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真風涼帆主演のマカロニウエスタン「El Japon イスパニアのサムライ」開幕

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©️宝塚歌劇団

真風涼帆主演のマカロニウエスタン「El Japon イスパニアのサムライ」開幕

真風涼帆を中心とする宙組による宝塚ミュージカル・ロマン「El Japon(エル・ハポン) イスパニアのサムライ」(大野拓史作、演出)ショー・トゥー・クール「アクアヴィーテ‼」-生命の水―(藤井大介作、演出)が15日、宝塚大劇場で開幕した。宝塚105周年の掉尾を飾ったのは、江戸時代に渡欧した剣豪の冒険談とウィスキーをテーマにした大人向けのショーという異色のオリジナル二本立てだ。

「イスパニア―」は、スペイン南部のコリア・デル・リオという港町に「サムライの末裔」を自認する「ハポン(日本)」姓の人々が数多く実在していることから着想を得たオリジナルミュージカル。彼らは慶長年間に仙台藩藩主、伊達政宗の命により慶長遣欧使節団としてスペインに赴いた支倉常長ら26人のうち、日本に帰らずそのままスペインに残った藩士とその従者たちの子孫といわれている。彼らの先祖はどんな経緯でスペインに残ったのか、いくらでも想像が膨らんでロマンあふれる舞台を期待したのだが、ストーリーの構築に意外性がなくやや着想倒れの感。ただ、かつてスペインでロケされたイタリア製マカロニウエスタンを意識したつくりというところにやや面白みがあった。

オープニングは快調。スペインに出航する支倉(寿つかさ)ら一行の門出を祝うお祭りでたけなわの仙台、月の浦。鬼剣舞のメンバーが勇壮に踊る中、その中の一人が政宗(美月悠)に斬りかかる。映像を使った斬新な装置や、テンポのいい振付(峰さを理、平沢智振付)が、一気に舞台の世界に誘い込む。

その時、一人の男が現れ、賊をバッタバッタと切り捨てていく。男の名は蒲田治道(真風)。鬼剣舞の首領は治道が愛した女性の弟、藤九郎(和希そら)だった。治道は藤九郎を斬ることができず、政宗は事件を公にせず、敵対する治道と藤九郎の二人を一行に加えて渡欧させることにする。この発端が大変重要でここのすべてが後半につながっていく。

当時、日本からスペインまでは太平洋を横断、さらに大西洋を渡って約1年間の長旅、この船旅だけでも大変なドラマがあったはずだが、舞台は一気にスペインへ。一行は国王フェリペ3世(星吹彩翔)に謁見するが、国王は支倉にローマ行きを促し、治道や藤九郎らスペイン残留組は郊外の修道院で過ごすことになる。ここからがようやく本筋。

治道が、スペインの農場で働く日本人奴隷の少女たちを救ったことから、謎の男アレハンドロ(芹香斗亜)や街道沿いで宿屋を営むカタリナ(星風まどか)との出会いがあり、農場主ドン・フェルディナンド(英真なおき)とその息子エリアス(桜木みなと)らと対決が生まれ、それらが治道と藤九郎の葛藤を伏線にしながら展開していく。

要するに、遣欧使節の話が本筋ではなく、流罪にされた仇敵同士が、遠い異国の地スペインで再び相まみえるという因縁話なのだ。アレハンドロやカタリナそしてドン・フェルナンドの造形にマカロニウエスタンをほうふつさせるものがあり、かつての日活の無国籍アクション渡り鳥シリーズにも似たスケールの大きい時代劇である。マカロニウエスタン風の勇壮な音楽など楽しめるが、やや話を詰め込みすぎで、どれが本筋かわからなくなってしまっているので、もう少し整理すれば、すっきりするだろう。

真風が扮する治道は、夢想願流剣術の名手という設定で、プロローグからかっこいい立ち回りをふんだんに披露、過去のある無口で陰のある剣士という、憂い顔の真風にうってつけの役どころをクールに演じていてなかなか魅力的。

星風は宿屋の女将カタリナ。マカロニウエスタンの定番ヒロインで、勝気で魅力的な大人の女性というキャラクターを星風があまりにも堂々と演じているのでびっくりさせられた。どんな役も自分の手にうちにしてしまう星風の芝居心に感服。次回の「アナスタシア」はタイトルロールとなり期待が膨らむ。

 アレハンドロの芹香は典型的なガンマン役。謎の男という設定でラストに本性が分かる仕掛け。キキをキーワードにいろんな場面で笑わせるコメディリリーフ的なところもあるが、出てきただけで場面をさらう存在感みたいなものが備わってきたようだ。声量の豊かさも頼もしい限り。

 専科の英真は悪徳農場主ドン・フェルナンドで、スペインにおける治道の敵役。楽し気に演じている。その息子エリアスが桜木みなと。剣術には自信があり、常に治道と対峙する。「オーシャンズ11」以来、濃い役が続くが、変に品のいい青年よりずっとこっちが似合うようになってきたのはそれだけ男役として完成してきたということか。

 もう一人、和希が演じた、治道のかつての恋人、藤乃(遥羽らら)の弟・藤九郎が、実はこのドラマを動かす一番重要な人物で、和希の好演もあって非常に印象的。本来はサイドストーリーのはずなのだが、これが大きく膨らんでしまったところに作劇の弱さがあるようだ。

 「アクアヴィーテ!」は、酒好きの藤井大介氏らしいウィスキーの魅力をたたえたショー。オープニングのウィスキーにひっかけた黄金色の衣装による豪華絢爛な総踊りからもうほろ酔い加減。この公演で退団する実羚淳がダンサーとしての実力をふんだんに発揮するのもみどころ。幕開きのダンサーも目に焼き付くが特に第4章の「ダフタウンビースト」のロフティドリーム役で芹香とデュエットするダンスナンバーが素晴らしかった。中盤の全員純白の衣装による中詰めも宝塚ならではの場面だが、真風と秋音光がセクシーなタンゴデュエットを披露する第8章「タースト」(ANJU振付)も忘れ難い。真風が満天の星空の下、一人で踊るシーンも圧巻。真風を中心に芹香、桜木そして和希、瑠風輝という男役ラインが明確になったショーでもあった。

 

公演は12月15日まで。

©宝塚歌劇支局プラス11月16日記 薮下哲司
 


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