月組によるスペクタクル・ミュージカル「1789」―バスティーユの恋人たち―(小池修一郎潤色、演出)の新人公演(谷貴也担当)が12日、宝塚大劇場で上演された。今回は、期待の新星、暁千星の二度目の新人公演主演となったこの公演の模様を報告しよう。
一本立ての大作とあってプロローグやマリー・アントワネット登場シーン、さらに一幕ラストなどがカットされるなど縮小版だったが、ストーリーには影響はなく、逆にコンパクトな感じで引き締まった。龍真咲はじめ星条海斗、美弥るりから本公演が個性的なメンバーぞろいなので、新人公演はずいぶんあっさりした印象。しかし、農民の青年ロナンと王室付きの養育係オランプの切ないラブストーリーという本質は外さなかったことから、全体のバランスは非常によかった。アントワネットの場面がカットされていたこともあるが、アントワネットは彼らの対称としての彩りであることがよくわかった新人公演だった。
ロナンに扮した暁は研4で新人公演主演は二度目。いかに期待のスターであることがこれでもわかろうというもの。ダンスの実力があり、歌唱力もあるが、男役としての声の出し方や演技はまだまだ発展途上。しかし、磨かれていないダイヤモンドの原石のような可能性に包まれ、未知の魅力を感じさせる逸材だ。ここ1年のあいだにも徐々に成長が見られ、まず体が絞られ、何より男役の化粧があか抜けてきた。本公演ではフェルゼンを演じており、トップ娘役の愛希れいかの相手役を務めていることもあって、舞台度胸もついてきた。ロナンは目の前で父親を射殺され、義憤の念をもってパリにでてきた農民の青年。そんな彼にとって貴族はおろか革命家たちさえも縁遠い存在。暁が演じるとそのあたりが非常に納得できる。若さのゆえだろうか。まだまだ、未熟で幼いが、それが逆に役にぴったりだった。弱点を強みに見せる、それもスターの資質かもしれない。場数を踏んで、大きなスターに育ってほしい。
相手役のオランプは叶羽時。「メリー・ウィドウ」のアクロバティックなカンカンで一気に名前を覚えたダンスの逸材。娘役として可憐な雰囲気で、舞台映えするが、芝居がよくいえば自然体、悪く言えば舞台の演技になっていない。新鮮といえば新鮮なのだが、完成する前の稽古をみているようだった。ただ暁の相手として、若い恋人たちという実感が舞台から匂い立ったあたりはよかったのかもしれない。
アントワネットは研3の美園さくら。音楽学校時代から歌唱力の素晴らしさで注目されていた人だが、今回はその存在の大きさと歌唱力、くっきりとした目鼻立ちが際だって、素晴らしいアントワネットだった。まさに大物娘役スター誕生である。華やかな登場シーンがカットされたのが残念だったが、王太子崩御の葬儀の場面など数ある歌のソロの存在感は圧倒的。164センチと娘役としては背が高いので相手男役が難しいかもしれないが、まだまだ時間はあるので花總まりや夢咲ねねのような形でうまく大成していってほしい。
美弥が演じて好評のアルトワは朝美絢。前回「PUCK」新人公演でのパック役がはまり役で素晴らしかったので、大いに期待したが、今回はやや色が違う役で、メイクなど工夫を凝らしたがやや持て余し気味のように見えた。本役の美弥とは異なったかなりストレートな演技で挑戦、それはそれでよかったが、権謀術数にたけたこの役にはオーバーすぎるぐらいの押し出しの強さがちょうどいいので、やはりインパクトに欠けた印象。
それはほかの役にもいえることで輝月ゆうまが演じたペイロール伯爵も、本役の星条がかなりきつく演じているため、眼光鋭い演技派輝月にしてもずいぶん普通に見えた。
革命家グループのデムーラン(本役・凪七瑠海)は夢奈瑠音、ロベスピエール(珠城りょう)は蓮つかさ、ダントン(沙央くらま)は春海ゆうという配役。それぞれ見せ場があるが、ロベスピエールの蓮が、男役としての存在感が頭一つ抜けていたように思う。ナンバーとしては夢奈が中心となって歌う場面がひとつにまとまっていてよかった。
あと暁が本役で演じているフェルゼンに扮した輝生かなでが、品があってなかなかいいフェルゼンだった。美園とのデュエットも雰囲気がよくでていた。今後の活躍に注目したい。
そして忘れてはならないのが新人公演の長として出演した娘役トップの愛希れいか。逮捕された暁ロナンに焼きゴテをあてる兵士役や民衆の女などほぼでずっぱりのアンサンブルを楽しそうに演じた。なかでも久々の男役となった兵士役のかわいいこと!終演後には長としてのあいさつも務め、公演のすべてをさらったのは実は愛希だったかも。
©宝塚歌劇支局プラス5月13日 薮下哲司 記