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宙組ミュージカル「アナスタシア」宝塚大劇場で開幕

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©️宝塚歌劇団

宙組ミュージカル「アナスタシア」宝塚大劇場で開幕

コロナ禍で公演が延期されていた真風涼帆を中心とする宙組によるミュージカル「アナスタシア」(稲葉太地潤色、演出)が11月7日、宝塚大劇場で開幕した。3月に葵わかな、木下晴香(ダブルキャスト)らで上演(コロナ禍のため東京のみ)された梅芸バージョンの宝塚版。20世紀初頭のペテルブルクとパリを背景に数奇な運命をたどる詐欺師ディミトリと皇女アナスタシアのミステリアスでロマンティックなストーリーは宝塚にぴったりはまった。

「アナスタシア」は、帝政ロシア時代の最後の皇帝ニコライ二世とその一族は1917年の革命で翌年処刑されたが、末娘のアナスタシアだけは奇跡的に生き延びたのではないかという伝説をもとに自由に膨らませた物語。イングリット・バーグマンとユル・ブリンナー主演で製作された「追想(原題は「アナスタシア」)」(1957年)が有名で、これをもとにした長編アニメが1997年に制作され、今回上演されたミュージカルはこのアニメから着想を得て作られている。同じ題材の物語は宝塚でも1981年に麻実れい、遥くらら時代の雪組で「彷徨(さすらい)のレクイエム」のタイトルで上演されている。この時の麻実の役どころはパリレビューのスターという設定だった。今回梅芸版で麻実が皇太后マリアを演じたのも何かの縁かも。一方、和央ようかが宙組のトップ時代に小池修一郎の演出で行ったディナーショーでも花總まりとのコンビでこの題材を取り上げていた。

1957年の「追想」の時は、まだロシアはソ連時代で、帝政ロシア時代の残党を描く物語はまだ現実味を帯びていて緊迫感のようなものがあったが、1997年のアニメ化の時にはソ連は崩壊後で、過去の栄光を懐かしむという形に変貌、作品の質自体が変わってしまったように思う。今回のミュージカル版もその延長線上でつくられている。梅芸版の大阪公演が中止になったので見比べることができなかったのが残念だが、真風のために新たな主題歌「彼女が来たら」という新曲が提供されるなど、もとのミュージカルとはかなりの変更が加えられているようだ。

舞台は1906年サンクトペテルブルクの王宮で皇帝ニコライ二世の末娘アナスタシア(天彩峰里)がパリ移住を決めたマリア皇太后(寿つかさ)からオルゴールを贈られる場面から始まる。時は流れて1917年、美しく成長したアナスタシア(星風まどか)は父のニコライ二世(瑠風輝)らと舞踏会に出席していたが、突然、爆発音が響き、室内は真っ暗に、とここまでがイントロダクション。場面変わって混乱のサンクトペテルブルク。ここで真風が銀橋から登場、スリ、かっぱらいなど悪の限りを楽々とやってのけるディミトリ(真風)は、ボルシェビキの追跡から元貴族ヴラド(桜木みなと)を助ける。そしてさらに10年後、大通りでは役人ヴァガノフ(芹香斗亜)が演説をしているが、人々は皇族の末娘アナスタシアが生きていて、見つけたものにはマリア皇太后から莫大な報奨金が出るという噂でもちきりだった。ディミトリたちもさっそく一計を案じ、アナスタシア役のオーディションを開くが、そこに過去の記憶を失ったアーニャ(星風)がやってくる。パリに行くための出国許可証が必要というアーニャをディミトリはアナスタシアに仕立てようと決める。

ストーリーの前段から発端を非常にテンポよく簡潔に、要領よく提示して、見ているものを自然に「アナスタシア」の世界に誘い込んでいく。真風以下出演者の口跡の確かさも展開がスムースに理解できた要因のひとつ。演出の丁寧な工夫が生きた。

アーニャは本当にアナスタシアなのか、皇太后マリアはアーニャをアナスタシアと認めるのか、ストーリーの芯はこの一点なのだが、これにディミトリのアーニャに対する気持ちの変化、芹香扮するヴァガノフのアーニャに対する複雑な心情などが入り乱れて、一幕の終わりに二幕への期待が膨らんだのは「スカーレット・ピンパーネル」以来のことだ。

二幕はパリに着いたディミトリとアーニャ、そしてヴラドの3人がマリア皇太后にいかに謁見するかがメーンになる。そこで登場するのが皇太后の側近リリー(和希そら)。和希の女役は「ウエストサイドストーリー」のアニタ以来だが、歯切れのいいセリフとよく伸びる歌唱で場面をさらう。パリオペラ座のバレエ公演の夜、アーニャとマリア皇太后が顔を合わせることになるのだが、さて…。

映像をふんだんに使った装置といい、皇太后やアーニャの衣装の豪華さもみどころだが、真風はじめ宙組生それぞれ歌唱力の充実ぶりが、作品全体のクオリティーを高めたことは確かな事実。4か月間の自粛期間は決して無駄にはなっていなかったことを証明したかのようだった。

タイトル通りアナスタシアがヒロインの話なので、真風扮するディミトリは、どうしても引き立て役のようになってしまうが、アーニャへの気持ちが変わっていく様子を真風ならではの繊細さで計算づくで演じこんだ。何より歌唱の充実ぶりがうれしい驚きで、新曲もそうだが何度も聴きたい気を起させたのが立派だった。

星風のアーニャは、皇女のイメージをかなぐり捨てる強く何も恐れない芯のある女性像を的確に演じ、娘役としてまた新たな新境地を開拓したようだ。数曲ある歌唱ソロも安心して聴けた。

道端で掃除夫をしていたアーニャに一目ぼれ、その人が自分が追わなければいけない女性であることが分かって苦悩する新政府の役人ヴァガノフに扮した芹香は、そんな複雑な思いを抱える男性を誠実に体現。この役はもう少し悪役に徹し、ディミトリとの三角関係的な面白さをもう少し前面に出してもよかったのではないかと思うのだが、割とあっさりしていて拍子抜けだった。しかし、それがこのミュージカルの狙いだとしたらそれはそれで納得でき、芹香も好演した。

あと桜木のヴラド、和希のリリー、マリア皇太后の寿あたりが役として重要な役どころで、セリフのある役が少ないが、宙組生のまとまりがよくて、歌にダンスに非常にレベルの高い舞台だった。

フィナーレは桜木の「過去への旅」のソロから始まって、ミュージカルの主題歌をナンバーに取り入れた構成。真風と星風のデュエットダンスは新曲「彼女が来たら」だった。

©宝塚歌劇支局プラス11月9日記 薮下哲司

 

おわび  原稿の初稿で録音を生オケと表記、多くの方から誤りのご指摘を頂きました。すぐに削除したのですが、ご指摘のコメントと直しのタイミングが逆になってしまった方もおられてご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした。

                                                                        薮下哲司


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