©️宝塚歌劇団
星組新トップコンビ、礼真琴、舞空瞳、大劇場お披露目公演「眩耀の谷」開幕
星組の新トップコンビ、礼真琴と舞空瞳の披露公演、幻想歌舞録「眩耀(げんよう)の谷~舞い降りた新星~」(謝珠栄作、演出、振付)とShow Stars「Ray-星の光線―」(中村一徳作、演出)が、7日、宝塚大劇場で開幕した。令和初、そして95期生初のトップスターとなった礼のお披露目は、謝氏の書き下ろしによる中国歴史ファンタジーとダイナミックなダンスレビュー、若さはじけるフレッシュなステージとなった。
「眩耀―」は、紀元前800年ごろの中国、流浪の民フン族を滅ぼした周の宣王(華形ひかる)は、管武(カンブ)将軍(愛月ひかる)にフン族の聖地「眩耀の谷」攻略を命じ、将軍は若き精鋭、丹礼真(礼)を探索に行かせる。礼真は謎の男(瀬央ゆりあ)の導きで「眩耀の谷」を突き止めるが、そこで出会ったフン族の盲目の女性、瞳花(舞空瞳)から思いがけないことを頼まれる…。後半に向けていろんな仕掛けがあり、ストーリーを詳しく書けないのがつらいが、一言でいえば、希望に燃えて任地についた青年が、理想と現実のギャップに苦しみ、人間として成長していく様子を描いた作品で、敵も味方も人は人、寛容の心で接することが一番大切であるというのがテーマ。謝氏ならではのリベラルな視点が底辺に流れるすがすがしい感動作だ。ちなみに「眩耀」とはまばゆいばかりに輝くという意味、谷の美しさと礼の魅力をかけているという。
装置、衣装、映像が凝っていて、独特の作品世界が現出するが、謝氏が振付も担当していることから群舞や殺陣、中国舞踊など動の部分の切れ味がどれもシャープで、どの場面も統制がとれていて見ていて心地よく、新トップ披露公演らしく作品全体に緊張感がみなぎった。
礼真に扮した礼は、信じていたものが崩れ去り、生き方そのものを自問自答、自らの考えで新たな世界に進もうとする姿が、新トップの道と重なり、なんともさわやかな印象。硬質で芯のある魅力的な歌声もふんだんに披露、これ以上ないトップ披露となった。
瞳花に扮した舞空も、舞姫でありながら盲目という難役を、押し出しのあるはっきりとしたセリフで力強く表現、しなやかな中国舞踊のすばらしさとともに堂々たるヒロインぶりだった。
礼真が心酔する管武将軍に扮した愛月も星組二番手としてのお披露目公演。現代社会でいえば中間管理職のような役どころで礼真にとっては大きな存在だが意外と人間臭い役。愛月にしかできない豪快な役作りで存在感もあり好演しているが、後半が書き込まれていないので芝居的にはやや尻切れになるのが惜しい。宣王の華形はこの公演がサヨナラ公演。カリスマ性のある国王役を圧倒的な存在感で演じ切り、宝塚生活の有終の美を飾った。花組時代、主演した「落陽のパレルモ」新人公演での華奢な二枚目のころを知っているだけに感慨深いものがある。ショーのフィナーレには銀橋ソロも用意された。
一方、謎の男に扮した瀬央ゆりあがもうけ役。突然現れては、ふっと消えるのだが、礼真にとっては非常に頼もしい男という設定。出番は多くないがどれも印象的な場面に登場するのでインパクトは強い。瀬央もそのへんをうまく計算して的確な演技で好演した。もうけ役といえば語り部の春崇に扮した有沙瞳も忘れてはならない。琵琶の演奏も含めて随所に登場してナビゲートしていくのだが、その意味が最後に明かされ、一気に忘れられない存在になった。これは見事だった。
ほかに花組から組替えになって最初の公演となった綺城ひか理は憧花を慕うフン族の戦闘員カイラ。クリチェの天華えまといつも一緒にいるという役だが、後半で大きな働きをして印象に残る。極美慎と3人で売り出していくものと思われるが、長身でどこにいても際立つ美貌が大きな武器だ。ショーで有沙と銀橋でのデュエットが用意された。
ショーは、「ファントム」でも印象的だったジャイジン・チュンの映像のパワーがフルに発揮された新感覚のステージングがみどころ。さまざまに変化する映像をバックに礼を中心にした星組メンバーがエネルギッシュに歌いそして踊る。全員フルメンバーが出る場面が多く、宝塚ならではのスペクタクルシーンが連続、まさに豪華絢爛。場面的には第三章Ray夢(霊夢)のタンゴのシーンが洗練されていて見ごたえがあった。中詰めのあとでオリンピックイヤーを意識したギリシャが舞台のオリンピアの場面もあり、礼、舞空の新トップ披露にふさわしい華やかなダンスショーだった。
©宝塚歌劇支局プラス2月7日記 薮下哲司