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轟悠、見事なつけ鼻で熱演!星組公演「シラノ・ド・ベルジュラック」開幕

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©宝塚歌劇団

 

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轟悠、見事なつけ鼻で熱演!星組公演「シラノ・ド・ベルジュラック」開幕

 

専科の轟悠が主演する星組公演、ミュージカル「シラノ・ド・ベルジュラック」(大野拓史脚本、演出)が4日、大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕、大阪市の「外出自粛要請」初日と重なったものの、轟の熱演で客席はおおいに沸き、波乱の2020年最後の公演を有終の美で飾った。

 

本来は6月に東西で公演が予定されていたが、新型コロナ感染拡大の余波で延期となり、ようやく大阪のみでの上演にこぎつけた。ところが4日、大阪市内には「不要不急の外出自粛要請」が出され、いまのところ公演自体には直接影響はないものの、今後の動向に目が離せない状況で波乱含みのスタートとなった。

 

とはいえ舞台自体は原作ものの強みで手堅い出来栄え。「シラノ―」は、フランスの戯曲作家エドモン・ロスタンが、17世紀に実在した剣豪詩人を主人公にした純愛物語で、1897年の初演以来フランスを代表する戯曲として世界中で上演されてきた名作。その誕生秘話を描いた映画「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい」が公開中で、タイミング的にも格好の上演となった。宝塚歌劇では1995年、麻路さきを中心とした星組で「剣と恋と虹と」(太田哲則脚本、演出)のタイトルでミュージカル化されたことがあり、今回、歌唱指導を担当しているちあきしんが、極美慎が演じているラグノオに扮していた。

 

今回の舞台もほぼ原作を忠実に再現、ミュージカル化している。第一幕のパリ、ブルウゴーニュ座芝居の場は、物語の発端で重要なくだりだが、まずは瀬央ゆりあ扮するクリスチャンが登場。通りすがりに出会ったロクサアヌ(小桜ほのか)に一目ぼれしたクリスチャンが歌う場面をプロローグ的に処理、いかにも宝塚的で華やかなオープニングとなった。

 

人気役者モンフルウリィ(碧海さりお)が演じる芝居が始まったところで、やおら轟扮するシラノが階段上から登場、モンフルウリィの大根役者ぶりに激昂して一騒動起こす。シラノの友人、ル・ブレ(美稀千種)ロクサーヌに執心するド・ギッシュ伯爵(天寿光希)ら登場人物がここで全部出そろう。

 

シラノといえばその高い鼻がトレードマーク。麻路バージョンは、セリフで鼻が高く醜いといわせながら外見は一切変えないという宝塚的なシラノだったが、轟は付け鼻をつけてリアルな創造。しかし元が美しいので鼻を高くしただけでは醜く見えないのがたまにきず。ただ、いつもとは一味違った轟の表情が見られるのが楽しい。

 

第二場詩人無銭飲食軒の場は、シラノがロクサアヌから大事な話があるといわれて待ち合わせの場に指定する場所。ここで、シラノはロクサアヌから自分に対する恋の告白だと勘違いするのだが、ここの期待に胸膨らませるシラノと、そうとは違ってがっくりするシラノ、ここのコミカルな演技が、轟一番のみせどころで、勘違いぶりがなんともかわいくて、思わず笑みがこぼれた。

 

フランスの人気俳優ジャン・ポール・ベルモンドがシラノを演じた本場の来日公演は、もっと細切れに休憩があったような記憶があるが、宝塚は二幕構成。戦場の場面から14年後のシラノ週報の場がクライマックスとなる。歌舞伎の演目のように何度も見て結末が分かっている芝居だけに、いかに見せるかが腕の見せ所。夕暮れから徐々に暗闇迫るなかシラノが恋文を暗唱するくだりを轟が淡々とあふれ出る感情を抑えて演じ切った。照明がやや明るすぎるような気がしたが、そこは宝塚、眼をつぶろう。

 

いったん降りた幕があがるとフィナーレ。瀬央が主題歌を披露して天寿、極美らを中心とした男女ダンサー陣と群舞、純白の衣装に着替えた轟と小桜のデュエットダンスと続いた。シラノとロクサアヌが天上で結ばれるといった趣向でいかにも宝塚的ハッピーエンディングだった。

 

轟の主演舞台は昨年の「チェ・ゲバラ」以来。その時も思ったが、役の存在感の大きさもあって若い星組生とまじっても違和感のないのには感服。クリスチャンがあまりにふがいないのでシラノが代わりにロクサアヌに語り掛ける有名なバルコニーのシーンも轟ならではの包容力で納得させた。セリフを歌にするなどミュージカル的処理も見事だった。轟がいるから出来るこういった本格的な戯曲のミュージカル化を今後も期待したい。

 

クリスチャン役の瀬央は、長身に軍服がよく似合い、ロクサアヌが恋をするのも納得の美丈夫ぶり。男性が演じると面白い役なのだが、宝塚の二枚目だと知性が邪魔をするなかなかの難役。瀬央ももうひとつ吹っ切れていないところがあった。

 

ロクサアヌの小桜は「ロックオペラモーツァルト」のアロイジア役の印象が強烈だが、今回も難役を堂々とこなして実力の一端をみせてくれた。美貌と知性を兼ね備え、若さだけでなく年月を越えて大人の女性の落ち着きも表現しないといけないが、小桜は自然体で演じ、しかも優雅な品の良さも表現、持ち前の歌は申し分なく見事なロクサアヌだった。

 

ル・ブレの美稀、ド・ギッシュ伯爵の天寿は、セリフの口跡といい立ち居振る舞いといいい文句のない仕上がり。極美が演じた菓子屋の主人ラグノオだけが原作とは全く違う浮気者のイケメンパティシエという設定。期待の二枚目にふさわしい役柄に書き換えられていて、極美もその線で生き生きと演じていた。

 

フランス語オリジナルのセリフ劇の面白さは日本語訳ではなかなか伝わらないものの装置、衣装など他の舞台とそん色なく、原作のエッセンスを2時間ちょっとに要領よくまとめた好舞台だった。公演は12日まで。

 

©宝塚歌劇支局プラス12月4日記 薮下哲司


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