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礼真琴、ダークヒーロー役を熱演、グランステージ「エル・アルコン―鷹―」開幕

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©️宝塚歌劇団

礼真琴、ダークヒーロー役を熱演、グランステージ「エル・アルコン―鷹―」開幕

礼真琴が野心家の海軍中佐を熱演する星組梅田芸術劇場メインホール公演、グランステージ「エル・アルコン―鷹―」(斎藤吉正脚本、演出)とShow Stars「Ray―星の光線―」(中村一徳作、演出)が20日開幕した。当初全国ツアーとして企画された公演だったが、コロナ禍で延期になり、同ホール公演としてようやく上演が実現した。

「エル・アルコン」は2007年、安蘭けい、遠野あすか時代の星組で初演された青池保子原作によるベストセラーコミックの舞台化。16世紀、エリザベス一世が君臨、イギリスとスペインが海洋の覇権を争っていた時代を背景に、対照的な二人の男の生きざまを描いたアドベンチャーロマン。清く正しくがポリシーの宝塚にあって悪の匂いのするダークヒーローを安蘭が好演、遠野の女海賊ぶりも宝塚のヒロイン像とはかけ離れていて、今思えばその後の宝塚のヒーロー、ヒロイン像に大きな変化を与えた作品だった。今回はそれ以来13年ぶりの再演。礼のビジュアルが安蘭と瓜二つ、舞空の歌声も遠野そっくりで、なんとも懐かしい公演となった。

初演は映像と寺島民哉作曲の勇壮な主題歌に加えて回り舞台を効果的に使ったプロローグが素晴らしくて、それだけでも十分満足のできる作品だった。大学の授業でも「漫画と宝塚」の項では必ずこの作品のプロローグにふれて、漫画から舞台化へのお手本として教材に使っていたくらいだ。

今回再見して、回り舞台のない梅芸では肝心のその部分が迫力不足、加えて原作をダイジェストするあまり、数多い登場人物の関係性を整理しきれていないという感想は初演と同じだった。初見の方は前もって膨大な登場人物の名前と人物相関図をしっかり頭に叩き込んで観劇されることをおすすめしたい。

スペイン人の血を引くイギリス海軍中佐でありながらスペインの無敵艦隊を率いることが夢という野望を持ち、そのためには何でもするという主人公ティリアン・パーシモンの基本的な立ち位置に共感できるか否かがこの作品への評価が分かれるところ。冒頭に叔父(実の父親?)ジェラールとの別れと父(養父?)エドリントンを殺害する場面があり(後半にも回想ででてくる)それが彼の心に深いトラウマを与えているのはわかるが、それがなぜ野心家としてのしあがっていくことにつながるのかという肝心のところがいまいち説明不足なのだ。ただ途中で話を追うのをあきらめてもティリアンに扮する礼のクールなたたずまいや、遠野そっくりのセリフ回しが懐かしい舞空の女海賊ぶりなどなど漫画の舞台化らしいビジュアル面でのみどころはたっぷりあるので最後まで飽きることはない。

野心家ティリアンに扮した礼は、初演時は音楽学校生で、この役が念願だったのだとか。そういえば歌唱力の充実ぶりのほか外見的にも安蘭をほうふつさせるところがあり、独特の目力にクールさが加わって権謀術数にたけた若きダークヒーローという感覚をうまく体現した。親友の婚約者ペネロープを誘惑したり、女海賊のギルダとの情熱的なラブシーンなどのきわどいくだりも自信に満ちていて背伸びしているような感じはまったくなかった。トップ就任1年未満だがすっかりセンターが似合ってきた。

 女海賊ギルダの舞空は、華やかな衣装でのプロローグのあと、女海賊としての戦闘シーンからの本格的登場となるが、初演の遠野をほうふつとさせる歌声には驚かされた。目をつぶればそこに遠野がいるのではないかと思ったくらいだ。宝塚のヒロイン像とは異なったアダルトな雰囲気をたたえた役どころで、舞空にはまだ早いかなあと思わせたのだが、あにはからんや貫禄たっぷりの好演で、彼女もここ1年ぐらいで大きくジャンプアップしたようだ。

 ティリアンのせいで父親が処刑され、復讐を誓うルミナスは愛月ひかるが演じた。初演で柚希礼音が演じた役で、ティリアンとは対照的な善玉として描かれる。濃い役が続いた愛月には珍しい役で素直に演じているが、濃い役を見慣れている観客側とすればやや物足りないかも。愛月のティリアンも役替わりで見たいと思わせた。

ほかにティリアンに大きな影響を与えた母の従弟ジェラードに扮した綺城ひか理、親友で婚約者をティリアンに取られるエドウィンが天華えま、ティリアンの付き人ニコラスに咲城けいといった配役。ワンポイントだが赤い薔薇とともに登場して強烈な印象を残す海賊のキャプテン・ブラックには天飛華音が扮した。いずれも次代の星組をになうホープたちが好演したが、なかでは綺城のジェラードの立ち姿の美しさに見惚れた。

娘役はペネロープが有紗瞳。さすがの実力で見せた。パーシモン卿の愛人シグリットは貫禄の音波みのり、原作ではヒロインのジュリエットは桜庭舞がはじけた演技で見せた。

併演のショー「Ray」は、2月に大劇場で公演されたもののツアーバージョン。大劇場公演の半分以下のメンバーで、しかも華形ひかると瀬央ゆりあが不在なので、愛月とのトリオの場面は愛月ひとりの場面に変わり、オリンピックモードだった中詰め以降はかなり手が加えられていた。ここでは礼のショースターとしての実力が抜きんでていて、切れ味鋭いダンス、よく伸びる歌声とどこをとっても申し分なし。舞空とのダンスコンビネーションも抜群で若さ溢れるダイナミックなショーを堪能させてくれた。アダルトな雰囲気は愛月が担当、三番手格に浮上した綺城の美貌も際立ち、みごたえあるショーだった。エトワールの桜庭の透きとおった歌声も心地よかった。


同じ20日、東京宝塚劇場では月組公演「WELCOME TO  TAKARAZUKA」「ピガール狂騒曲」が開幕した。「WELCOME―」の監修を担当した歌舞伎俳優、坂東玉三郎は、この日京都市内で1月の大阪松竹座舞踊公演の取材会に出席。初めて監修した宝塚歌劇について「昨日の舞台稽古を見てきました。雪の章から月の章に変わるところの暗転など(宝塚では)これまでにないものに仕上がったと思う」と満足げな様子。「暗転が少し明るかったのでもっと暗くしてくれと言っておきました」と注文をつけたことも明かしていた。

©宝塚歌劇支局プラス11月20日記 薮下哲司


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