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柚香光、華優希、呼吸ぴったりのミュージカルコメディ「ナイスワーク―」大阪公演開幕

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©️宝塚歌劇団


柚香光、華優希、呼吸ぴったりのミュージカルコメディ「ナイスワーク―」大阪公演開幕

柚香光と華優希のトップコンビを中心とした花組選抜メンバー33人と専科の汝鳥伶、五峰亜季が参入したブロードウェー・ミュージカル「NICEWORK IF YOU CAN GET IT」(原田諒潤色、演出)大阪公演が2日から梅田芸術劇場メインホールで始まった。1月の東京公演を経てブラッシュアップされた公演は、明るい笑いに満ち、緊急事態宣言下の暗いムードを吹き飛ばすに十分だった。

「ナイスワーク―」は、2012年、ブロードウェーで初演、トニー賞に10部門でノミネートされたヒットミュージカル。とはいえこのミュージカルには元ネタがあって1926年、当時の大女優ガートルード・ローレンスのためにジョージ・ガーシュインが書き下ろしたミュージカル「Oh、Kay!」を焼き直したものだ。ジュリー・アンドリュースがガートルードを演じた映画「スター!」にこのミュージカルの場面が再現されていたのでミュージカル通ならご存じだったかも。2012年版も大筋はほぼオリジナルと同じ、「プロデューサーズ」のマシュー・ブロドリックと「王様と私」で渡辺謙と共演した歌姫ケリー・オハラの競演という豪華キャストで上演され大ヒットとなった。ストーリーはあってないような他愛のない典型的なボーイミーツガールものだが、ガーシュインの他の作品からも名曲をふんだんに使用、耳なじみのある曲が次から次へ登場、出演者たちの個々のパフォーマンスで見せる典型的なミュージカル・コメディ。911のテロ事件以来、沈滞していたブロードウェーにかつての明るさを蘇らせたきっかけになった作品だった。

今回の宝塚での上演ははからずもコロナ禍真っ最中の公演となったが、世の中の憂さを忘れてひと時の夢を楽しみたいという向きにはもってこいのミュージカルと言っていいだろう。大劇場の雪組公演とはまた別の世界がここにはあった。

1920年代禁酒法時代のニューヨーク。舞台は大富豪の跡取り息子ジミー(柚香)が、4度目の結婚を前にもぐり酒場(スピークイージー)で独身最後のパーティーをしているところから始まる。黒のスーツに赤い蝶ネクタイといったスタイルで登場したジミーに扮した柚香が酔っ払いながら歌い踊るプロローグから古き良きミュージカルといった感じ。

酔っ払った彼は酒場の裏で、酒の密売人の一味の一人で、ボーイッシュなビリー(華)と出会い、チャーミングなビリーに興味を持ったジミーは、ロングアイランドに使わない別荘があることを口走ってしまう。密輸した酒の隠し場所に困っていたビリーは仕事仲間のクッキー(瀬戸かずや)やデューク(飛龍つかさ)に報告、400本のウィスキーを車に積んでさっそくその別荘に向かう。ところが誰も使わないはずのその別荘に、ビリーが婚約者のアイリーン(永久輝せあ)を連れて現れ、密輸組織を一網打尽にしようと躍起になっているニューヨーク市警のベリー署長(汝鳥伶)らも次々にやってきててんやわんやの大騒動に。そんななかジミーとビリーは反発しあいながらも惹かれあいラストはすべてめでたしの大団円。休憩を入れてフィナーレまでたっぷり3時間10分。突っ込みどころ満載の他愛ないストーリーをテンポよくだれずに見せ切った。劇団四季の「クレイジー・フォー・ユー」とかぶる曲が多いが「誰かが見つめている」などガーシュインの音楽のすばらしさに負うところも大きい。

ジミーを演じた柚香は「はいからさん―」のアメリカ版みたいな役どころを生き生きと楽しげに演じていて、たたずまいそのものが役にはまった。4度目の結婚を前に、別の女性と恋に落ちるというのだからこれまでいかにいい加減に生きてきたかという証明で、ビリーと結ばれても今後どうなるかわからないのだが、見ている間はそんなことを考えさせないだけのオーラは確かにあった。しなやかで大きな動きを見ていると歌の弱さが気にならなくなるから不思議だ。

次の大劇場公演で退団を発表している華も、これまでの役柄で言うと「はいからさん―」のアメリカ版?密売人仲間から姉貴よばわりされるようなリーダー格には見えないがボーイッシュなショートカットのヘアスタイルがなんともキュート。ガートルード・ローレンスやケリー・オハラが演じた役なので本来はもっと男勝りの柄の悪い役なのだろうがやんちゃな女の子という華ならではのビリーという感じでまとめて魅力的だった。

二人以外で主要な役どころはビリーの密売人仲間のクッキーに扮した瀬戸、デュークの飛龍、ジミーの婚約者アイリーンの永久輝、ニューヨーク市警のベリー警部役の汝鳥、禁酒法支持者のウッドフォード公爵夫人役の鞠花ゆめ、デュークを貴族と勘違いしたショーガール、ジェニー役の音くり寿といったところ。

瀬戸が扮したクッキーは、ビリーの密売人仲間で、脇役かと思ったらどんどん役が膨らんでいく面白い役で硬軟自在に瀬戸が好演、女役初挑戦となった永久輝のアイリーンもモダンダンサーという設定でいつでもどこでも踊っているとんでもないエキセントリックな役どころ。「ME&MY GIRL」で言えばジャッキーをほうふつさせる役どころで、入浴シーンをミュージカルナンバーに仕立てたくだりが最大の見せ場。男役とは思えない美声もさることながら永久輝の華やかな個性が存分に生かされたシーンだった。フィナーレの黒づくめの衣装も美脚が映えてよく似合っていた。

歌では鞠花がいきなり「DEMON RUM」を圧倒的歌唱力で歌いこみショーストップ効果を発揮。後半には汝鳥や飛龍、音にも聞かせどころがあり、この辺が出演者個々のパフォーマンスで見せるブロードウェー・ミュージカルらしいところ。宝塚オリジナルだとなかなかこういう場面は作れないので貴重な機会に恵まれたといっていいだろう。

宝塚ならではのショーアップシーンも加えながらも典型的なアメリカン・ミュージカル・コメディの面白さもくずさず、巧みに宝塚に移し替えたのはさすが。貝をイメージしたような装置(松井るみ担当)は少々不満だが原田氏のミュージカル・センスが光った舞台だった。

©2021年2月5日宝塚歌劇支局プラス 薮下哲司
 


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