愛希れいか、迫力のダンスシーン!「フラッシュダンス」大阪公演
6年7か月の間、月組の娘役トップとして活躍したのち2018年に退団、ミュージカル女優として再出発した愛希れいか主演によるミュージカル「フラッシュダンス」(岸谷五朗演出)大阪公演が、8日からシアタードラマシティで始まった。コロナ禍でチケットの発売方法がコロコロ変わり、公演自体あるのかないのかずいぶん気をもませたが、9月の東京公演に引きつづいて大阪公演も感染拡大を防ぐため最大限の配慮を施しながら無事開幕した。
「フラッシュダンス」は1983年に封切られ、MTV全盛の時流に乗って主題歌とともに一世を風靡した大ヒット映画の舞台化。2008年にイギリスのプリマスで初演され、ロンドン、全米ツアーと巡演、今回の日本公演となった。映画公開時、映画会社の宣伝マンからタカラジェンヌにもぜひ見てほしいので完成披露試写会に誰か来てもらえないだろうかと依頼され、当時、私が「歌劇」に寄稿していた関係で担当の編集子に声がけしたら麻実れい、遥くらら、大浦みずき、峰さを理、涼風真世ら各組のスターたちが宝塚から大阪の劇場まで大挙かけつけてくれ、会場が大いに盛り上がったことを思い出す。それだけ話題作だったという証だ。
映画はジェニファー・ビールスが主演したが、今回はダンサーとして定評のある愛希れいかの魅力を最大限に生かそうというのが狙い。舞台は、ほぼ映画と同じ展開。1983年、アメリカ中東部の工業都市ピッツバーグ。昼は溶接工、夜はクラブでフロアダンサーをしながら本格的なバレエダンサーを夢見ているアレックス(愛希)が、紆余曲折の上、バレエカンパニーのオーディションで夢を勝ち取るまでを「What a feeling」はじめ数々のヒット曲をバックに描いている。
アレックスの日常をスケッチしながら溶接工場でのダンスから夜のクラブのフロアショーまでを一気に見せるプロローグが快調。工場の御曹司ニック(広瀬友祐)がアレックスに一目ぼれするくだりも要領よく描かれる。1幕はアレックスがオーディションを受けられることが決まるまで、2幕はそのオーディションの場面がクライマックスになる。すべてはそのオーディションのために進行、見せ場はその1点に集中するストーリーでもある。そこまでの話はほぼつけたしのようなもの。愛希のダンスを存分に楽しんでもらうためのミュージカルとしては非常によくできたミュージカルで、愛希も全編にわたってその期待に応えた見事なダンスを見せてくれた。1幕終わり、本水を浴びるシーンは「ウェディングシンガー」でも樹里咲穂で同様の場面があり、その印象が強いが、客席をあっと驚かせる迫力は十分にあった。
愛希の退団後の舞台は「エリザベート」「ファントム」と続き、これが3作目だが、関西では「エリザベート」が公演中止になったため「ファントム」以来2度目。ダンサー愛希の実力をいかんなく発揮できた、これ以上望めないいい作品に出合ったと言えるだろう。
ハイレグやレオタードなど宝塚では見られなかった露出度で踊る愛希のプロポーションに目を奪われるものの、欲を言えば、全体から見て前半が少し長いような気がするのと、クライマックスのオーディションシーンでの審査員席の位置が愛希のダンスの邪魔になっているような気がして落ち着かなかった。ヒット曲は仲間の歌手に歌わせて、愛希はオリジナル曲を歌うという構成はヒットだった。音域の合わない曲を歌われるほど聞いていて辛いものはないからだ。
ニック役の広瀬は、恵まれた環境に育ったボンボン的な甘い魅力を巧みに表現、アレックスに出会って人間的に成長していく様子も的確だった。とはいえ男性キャストより女性キャストが優勢。アレックスの親友グロリア役の桜井玲香のキュートな魅力、バレエの恩師ハンナの春風ひとみのさすがの実力、ハンナの付き人ルイーズとバレエカンパニーの審査委員長の二役を演じた秋園美緒の見事な変わり身、そしてDream Shizuka、石田ニコルといったバックコーラス隊の歌唱などなど女性陣の健闘が際立ったミュージカルだった。
©宝塚歌劇支局プラス10月9日記 薮下哲司