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元雪組娘役トップ、咲妃みゆ、城田優の妻役を熱演、ミュージカル「NINE」大阪公演開幕

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元雪組娘役トップ、咲妃みゆ、城田優の妻役を熱演、ミュージカル「NINE」大阪公演開幕

 

城田優が天才映画監督に扮するミュージカル「NINE」(藤田俊太郎脚本、演出)大阪公演が、5日から梅田芸術劇場メインホールで始まった。「NINE」は、イタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニ監督の名作「8か2分の1」のミュージカル化で、芸術家の内面を描いた異色作。これまでにも細川俊之はじめ別所哲也、松岡充主演で上演されているが今回のプロダクションは、英語、イタリア語、日本語を縦横に駆使した画期的な舞台で、藤田俊太郎の独創的な演出が、作品の内容にピタリとはまり、見事な相乗効果をあげて素晴らしい出来栄え。デヴィッド・ルボーが演出、アントニオ・バンデラスが主演したブロードウェー・バージョンをも凌駕する、今年一番の見ごたえあるミュージカルだった。

 

「NINE」は、出演する女優と浮名を流すなど一作ごとに華々しい注目を集める人気監督グイド・コンチーニが、新作の構想が浮かばずやけになっているところから始まる。舞台正面のスクリーンの向こう側にスタジオのセットがあり、スクリーンに映写されている映像をセットの奥に座っているグイドが見ているという設定。客席からはモノクロの映像や文字が逆に映される。オープニングから感覚が一味違う、まるでニューヨークかロンドンの劇場でミュージカルを見ているような斬新さだ。

 

そして、城田が歌いだすのは英語オリジナルの歌詞。スクリーンに日本語字幕が出るという寸法。本来ミュージカルの歌詞は英語で書かれているので、日本語に翻訳するとメロディーに合わなくなり意訳されることもあって、以前から違和感があった。とはいえニューヨークやロンドンで観劇しても歌詞の細かいニュアンスはわからず、隔靴掻痒だったのだが、今回のスタイルはちょっとした衝撃だった。共演者も英語オリジナナンバーをネイティブに歌える女優をそろえていて、英語やイタリア語を縦横に駆使してナンバーを歌う継いでいくさまはまさに鳥肌ものだった。

 

もちろん日本語の歌詞でしっかり歌うナンバーもあって、そこで見事だったのはグイドの妻ルイザ役を演じた咲妃みゆだった。在団中からその実力は知るところで、今年は「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」が素晴らしかったが、今回はそれとはまるで違った大人の役どころ。これが演技も歌も見事の一語。悪くすれば嫌な女性に見えてしまうところを、グイドを愛するがゆえ、別れようと決意するあたりの複雑な心理を、納得の歌と演技で、見事に表現した。今後のますますの活躍に期待したい。

 

 創作の苦悩と性のトラウマを通して一人の男の生きざまを描いたこのミュージカルは、下手をするとありきたりの女にだらしのない芸術家の話になってしまうところだが、グイドにまつわる9人の女性の内面に深く踏み込んだところが見事で、逆にそんな女性たちからグイドの男としての薄っぺらさがあぶりだされていくのはスリリングですらあった。

 

城田は、華やかな世界に身を置き、自分自身が何をすべきか見失ってしまった男を、哀愁を漂わせて演じて魅力的。日本語より英語の歌が似合う稀有な俳優でもある。

 

女優陣もすべて好演だが映画プロデューサーのラ・フルールを演じた前田美波里の圧倒的な存在感には脱帽。初演時の上月晃の印象が強烈だったが、それ以来かもしれない。「フォーリー・ベルジュール」のナンバーの見せ方も華やかだった。

 

宝塚勢ではもう一人、春野寿美礼が母親役で出演している。映画ではソフィア・ローレンが演じた役だが、180度違った役作りで挑戦。自分から遠く離れた息子を思う母の思いを切々と歌うソロが聴かせた。

 

あとダンスナンバーをDAZZLEのメンバー9人が担当、スタイリッシュな群舞を繰り広げて、作品のハイブローなイメージに貢献しているのも特筆したい。

 

いずれにしても、日本のミュージカル界に風穴を空けた画期的なミュージカルになったことは事実だ。公演は13日まで。

 

©宝塚歌劇支局プラス12月7日記 薮下哲司


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