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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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望海風斗、真彩希帆サヨナラ公演「fff」「シルクロード」ついに開幕!

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©️宝塚歌劇団

充実のトップコンビ、望海風斗、真彩希帆サヨナラ公演「fff」「シルクロード」ついに開幕!

宝塚の歴史に残る【歌のコンビ】望海風斗、真彩希帆のサヨナラ公演となった雪組公演、ミュージカル・シンフォニア「fffフォルティシッシモ―歓喜に歌え!-」(上田久美子作、演出)とレビュー・アラベスク「シルクロード」~盗賊と宝石~(生田大和作、演出)が、元日、宝塚大劇場で開幕した。本来なら昨年夏に終わっている公演だったが、半年遅れでようやく開幕、芝居、ショーとも従来の宝塚の枠を超えた力作で、好き嫌いは別として2021年からの新時代の宝塚を象徴するような作品に仕上がった。

「fff(フォルティシッシモ)」は、音楽記号で「最大限に強く」という指示を表しているのだとか。舞台は冒頭の「天国の扉」の場面で一樹千尋扮する天使(ケルビム)やモーツアルト(彩みちる)ヘンデル(真那春人)テレマン(縣千)らがその意味を説明する場面から始まる。そして19世紀初頭、フランス革命後の激動のヨーロッパを背景に楽聖ベートーヴェンの半生をたどりながら、彼が作曲した数々の名曲にまつわる創作の秘密に迫り、畢生の大曲、交響曲「第9」誕生の意味を解き明かしていく。プロローグから「英雄」が鳴り響き、永遠の恋人の伯爵令嬢ジュリエッタ(夢白あや)に捧げた「月光」さらには「運命」そして「第9」と耳なじみのあるべートーヴェンの旋律が次から次へと流れる。

昨年暮れに元雪組の一路真輝がジュリエッタに扮した朗読劇「不滅の恋人№9」が上演されたが、こちらはベートーヴェンは出てこず、周辺の人物からベートーヴェンの人間像を浮き上がらせるもので女性関係に的を絞っていたが、今回の舞台はジュリエッタや初恋の人ロールヘン(朝月希和)との報われない恋がベースにあるものの皇帝ナポレオン(彩風咲奈)、そして詩人ゲーテ(彩凪翔)との交流関係を大きなテーマとして、それらの人物がベートーヴェンの作曲活動に与えた影響に言及したかなりハードな内容となっている。民衆の味方ナポレオンに私淑して「英雄」を捧げるものの、皇帝に就任したナポレオンに失望、さらにナポレオンの死という絶望の中からベートーヴェンが生み出したものは……。

作曲家としての生命である耳が聞こえなくなり、信頼していた人物からは裏切られ、家族や女性関係も破綻、八方ふさがりのなかから最後の希望を見出すベートーヴェンの壮絶な生きざまが、退団公演となった望海の宝塚人生や、コロナ禍で閉塞した状況のなかにいる観客へのエールとだぶって、クライマックスは感動的に盛り上がる。

サヨナラ公演という宝塚のセレモニーとしてはかなり高度な作品で、単に宝塚の男役としてのかっこいい望海の姿を目に焼き付けておきたいという従来のファンからすると、あまり好ましい作品でないのも事実。しかし、望海の男役としてのスキルを最大限に楽しみたいという向きにはこれ以上ないプレゼントになっただろう。望海も入魂の演技で、これにこたえ、宝塚生活最後の作品を有終の美で飾った。一度は死を考えたベートーヴェンが生きる意味を見つけて歌う「ハイリゲンシュタットの遺言」は圧巻だった。

相手役の真彩希帆は謎の女という設定。ベートーヴェンの耳が悪くなったころから登場、聞こえない耳の代わりをする役どころで、ベートーヴェンを苦悩から解き放つ重要な役まわり。ただ、ジュリエッタともロールヘンとも恋は実らないため、苦肉の策による精神的ヒロインなので役柄的にややインパクトに欠ける。しかし持ち前の歌唱はさすが。この歌声が宝塚で聴けるのがこれが最後と思うと残念でならない。

ベートーヴェンが私淑するナポレオンは彩風。尊敬する詩人ゲーテが彩凪という配役で、そのバランスはちょうど同じくらい。彩風の堂々たる軍服姿、彩凪の知性的な演技、いずれも望海との対峙という意味でも申し分なく、ドラマに深みを持たせた好演だった。

親友ゲルハルトは朝美絢。ベートーヴェンのよき理解者として最後まで見守る温かい人間性をよく醸しだしていた。妻ロールヘンの朝月の品のよさも好印象だった。

ベートーヴェンのプロポーズを拒否して別の男性と結婚する伯爵令嬢ジュリエッタの夢白は、出番は多くないがその華やかな個性が際立って、ベートーヴェンの永遠の恋人というにふさわしい存在感を示していた。

 

ベートーヴェンの少年時代を野々花ひまり、青年時代を彩海せら、昔のロールヘンを星南のぞみが演じ、望海と同時に登場する場面や、雪原でナポレオンと遭遇する幻想シーンなど演劇としてかなり実験的な場面もあって刺激的な舞台だった。

「シルクロード」は「カサノヴァ」などの期待の若手作家、生田氏が手掛けたはじめてのショー作品。東洋と西洋の交易路シルクロードを舞台に菅野よう子作曲によるオリジナル曲に乗せて展開するエキゾチックなショー。望海ふんする盗賊と真彩扮する青い宝石(ホープ・ダイヤモンド)をめぐってストーリー仕立てで展開していく。プロローグ、中詰め、フィナーレという通常のレビュー形式にのっとってはいるものの、舞台は砂漠がメインで、衣装もキャラバン隊、盗賊と一貫しているのでバラエティーショー的な興趣はないがテーマ性は濃厚。望海の盗賊は切れ味鋭く、真彩の宝石は極力ゴージャスで歌唱も充実、二人の魅力はいかんなく発揮されている。とはいうもののフィナーレのデュエットダンス以外にもうひとつ望海と真彩のサヨナラショーならではの心に残る印象的な場面が欲しかったというのは贅沢だろうか。

 次期トップコンビの彩風と朝月のコンビのプレ披露的な場面がふんだんにあって、それはそれで楽しく、彩凪ら同時退団組の場面の心遣いもうれしかったが、朝美、縣から諏訪さきまでまんべんなく見せ場が作られ、そのせいで肝心の望海、真彩のシーンが少なくみえたのかも。フィナーレの燕尾服のダンスからデュエットダンスはフランク・シナトラが歌ってアカデミー賞の主題歌賞を受賞した「オール・ザ・ウェイ」。菅野作曲のオリジナル曲ではなかったのが意外だったが、この選曲はヒットだった。望海から彩風にホープ・ダイヤモンド?をバトンタッチするシーンもあってサヨナラ公演らしい雰囲気を醸し出していた。

2021年の劈頭を飾った「fff」「シルクロード」。望海、真彩という最強コンビのサヨナラ公演が、はからずもこれからの宝塚を担うであろう二人の期待の作家の競作となった。かつてのお正月作品の軽いイメージとはかけはなれた重厚な二本立て。正月気分の軽いノリで見るには少々肩がこるが、これも時代の流れなのかもしれない。そんな印象を持った二本だった。元日初日は満員札止め。望海は「昨年に引き続き、お正月を舞台で迎えられて幸せ。こんな時期ですが公演の実現に尽力してくださった関係者の方々には感謝の言葉しかありません。千秋楽までさらに練り上げていいものにしていきたい。応援をお願いいたします」とあいさつ。大きな拍手が沸き起こった。

©宝塚歌劇支局プラス 1月3日記 薮下哲司

 


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