10年に一度の大物スターといわれた星組トップの柚希礼音のサヨナラ公演「黒豹の如く」「Dear DIAMOND」が5月10日、東京宝塚劇場で千秋楽を迎えた。この様子はさいたまスーパーアリーナ、宝塚バウホールほか全国45か所の映画館と台湾の映画館でもライブ中継され約26000人が柚希のラストデイを注視した。今回は大阪梅田の映画館での「柚希礼音ラストデイ」中継の模様を報告しよう。
長年宝塚歌劇を取材し、多くのスターを見送ってきたが、これほどの大がかりな千秋楽は初めて。メディアが発達した現代と30年前とは様子が違い、一概に比較はできないが、ライブ中継があって東京宝塚劇場のお見送りのファンが12000人(主催者発表)という数字はこれまで聞いたことがない。気取らず庶民的な柚希の愛すべき人柄がこれだけの人気となったのだろうか。ファンとは一線を画し神々しさを売ることでカリスマ的人気を誇ったかつてのスターの時代は終わり、ファンと同じ視線に立つスターの時代になったようでもある。とりもなおさず、柚希のラストデイはこれからのトップスターの退団イベントにも大きな影響を与えそうだ。
さて梅田のライブ中継はTOHOシネマズ梅田のなかでもかつて北野劇場だった一番大きいシアター1が会場。開演前のロビーはラストデイ限定のパンフレット(一部1000円)が発売され、ファンの長蛇の列でごったがえす騒ぎ。会場内も一席の空席もないフルキャパシティーだったが、上映中は終始静かで、比較的おとなしいファンばかりが集まったようだ。
開演前に、事前に収録された柚希のライブ中継用のあいさつから始まり、いよいよ「黒豹―」が開幕。柚希ふんするアントニオが部下のラファエルにふんした真風涼帆を英真なおきふんするバンデラス侯爵を将校クラブに訪ねるくだりで、用があるからとすぐに帰ろうとする真風を英真が「きょうぐらいはいいだろう」とアドリブを入れるなど、千秋楽らしい笑いも。柚希と夢咲ねねのラブシーンはいつもよりさらに濃厚で、ラストの別れの場面では、夢咲の目に思わず涙がにじんだところをカメラはアップでとらえていた。ライブ中継ならではの臨場感が味わえた。
ショーでも第15場のDolceVitaの場面で紅ゆずるがアドリブを連発。最後は柚希が「愛してるぜ!」で締めくくり、おおいに盛り上がった。
サヨナラショーは宝塚大劇場と同じ構成。「ちえちゃん」一家の場面から自身が作詞した「for good」に続くクライマックスでは、ライブ会場の客席もハンカチで目頭をぬぐう人の姿もあり、感動の渦がじわじわと押し寄せた。
最後のあいさつは夢咲が「夢のような12年間でした。夢から覚めるのが怖い気もしますが、柚希さんはじめ多くの人の愛につつまれた宝物のような12年間でした」といえば緑の袴姿で登場した柚希も「私の宝塚生活はダイヤモンドタイム、ダイヤモンドロードでした」と語り「これからも(宝塚を)愛していきます」と、宝塚を応援する力強いメッセージを約束して、ラストステージを締めくくった。
カーテンコールは4回、最後まで涙はなく明るい笑顔で「ありがとうございます」を連発。最後は「もう帰ります」といって笑いをとって総立ちのファンに見送られた。凛とした男役姿とは打って変わったオフの「ゆるさ」が何ともいえない柚希の魅力だが、最後までそれは変わらなかった。
終了後の会見で退団後のことを聞かれて「これから考えます」と答えていたが、これだけの人気者を放っておく手はないので、すぐにでも何らかの動きはあるだろう。今後の活躍にも注目したい。
©宝塚歌劇支局プラス5月12日 薮下哲司 記