新人公演プログラムより抜粋転載
©️宝塚歌劇団
諏訪さき、堂々の初主演「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」新人公演
雪組の若手実力派ホープ、諏訪さきを中心にしたミュージカル「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(小池修一郎脚本、演出)新人公演(竹内悠一郎担当)が21日、宝塚大劇場で行われた。前回の「壬生義士伝」新人公演で大野次郎衛門役(本役・彩風咲奈)を好演した諏訪の入団7年目にして最初で最後の新人公演主演となったが、本公演で望海風斗が演じているヌードルスを、期待に応えて見事に演じ切り、満員の客席を魅了した。
一本立て大作の通例により前半が大幅にカット、幕開きは第一場Bの1932年、ヌードルス(諏訪)を中心にしたギャングスターの群舞シーンから。舞台中央、スポットを浴びて振り向きざまに歌いだした諏訪の自信に満ちた表情が凛としていて客席の視線を一気に吸い寄せた。新人公演ではこれまでずっと脇を固める役が多かったが、センターに立つとこうも変わるのかと思うほどのオーラが充満した。
諏訪のこれまでの新人公演歴を見てみると、「るろうに剣心」が加納惣三郎(本役・望海風斗)「幕末太陽伝」が徳三郎(彩風咲奈)「ひかりふる路」がルイ・アントワーヌ(朝美絢)「ファントム」がルドゥ警部(真那春人)となり「壬生義士伝」の大野と続く。「るろう―」の加納役が面白かったので印象に残っていたのだが、その後脇に回り「壬生―」の大野役が素晴らしくて、一度は主役で見たいと思ったのだが、今回、ヌードルスという諏訪でなければできそうにない大人の役がめぐってきて、まさにドンピシャの新人公演主演となった。
いわゆる万人向けの貴公子タイプではなく、どちらかというと個性的なタイプ。しかし、ひとたびセンターに立つと、それが唯一無二の個性となって光り輝いた。これまでの蓄積が一気に花開いた感がある。新人公演はヌードルスの少年時代がカットされ、刑期を終えて出所するところから始まり、ストーリー自体が非常にすっきりしたことも幸いしたかもしれない。
本公演の望海がいとも楽々と歌っているように見えるので感じなかったのだが、新人公演を見ると次から次へと歌の大曲が難関のように迫るハードルの高い作品であることが改めてよくわかる。諏訪はその高いハードルをよくこなし、ただ歌詞をなぞるだけではなくヌードルスの気持ちをきちんと表現しながら歌っていたのがさすが実力派のホープだった。特に最初の銀橋ソロ、さらにデボラが去った後に歌うレストランでの絶唱は聴かせた。
マックス役(彩風)の縣千、ジミー役(彩凪翔)の彩海せらはいずれもすでに新人公演の主役経験があり、今回は脇に回ったのだが、主演経験があるのとないのではやはり舞台での立ち位置が全く違っていてどちらも余裕たっぷりの好演で主役の諏訪をサポートした。縣のすっきりした長身から醸し出すスターオーラは、マックスという役の個性にぴったりだし、ジミーに扮した彩海は、前作「壬生―」の吉村役とはうってかわった男臭い演技で瞠目した。二人とも男役としてのこの成長ぶりは驚く限り。
真彩希帆が演じているデボラに挑戦したのが潤花。早くから抜擢され、劇団の期待値が高いが。それに応えて公演ごとにその成長ぶりが著しい。今回は、フォーリーズの舞台シーンからの登場でいきなり歌のソロがあり、緊張気味でやや上ずったところがあったが、舞台姿に華があり、少々のミスはそのあでやかさで帳消しになる。得な人である。後半の再会シーンでは落ち着いた大人の演技も板につき、美しさに芝居心が加わった。これからの活躍がさらに楽しみな存在だ。
朝美絢が演じたマックスの愛人キャロルは彩みちる。朝美のインパクトが強くて、やや淡白に見えた。歌の実力はある人なので、登場シーンなどもっと妖艶さでアピールしてほしい。
ほかにヌードルスの仲間、コックアイ(真那春人)の眞ノ宮るい、パッツィー(縣)の一禾あお。唯一裏社会とはかかわらないピアニストのニック(綾凰華)の星加梨杏、デボラの兄ファット・モー(奏乃はると)の望月篤乃といったところが印象的な役どころだが、進行役も兼ねる望月の安定感のあるセリフと演技が舞台を引き締めた。
センターの諏訪の堂々たる存在感もあって全体的にレベルの高い公演だったが、諏訪の初主演舞台を縣、彩海ら雪組新人公演メンバーが結束して支えた団結力のようなものが舞台からじかに伝わったさわやかな舞台でもあった。
©宝塚歌劇支局プラス1月22日記 薮下哲司