早霧せいな「ゲルニカ」で久々の舞台に登場
紅ゆずるも退団後初舞台を前にトークショー開催
コロナ禍の自粛ムードも徐々に解禁になり、タカラジェンヌOGの活動も少しずつ再開されているが、元雪組トップスター、早霧せいなが、バツイチの政治ジャーナリストという硬派の役どころに挑戦した「ゲルニカ」(栗山民也演出)が9日から京都劇場で開幕、また、来年4月に大阪松竹座で「アンタッチャブルビューティー」出演が決定した元星組トップスター、紅ゆずるも、10日同座で、その前宣伝を兼ねたトークショーを開催。それぞれ元気な姿を見せてくれた。
早霧が出演した「ゲルニカ」は、ピカソが描いた同名の大作からインスピレーションを受けた栗山氏が長田育恵氏に依頼して書き下ろされた新作舞台。ゲルニカはスペイン北西部バスク地方の古都。1937年4月26日、ドイツ軍の無差別爆撃によって街ごと破壊された。第二次世界大戦中、世界各地で行われた戦闘機による最初の無差別爆撃といわれている。舞台は、その前年から始まり、当時のスペイン国内の政治状況、ゲルニカの人々の日常生活をつぶさに再現、悲劇の日に至るまでを描いていく。
1936年7月17日、ゲルニカの元領主の娘サラ(上白石萌歌)といとこのテオ(松島庄汰)の婚礼の日。サラが母親マリア(キムラ緑子)たちと結婚衣装の準備をしている最中に、神父がやってきてクーデターが起こったことを知らせる。テオは急きょ出征、婚礼は中止になる。サラは何が起こったのか理解できない。
一方、内戦下のスペインを取材する女性記者レイチェル(早霧)は、戦場で外国特派員クリフ(勝地涼)と出会い、取材姿勢の違いでぶつかりあいながらも同行することになる。途中、共和軍兵士ホセ(林田一高)が道案内、大学を辞めて軍隊に入隊するというイグナシオ(中山優馬)も加わる。ゲルニカに着いた4人は偶然立ち寄った食堂でサラと出会い、その出会いは5人の運命を大きく変えていく。
スペイン内戦という遠い異国の出来事を、ピカソの一枚の絵画からストーリーを紡ぎだし、それを現代日本人の問題にまで引き寄せた長田氏の脚本力が見事。コロナ禍で芝居を見られなかった飢餓感を埋めるだけでなく、ここ数年の書き下ろしのなかでも屈指の出来栄えだった。単純に右派左派とはいえない旧勢力と新勢力の対立、これに歴史的な民族間の確執があり、これらに大国の思惑が絡み合う。結局、命は個人ではなく数で数えられる。今の日本の現状が重なり合った。
母親マリア役のキムラ緑子の圧倒的な存在感、元料理人イシドロの谷川正一朗ら演技巧者ぞろいの舞台で、早霧は、男性ばかりの戦場に一人でやってきた女性ジャーナリストという役柄を、その凛とした外見でかっこよくアピール。自分なりの言葉で戦争の真実を伝えようというレイチェルの使命感のようなものもストレートな演技でよく伝えた。早霧が書くタイプライターの文字が舞台進行のガイドにもなる重要な役どころだった。
ヒロインの上白石も何不自由なく育った令嬢が、出世の秘密、階級問題、戦争の真実を知っていくうちに人間的に成長していく様子を的確に表現。そんな少女の成長物語を縦軸にしながら時代の大きなうねりを横軸に巧みに織り込んで最後まで緊張感が緩むことはなかった。
一方、紅のトークショーは、コロナ禍で大阪松竹座が2月公演を中止して以来8か月ぶり再開場のトップバッターとして開催された。退団後初舞台となる「アンタッチャブル・ビューティー」~浪花探偵狂騒曲~(4月16日~26日)の前宣伝のためのファンミーティング的な催しで、ソーシャルディスタンス形式の客席で昼夜2回あわせて約1000人、即日完売の人気だったという。
回り舞台上の大ぜりがくるりと一回転、レーザー光線の「紅降臨」の文字とともに派手に登場。「皆さんおひさしぶり」と明るい第1声から、地元大阪弁をまじえながらトーク爆発。
ビデオメッセージは、小学生のころからの知り合いという松本幸四郎、元星組の同志、柚希礼音、雑誌で対談してからのおつきあいという山本耕史が登場。柚希は在団中に、口も利かない大げんかをしたが、仲直りして「一生親友でいよう」という濃い中になったことを披露。紅も「喧嘩中に“愛のボレロ”を踊る場面があって、振付の先生からまるで格闘技みたいと笑われたのですが、仲直りしてからのボレロはそれは素晴らしくて、気持ちは演技にも表れるんだとよくわかった」と振り返っていた。
「アンタッチャブル・ビューティー」はまだ内容も決まっていないそうだが「大阪でしかも憧れの松竹座なので、大阪弁の舞台になると思う。絶対見に来てね」とPR。「宝塚の時も渡された台本は大阪弁で読み下して、理解してから標準語に直してたんです」というほどなので自然体の楽しい舞台になりそうだ。そのあとには8月から10月にかけて東京明治座、名古屋御園座、福岡博多座そして大阪新歌舞伎座と4都市を巡演する東宝ミュージカル「エニシング・ゴーズ」(原田諒演出)のヒロインも決定。「来年はいろいろあるので楽しみにして」と笑顔満面だった。
©宝塚歌劇支局プラス10月11日記 薮下哲司
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早霧せいな「ゲルニカ」、紅ゆずるトークショー
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