©️宝塚歌劇団
凪七瑠海、これぞ正統派男役スタイル!「パッション・ダムール」開幕
専科の凪七瑠海コンサート、ロマンチック・ステージ「パッション・ダムール-愛の夢-」(岡田敬二作、演出)が11日、宝塚バウホールで開幕した。宝塚の男役として円熟期にさしかかった凪七のために、岡田氏が自身のロマンチック・レビューの名場面を再構成してつづるコンサートで、懐かしい歌やダンスシーンが連続、宝塚レビューの神髄が味わえる好ステージとなった。
凪七8変化がテーマのコンサートで、オープニングの第1章はスパニッシュ。幕が開くと舞台中央に真紅の衣装を着た凪七が登場。ポーズをとって新曲「パッション・ダムール」を歌いはじめると、テンションは一気に上昇、雪組生16人全員が登場しての総踊り、情熱的なプロローグが展開する。典型的な宝塚レビューのプロローグなのだが、すごく久々に見た気がしてなんだかホッとした。
凪七はそのまま残って「ドリフター・イン・ザ・シティ」を肩の力を抜いて歌う。この呼吸が絶妙でプロローグからこのあたりで、見るものを男役凪七の世界に引き入れた。伸びやかな歌、身のこなしのスマートさ、男役としての芯の強さと、かつてのひ弱なイメージはどこにと思うほどの充実ぶり。品の良さが体全体からにじみでていて、宝塚のプリンスというにふさわしい。
続く第2章は「ネオ・ダンディズム」から「アディオス・バンパミーア」。ここでは凪七のガウチョスタイルがことのほかよく似合った。ガウチョは着こなしが難しいのだが、動きのシャープさで自分のものにして男役としての充実ぶりがこんなところでもうかがえた。
第3章は「Amourそれは…」からクラシックバレエ。凪七が豪華な黄金の衣装から一瞬でブルーの王子様スタイルに早変わり。星南のぞみを相手にデュエットダンスを披露。
第4章は「ル・ポアゾン」から名場面「愛の誘惑」の再現。パラダイスの歌手、縣千が長髪で妖しい青年ぶりをなかなかに醸し出していて次の凪七を中心とするジゴロの場面につないだ。ここがこのコンサートの中でも白眉で、凪七とその影ともいうべき踊る青年たちとの群舞がなんともセクシーで、そのあと凪七が彩みちるを相手役に娘役陣と踊る「Gigolo」の場面がぐっと盛り上がった。何度も見た名場面だが、セクシーでありながら非常にすっきりとした場面に仕上がっていた。
一幕終わりは凪七が眞ノ宮るい、縣、一禾あお、壮海はるまの4人とともに白燕尾で名曲「オール・バイ・マイセルフ」歌い踊って締めくくった。
一幕だけでもなんともいえない懐かしさと宝塚らしさを感じたのだが、二幕は第6章「ダンディズム」の「ハードボイルド」からスタート。さらに増幅した。凪七と縣の男役同士のダンスの濃厚なこと。一方、第7章は一変してジグモンド・ロンバーグのオペレッタの名作「学生王子」を再現。男役の軍服姿が凛々しさが目に染みた。そして締めくくりの第8章は「皇帝と魔女」から𠮷崎憲治氏の名曲「愛の歌」をボレロバージョンでダイナミックに華やかにフィナーレとなった。どの場面もThis is TAKARAZUKAでおなか一杯という趣向。凪七がそんなクラシックな宝塚の雰囲気によく似合った。ただの再現ではなく現代的な新しさを工夫しているところも効いていた。
各章の間に間奏曲として若手スターの歌を挟んだのもヒットでなかでも一幕で「ラモーナ」二幕で「仙女の祈り」を歌った有栖妃華(ありす・ひめか)の美しい歌声が印象に残った。
初日前日の舞台稽古には凪七と同期生の雪組の望海風斗や星組の礼真琴も客席に駆け付けたそうで、望海などは「毎日でも見たい」というほどはまっていたとか。フィナーレのカーテンコールでは毎回数人の出演者の挨拶があり、誰もが「このレビューに出られて幸せ」と笑顔満面で話し、出演者も観客も幸せな空間を作り上げていた。17人というコンパクトな公演なので、全国津々浦々にツアーして宝塚の魅力をアピールするには格好のレビューではないかと思った。
©宝塚歌劇支局プラス10月13日 薮下哲司