©️宝塚歌劇団
花組期待のホープ、聖乃あすかバウ初主演「PRINCE OF ROSES」開幕
端正な容姿で早くから注目を浴び、新人公演でも3度主演経験のある花組のホープ、聖乃あすかのバウ初主演作、バウ・ミュージカル「PRINCE OF ROSES」-王冠に導かれし男―(竹田悠一郎作、演出)が28日、宝塚バウホールで開幕、聖乃が凛々しい舞台姿で好演、期待に応えた。
「PRINCE―」は、15世紀のイギリス、ランカスター家とヨーク家の30年にわたる薔薇戦争に終止符を打ったランカスター家のヘンリー・テューダー(のちのヘンリー7世)を主人公に、信念に生きることの尊さをうたいあげたドラマティック・ミュージカル。100期生聖乃の初主演作であると同時に聖乃と同期の若き演出家竹田氏のデビュー作。ヘンリー・テューダーと将来の聖乃を重ね合わせた作劇になっていて、歌劇団の聖乃への期待度の大きさがひしひしと伝わる舞台ともなっていた。
ヘンリー・テューダーといえば、シェイクスピアの「リチャード3世」のクライマックスに正義のヒーローとして登場するランカスター家の騎士。現在のイギリス王室につながる先祖である。実在の人物ながら、その前半生は謎が多く、そこで自由に脚色して全く新たな人物としてヘンリー・テューダーを創造したのがこの舞台。
権謀術数渦巻く王室内の物語で、ランカスター家とヨーク家が入り乱れての展開。複雑な人物関係を把握するだけでも大変だが、ランカスター家が赤い薔薇、ヨーク家が白い薔薇という色分けがあり、あとは聖乃扮するヘンリーがランカスター家の唯一の正当な後継者であるということが分かっていれば、あとは誰がどちら側かということはこの際気にせず、敵も味方もヘンリーに近づいてくる者はすべて信用のならない人物であるとして見れば、意外とすっきりとみられる。
ヘンリーは、ヨーク家が覇権を握っている間、隣国ブルターニュに亡命、復権の機会を狙っているという設定で、物語はロンドンとブルターニュの二か所で並行して展開。ヘンリー不在のロンドンでしたい放題の暴虐ぶりを発揮するのがグロスター卿(リチャード3世)で、演じるのは優波慧。クライマックスは帰国したヘンリーとリチャード3世の対決の場面となる。
というわけで正統派二枚目スターの聖乃にとっては申し分のないヒーロー像。幕開きの華やかなプロローグの後、ヘンリー6世(冴月瑠那)に謁見する場面の緊張ぶりがなんとも初々しく、その清冽な持ち味を最後まで保ち続けた。歌、ダンス、演技とどれもそつなくこなすがまだどことなく硬さが取れていないようにみえるので、もう少し肩の力を抜けばさらに大きく見えると思う。とはいえ武器はやはり立ち姿の凛々しさだろう。もっと大きなスポットライトを浴びている姿が早くも見えるようだ。
一方、やりがいのある役に恵まれたのは優波。リチャード3世はシェイクスピア作品のなかでもハムレットと並ぶ大役といわれるだけあって主役を食うほどのインパクト。権力に取りつかれ、邪魔者は肉親まで殺していく非情な男を、入魂の演技で見せた。誰がやっても際立つ役だとは思うが、優波ならではの自在な演技で強烈な印象を残した。
フランス国王の使いとしてブルターニュのヘンリーに近づいてくるイザベラがヒロインで、研2の星空美咲が大抜擢された。愛希れいかや夢咲ねねを思わせる美貌の娘役で、抜擢に応えた熱演だが、役の微妙なニュアンスをつかめておらず歌、演技ともまだまだ発展途上の段階。大型娘役としての資質はありそうなので今後の活躍を見守っていきたい。もう一人、リチャード3世の妻になるアンに扮した美羽愛も大役起用は初めてだが、芝居心のある演技のうまさでこちらも起用にこたえていた。
男役では最後まで敵か味方かわからないトマス・スタンリーを演じた一之瀬航季がさすがの実力派ぶりを発揮。出自はランカスター家だがヨーク家に近いヘンリー・スタッフォード役の希波らいとの腰の軽い演技も役によくあっていた。脇役にも面白い役が多く、リチャード3世に処刑されるクラレンス公役の愛乃一真、リチャード3世の部下ケイツビーに扮した峰果とわがとくに印象深かった。
ヘンリーの叔父役の高翔みずきらベテラン勢もしっかり脇を締め、初主演の聖乃をサポート。ヘンリーの強い信念が聖乃にだぶった舞台だった。
©2021年1月30日宝塚歌劇支局プラス 薮下哲司記
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