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望海風斗×真彩希帆 充実の雪組コンビが魅了「はばたけ黄金の翼よ」大阪公演

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©️宝塚歌劇団

望海風斗×真彩希帆 充実の雪組コンビが魅了「はばたけ黄金の翼よ」大阪公演

雪組トップコンビ、望海風斗と真彩希帆の主演による宝塚ロマン「はばたけ黄金の翼よ」(小柳奈穂子脚本、演出)とダイナミック・ショー「Music Revolution!」(中村一徳作、演出)全国ツアーの最終地、大阪公演が、8日、梅田芸術劇場メインホールで開幕した。10月12日の川崎から始まったこの公演もいよいよクライマックス、望海ら雪組メンバーの熱のこもったパフォーマンスで充実の舞台だった。

「はばたけ―」は1985年、当時の雪組トップだった麻実れいのサヨナラ公演として阿古健氏が、粕谷紀子原作の漫画「風のゆくえ」をもとに脚色、舞台化したコスチュームプレイ。当時、研3の若手男役スターだった一路真輝をヒロインに抜擢して話題を呼んだ。以来34年ぶりの再演。伝説のスター、麻実のサヨナラ公演として長く封印されてきた作品を果敢にリニューアルした意欲作だが、結果は小柳氏の阿古氏のオリジナルをベースにしながらも新たな解釈を加えて、作品に新しい命を吹き込み、見ごたえのある作品に仕上げた。大劇場公演と違って人数が少ないので舞踏会や戦闘シーンがどうしても見劣りがするが、望海以下の出演者の熱演が、それらをカバーして余りあった。

舞台は中世北イタリアの小国イル・ラーゴ。若き領主ヴィットリオ・アラドーロ(望海)と和平のための政略で嫁いできた隣国ボルツァーノの領主の娘クラリーチェ(真彩)の愛と葛藤を軸に二人にまつわるさまざまな人間関係を絡ませて描いた波乱万丈のドラマ。

主人公のヴィットリオの性格が、領主としての威厳に満ち、暴力的なまでに荒々しく、ワンマンでありながらもカリスマ性があって男女を問わず慕われるという、宝塚の男役トップスターには理想的なキャラクター。麻実ならではの男役像だったが、これが男役として充実期の望海にぴったりはまったのが成功の一番の要因。そして初演では時間の関係でカットされた霧の十字路での二人の出会いのシーンが冒頭で復元されたこと、これがあるとないのとではやはり全然違った。また、朝美絢が扮したヴィットリオと光と影の存在というファルコ(初演は平みち)の性格にホモセクシャル的な独特の雰囲気を漂わせたのも今回の新たな解釈で、朝美の妖しい魅力をたたえた男役演技も際立って、この作品を現代に蘇らせた大きなファクターのひとつとなった。

望海は、豊かな歌唱力を武器にどんな役を演じても安定感があり、見るものを心地よくさせてくれる稀有なスター。今回もそんな自身の魅力をフルに発揮、そのうえに演技にも一回りスケール感がでてきて、ヴィットリオという器の大きい役どころを見事に表現した。黒い巻き毛の長髪のカツラもことのほかよく似合った。

相手役のクラリーチェを演じた真彩もクラシカルなドレスにブロンドのカツラが思いのほかよく似合い、しかも、ただのお姫様ではなく、ディズニー・プリンセス風の自立した考えを持つ現代的感覚を巧みに表現。後半の短髪の少年姿もかわいく、リリカルな歌声とともに真彩本来の魅力を存分に発揮した。初演よりも大幅に出演場面が増えたことでヴィットリオとクラリーチェの関係性が濃くなったことも効果的だった。

このドラマのもう一人の主人公といってもいいのが朝美演じたヴィットリオの腹心のファルコ。ヴィットリオがクラリーチェと結婚したことで、ヴィットリオを裏切ることになり、ヴィットリオと敵対するが、ヴィットリオとクラリーチェの愛が本物であることを悟って最後は忠臣を尽くして去っていく。目力があり朝美にはこういう役がことのほか魅力的。赤みがかった栗色の髪のインパクトも強烈だ。

この公演の後、花組に組替えになる永久輝せあと朝月希和の二人も最後の雪組で印象に残る仕事で有終の美を飾った。永久輝はクラリーチェの腹違いの兄で、ヴィットリオと対決する隣国ボルツァーノの若き領主ジュリオ(初演は杜けあき)。漫画から抜け出たようなブロンドのカツラはあまりにあっているとは思えなかったが、立ち姿の美しさは抜群。妹思いの優しい王子という雰囲気を体現した。クライマックスのヴィットリオとの立ち回りも迫力満点。一方、朝月は、ファルコの妹でヴィットリオの愛人だったロドミア。初演では美形の実力派娘役だった草笛雅子が演じた役で彼女も退団公演だったことから、第二ヒロイン以上の大きな役。中盤の酒場では歌の聴かせどころもある。ひたすらヴィットリオを愛する女心の切なさを朝月がけなげに演じて涙を誘った。

この作品を見ていてひとつ気づいたこと。それは、登場人物が相手を呼ぶときに常に相手のフルネームで呼び合うこと。まあ普通、会話ではそんなことはないと思い、最初は違和感があったのだが、意外とこれが効果的で、ややこしい名前をすぐに覚えられ、敵対する国同士の複雑な人物関係がすっと理解できた。こういうちょっとした心配りが作品をわかりやすくするのだと、再演の効用を思い知った。

同時上演の「Music Revolution!」は「壬生義士伝」と二本立てで上演されたばかりの新作レビューの全国ツアーバージョン。中身はほぼ本公演と同じで、人数が少なくなってセットが簡略化され、彩風咲奈のところを朝美、彩凪翔のところに永久輝が入った役替わり公演といった趣。もちろんそうでないところもあるが、大きなポジションを与えられた朝美と永久輝のスター性が前面に押し出された。レビュー自体は、大劇場で見た時のような音楽のメリハリがなく、録音のせいか最初から最後までただにぎやかな感覚。もう少し緩急がほしかった。初日の客席には元花組の蘭寿とむや愛音羽麗の姿もあって華やかだった。公演は10日まで。

©宝塚歌劇支局プラス11月9日記 薮下哲司

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