするという、ユーモアたっぷりの脇道にそれながら事件の真相が少しずつ明かされていく。一幕は神崎を殺した経堂警部も何者かに殺害されるという予想外の展開で幕。二幕は意外な謎解きで怒涛の結末が待っている。事件が解決して真犯人が捕まれば神崎も完全に消えてしまうというストーリー上の決まりごとがあるところも珠城のプレサヨナラとダブって泣かせどころの舞台でもあった。
登場人物が2004年のアテネオリンピックを話題にしたり、ガラケーの携帯電話を使っていることから時代背景は2000年代初頭頃の話らしいが、いかにも昭和の匂いのする泥臭さ。映画「ゴースト」の宝塚版というと何となくおしゃれに聞こえるが、警察署内を舞台にした人情劇ミステリーという感じが濃厚で宝塚を見ているということを一瞬忘れさせた。
とはいえ珠城は「カンパニー」でも証明した通り、宝塚で現代の若者を等身大で演じることのできる稀有な存在で、今回もトレンチコート姿がよく似合い、全編ほぼ幽霊で登場するという難役を自然体で楽しげに演じ、プレサヨナラに華を添えた。
幽霊の珠城が唯一見える霊媒刑事、早川を演じた鳳月は珠城との呼吸も抜群で、全編眼鏡姿でほぼダブル主演といってもいい大役を見事にこなした。フィナーレで初めて眼鏡を取った本来の鳳月がポーズを決めるとそのカッコよさが際立った。男役の円熟期といっていいかもしれない。
神崎の婚約者、須磨子は天紫が演じた。本来の相手役、美園がミュージックサロンに出演するため、天紫が初めて珠城の相手役に起用されたが、男役を経験している娘役に特有の押し出しの強さがあって、珠城をしっかり受け止めることのできる芝居力が見事だった。美園退団後の月組の大きな戦力になりそうだ。
男役出身の娘役としてはもう一人、蘭世惠翔も光月扮する経堂の妻、保美役に起用され、不倫妻という大人の女性役に挑戦。コケティッシュな魅力をまき散らした。
老人の幽霊、雲井役の汝鳥、神崎の母親役の京三紗といったベテランの巧さが舞台を締めたが、女泥棒の白雪さち花や聾唖の少女を手話で演じた白河りりなどなど脇役に至るまで芸達者なメンバーがそろい芝居の月組に恥じぬ舞台ともなっていた。ボンボン刑事の輝月ゆうま、若手刑事の英かおとも健闘、結愛かれんという美貌の娘役の存在も頼もしい。
©️宝塚歌劇支局プラス3月20日記 薮下哲司
↧
珠城りょう、プレサヨナラは幽霊役!月組バウ公演「幽霊刑事」
↧