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月城かなと、王道のプリンスを熱演「ダル・レークの恋」大阪公演開幕

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©️宝塚歌劇団

月城かなと、王道のプリンスを熱演「ダル・レークの恋」大阪公演開幕

宝塚のレジェンド、春日野八千代の代表作のひとつに月城かなとを中心とした月組メンバーが挑んだグランド・ミュージカル「ダル・レークの恋」(菊田一夫作、酒井澄夫監修、谷貴矢潤色、演出)大阪公演が15日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕した。
通算4度目の上演となる今回は、1997年星組の再演版をベ―スにしながら、時代に合わせた脚本の改変、映像を駆使した装置、水の精など新たなキャラクターを追加するなど、昭和の古典を大幅にリニューアルしての上演となった。主人公のラッチマンを演じた月城の堂々たる存在感にただただ圧倒される舞台だったが、インドの高貴な生まれの青年が身分を隠して貴族の娘と恋に落ちるというストーリー自体の古めかしさはいかんともしがたく、改変されているとは言うものの見終わった後の感想としては月城はじめ出演者の真摯な熱演には申し訳ないが、2021年の今、この作品を再演する意味があるのか理解に苦しむ結果となった。

 「ダル・レークの恋」は菊田氏がインドに旅してすっかり魅せられ、その時の体験を踏まえて春日野のために1959年に書き下ろした作品で、上演に際しては春日野本人が演出も担当した。作劇には、当時、大ヒットした「風と共に去りぬ」(日本公開は1952年)からの影響が色濃く見られ、冒頭の舞踏会のシーンや主人公ラッチマンが賭博師で、自らを無頼漢と呼んでいること、ラストシーンで、すがるヒロインを前に去っていくシーンなどに類似点がみられる。

 時代背景がはっきりしないがイギリス統治時代の20世紀初頭頃のダル湖畔の避暑地カシミール。夏をここで過ごしていた高貴な貴族の娘カマラ(海乃美月)の最後の夜のために館では舞踏会が開かれている。カマラのダンスの相手に騎兵大尉ラッチマン(月城)が名乗り出る。カマラとラッチマンはひと夏の間に恋仲になっていたのだった。しかし農民出身というラッチマンとは身分が釣り合わないと親族は交際に大反対、無理やり別れさせられてしまう。しかも、ラッチマンにはラジエンドラという別名がありパリで指名手配されていることがわかる。

 役どころの設定やストーリー展開、人物の出し入れなどはさすが菊田氏らしいわかりやすさで演劇としての面白さは十分にあるが、インドの階級制度がベースになった身分違いの恋の悲劇は、2021年の現在では通用しない部分もあり、谷氏による脚本の改変の苦労がしのばれるものの作品本来の持つ時代錯誤感は否めなかった。

 とはいえラッチマンに扮した月城の堂々たる好演が作品の古めかしさを現代に大きく引き寄せた。前回の「ピガール狂騒曲」での好調ぶりをそのまま引き継いだ自信あふれる立ち姿で、大時代的な音楽が高鳴って登場するシーンから存在がひときわ大きく見えた。ラッチマンは、貴族の称号を嫌いパリで放蕩三昧の生活を送ったうえインドに帰国、貧しい農民の出身と偽って騎兵大尉として駐屯しているという設定。その言動もかなり無茶だが、月城が演じるとカマラを愛するがゆえに身を引くという一本の筋は通っているのが透けて見えて納得させてしまった。雪組時代は壮一帆のもとで新人公演主演を重ね、そのおおらかさと華やかな見せ方を習得、それを自分のものにして新たに花開いた感じがした。伸びやかな歌声も大きな武器で、珠城退団後の月組を背負う大きな戦力になること間違いない。

相手役のカマラには娘役として円熟の境地に達した海乃美月が扮した。初演では男役の故里明美が演じた役で、ラッチマンを愛しながらも引導を突き付ける前半の演技が最初の見せ場。まるで歌舞伎の一場面のような大芝居を淡々と演じのけたあたりがさすがだった。腰布を使ったダンスシーンも身のこなしが優雅で月城との息がぴったりあっていた。

カマラの妹リタ(きよら羽龍)の恋人でラッチマンとは因縁の仲の詐欺師ペペルには東京公演で演じた暁千星が美園さくらのミュージックサロン出演のため、風間柚乃が役替わりで演じた。風間ペペㇽは登場シーンから強烈な目ヂカラでいかにも悪党という感じをぷんぷんにおわせ、いつものことながら役作りのうまさにはほとほと感心させられた。月城とのダイスシーンのダンスの切れもよく、フィナーレでは月城、海乃とともに登場、デュエットダンスの歌手を務めるなど暁不在を立派に埋めた。

クリスナ(カマラの従兄弟)に扮した夢奈瑠音もこれまでにあまり見たことがない役どころだったが落ち着いたたたずまいと歌のうまさでしっかりと役になじんでいた。憲兵隊長ジャスビルの礼華はる、ホテルのポーター、ラジオンの蘭尚樹といったところが若手の目立った役どころで、ほかには蓮つかさが酒場の亭主やハリラム・カプール、金の男など大車輪で活躍、金の男の歌とダンスが印象的だった。

娘役ではリタのきよらが抜擢に応えた芝居ごころのある演技で好演したのが印象的、ラジオンの恋人ビーナの詩ちづるの初々しい雰囲気にも注目だ。中堅どころではパリのクラブのマダム、ミシェルに扮した楓ゆきの粋な風情が格別で舞台を締めた。

今回新たに加えられた彩音星凪と菜々野ありが扮した水の精は、「ロミオとジュリエット」でいう「愛と死」のような役割で、愛の象徴として主人公たちに寄り添うように踊るが二人が初々しくフレッシュなので「愛と死」とは違った意味でこれは非常に効果的だった。また「一夏の夢」と「小雨のパリ」という新曲も印象的。一方、フィナーレの出演者全員に見せ場のある群舞(港ゆりか振付)も本編を吹き飛ばしてしまうくらいのパワフルなもので客席もここで一気に盛り上がっていた。

©宝塚歌劇支局プラス3月15日記 薮下哲司
 


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