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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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宝塚大劇場が17日再開。花組公演、ミュージカル浪漫「はいからさんが通る」初日レポート

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©宝塚歌劇団

 

コロナ禍で3月10日以降全公演を休演していた宝塚大劇場が17日、花組公演、ミュージカル浪漫「はいからさんが通る」(小柳奈穂子脚本、演出)から約4か月ぶりに再開し、トップスター、柚香光の本拠地お披露目がようやく実現した。久々のアップとなった「宝塚歌劇支局プラス」今回はこの初日の模様を報告しよう。

 

宝塚花のみちには3月時点ではまだ工事中だった新「宝塚ホテル」がオープン、大劇場初日開場に急ぐファンもおもわず足を緩めてその偉容をながめながら劇場へ向かう姿がちらほら、4か月ですっかり様変わりした花の道に改めて休演期間の長さがうかがえて、今回のコロナ禍の異常事態を改めて実感させられる。

 

大劇場正門前にはテレビカメラや報道陣が多数詰めかけ、かけつけたファンに感想を聞くなど、劇場再開が社会的にも注目されていることを裏付ける光景も。入場はバウホール口一か所で、入場者全員に手指のアルコール消毒を要請、体温をチェックしてからロビーに入場というシステム。初日とあってやたらにマスク姿の関係者が目につき、全社員総動員といった感じのものものしさ。ファンクラブのチケット出しもロビー大広間ではなくエスプリホール前、開演前のロビー大広間はいつもとはずいぶんちがった雰囲気だった。

 

座席は感染拡大を予防するため、一席ずつ空けての販売、舞台と客席の距離を保つために最前列も空席にし、定員2500人の半分以下の収容とあって再開を待ちわびたファンで初日のチケットは早々に完売。劇団は再開当日のフィナーレをCSの専門チャンネルで生中継し、18日の公演をネットで有料配信するなど遠隔地で劇場に足を運べない人のための新たな取り組みも企画してこの事態に積極的に対応。そのためかチケットは座席数が減っているにも関わらず、日にちを選ばなければまだ余裕があるという。

               

「はいからさん―」は、大和和紀原作による人気コミックの舞台化。大正期の東京を背景に、はいからさんと呼ばれる快活な女学生と美貌の陸軍少尉が繰り広げる波乱万丈の恋物語。宝塚でも1979年に平みち、剣幸、日向薫といったメンバーでドラマ化されたことがあり、2017年に当時二番手だった柚香光主演で初めて舞台化され、大好評だったことから、花組の新トップスターに就任した柚香の大劇場お披露目公演に選ばれた。当たり役でのトップ披露とあってファン待望の公演といえるだろう。

             

四か月遅れでようやく開幕した公演は、舞台上の三密を避けるため、演出に工夫を重ね、オーケストラの生演奏を録音に変更、フィナーレの客席おりもなくすなど、感染予防に最大限の配慮をして上演。開演前の「場内でのおしゃべりは控えてください」という場内アナウンスのせいか、しーンと静まり返った客席が、ざわついたのは5分前に緞帳があがりピンク色の文字で「はいからさんが通る」と浮き上がった時。そして高翔みず希組長の挨拶のあと柚香光の開演アナウンスになると爆発したように大きな拍手が。半分の人数のはずだが2500人収容の時と同じくらいのパワー。

 

公演は基本的には2017年のドラマシティバージョンとほぼ同じ展開、舞台が広くなり、装置が豪華になって全体がバージョンアップした感覚。紅緒(華優希)と蘭丸(聖乃あすか)が剣道のけいこをしている場面から始まるのは同じで、高屋敷要(永久輝せあ)のナレーションからプロローグへ展開していく。ここが新たな大劇場バージョンだ。そしてプロローグで初めて伊集院忍(柚香光)が登場。主題歌を歌い始めると客席から一気に手拍子が巻き起こり、いつもの大劇場モードに、客席に漂っていた緊張感がこれで崩れたのか、あとは笑い声が絶えず、舞台と客席が一体となっていった。

 

膨大な原作の最初から最後までを一気に駆け抜けるストーリーは、前回と同じで波乱万丈。1918年シベリア出兵から1923年の関東大震災まで、自由の気風にあふれながらも軍国主義に走っていった大正期の日本の歴史を背景にメロドラマチックに描いていて、最後まで飽かせない。この時代に欧米人の血を引く陸軍将校が現実にいたとはにわかに信じられず、日本語が流暢な亡命ロシア貴族がいたとも思えないが、それを言ってしまえば、話が成立しないので、その辺は目をつぶるとして、宝塚少女歌劇が産声をあげて4年後から5年間のお話といえば身近に感じる人も多いかも。まだ「モン・パリ」も上演されておらず、レビューもなかったころだが、ほんの少し女性が社会進出し始めたころでもある。舞台はそんな時代の空気を、現実ではないにしてもまんざら絵空事でもなく再現しているところに好感が持てた。そして4か月の休演を経て再開した宝塚にふさわしい明るさが何よりだった。

 

伊集院忍役でトップ披露となった柚香は、まるで漫画から抜け出たような凛々しさ美しさ、力強さの中に純粋さとコミカルな部分もうまく引き出され、これ以上ない適役、ながく代表作として語り継がれるだろう。ここまで役と本人が二重写しになった例はこれまでみたことがないといってもいいぐらいだ。難を言えば歌唱に課題があるのだが、ハートがあればそんなことはどうでもいいと思えるぐらい超越してしまっていた。今後、これだけの適役はなかなか巡り合えないと思うが、これをばねに大きく羽ばたいてほしい。

 

紅緒に扮した華も、3年前に比べて段違いの成長ぶり。初演時も、可愛いおてんば娘といった雰囲気は抜きんでていたのだが、今回はこれに加えて、忍が戦死したと聞いた後の後半の心の動きの表現に幅が出て、特に白の喪服で登場するシーンの神々しいまでの美しさは感動ものだった。

 

青江冬星役の瀬戸かずやは後半からの出番だが、特異な役で、このところ絶好調の瀬戸にとれば手の内ともいうべき役どころ。余裕の演技で舞台全体に厚みを加え、初演の鳳月杏に劣らず強烈な心象を残した。ラストの「学年順」のギャグには大いに笑わされた。

 

鬼島軍曹の水美舞斗と蘭丸の聖乃あすかは初演と同じ配役。いずれも適役好演というしかないはまり具合。両極端のタイプを二人の持ち味で見事に見せてくれた。花組初登場の永久輝せあは、初演で亜蓮冬馬が演じた作家の高屋敷要役。初演より膨らませてあったが期待の永久輝にしてはやや役不足。周囲が個性の強い役ばかりなのでやや埋もれ気味だった。次回に期待したい。

 

初演で天真みちるが演じて好評だった車引きの牛五郎は飛龍つかさが演じ、天真に負けず劣らずの弾けた演技で客席の笑いを誘ったが、初日はまだまだ力の半分くらい、もっともっとおもしろくなりそうだ。

 

娘役では環(初演は城妃美伶)の音くり寿。芸者の吉次(桜咲彩花)の朝月希和といったところが大きな役。芝居心のある音の的確な演技と歌、大人の女性の分別を独特の雰囲気で見せた朝月、どちらもグッドジョブだった。

 

あと印象に残ったのは印念中佐役の優波慧と伊集院家の女中頭、如月を演じた鞠花ゆめ。二人とも芸達者さで際立ったがなかでも優波は悪から善に転じるもうけ役。

 

専科の英真なおき、美穂圭子はもはやいうべきもない貴重な存在。しっかりと脇を締めた。

 

明日海はじめ娘役が大量退団後、永久輝や朝月が新加入しての花組新体制第一作だが、やはりずいぶん雰囲気が変わったなあという印象。新たな花組のスタートがこの作品でよかったという思いでいっぱいだ。

 

フィナーレは瀬戸の「大正浪漫恋歌」から始まって華雅りりか、朝月、春妃うらら、音の娘役4人を中心にしたナンバー、女学生の制服をイメージしたロケットに続いて柚香ら男役による燕尾服の群舞、柚香&華のデュエットダンスと続く。デュエットダンスは伊集院と紅緒の結婚式をイメージしたものでなんとも優雅だった。柚香は「きょう舞台に立って、あらためて宝塚が、舞台が大好きだということを再認識しました。プロローグの大きな拍手がどんなにうれしかったか言葉では言い表せません。この日の舞台の実現に尽力してくださったすべての皆様に本当に感謝の気持ちでいっぱいです」と感無量の面持ちであいさつ、鳴りやまぬ拍手は延々と続いた。

 

再開初日はこうして無事幕を閉じたが、東京や大阪などでは再び感染者が増加傾向にあり、いつまた休演という最悪の事態になるか予断を許さない状況。入場者全員の検温とアルコール消毒、マスクの徹底など劇場側の対応に加えて、これからの舞台が無事開幕できるように観客側も各自責任をもって予防を徹底、両者で安心して楽しめる空間をつくりあげることが必要だろう。

 

©宝塚歌劇支局プラス7月17日記 薮下哲司

 

 

 

毎日文化センター「宝塚歌劇講座」再開のお知らせ

 

◎…毎日文化センター(大阪)の「薮さんの宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)は4、5月とお休みさせて頂きましたが6月から再開させて頂いております。7月は22日(水曜)13時半から開講します。今月は花組公演「はいからさんが通る」を中心に4か月ぶりに再開した宝塚歌劇の今後についてのホットな話題をたっぷりお話しできそうです。ふるってご参加ください。受講お申し込みは毎日文化センター☎06(6436)8700まで。

 


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