轟悠ゲバラ驚異の若さ、風間カストロの存在感、ミュージカル「チェ・ゲバラ」大阪公演
専科の轟悠がキューバ革命を成功へと導いた立役者チェ・ゲバラに扮した月組公演、ミュージカル「チェ・ゲバラ」(原田諒作、演出)東京公演に続く大阪公演が11日から梅田芸術劇場シアタードラマシティで上演中(19日まで)。「南太平洋」「リンカーン」「ドクトル・ジバゴ」と続いた轟×原田コンビの第4作だが、自由を求めて立ち上がった青年ゲバラが轟に、そして宝塚にも一番あっているほか、キューバという島国の国情が、日本と重なるところもあって宝塚歌劇を超えて見ごたえがあった。轟、原田コンビの代表作として長く記憶に残したい。
幕開きは2019年ハバナの街角。アメリカ人観光客らしいカップル(佳城葵、夏風季々)が壁に描かれた革命の英雄チェ・ゲバラのペイントを珍しそうに眺めている場面が発端。ペイントにスポットが当たり舞台が暗くなると舞台中央から轟扮するチェ・ゲバラがペインとそっくりメイクと戦闘服姿で登場。同じく戦闘服を着たカストロ役の風間柚乃、アレイダ役の天紫珠李らを従えてのダンスプロローグへと展開。そして1950年代のハバナに戻り、ホテル・ナシオナルでのバティスタ大統領(光月るう)とニューヨーク・マフィアの大物ランスキー(朝霧真)がカジノ設立の密談を交わしているところから物語が始まる。
ストーリーの流れは、巷間伝えられるゲバラの半生記をほぼ踏襲しており、それほど目新しいところはないが、ゲバラ、カストロ、アレイダという3人の中心人物以外のオリジナルのサイドストーリーの人物配置が巧みでドラマがメロドラマチックに盛り上がる。
なかでもバティスタ付きの将校ルイス(礼華はる)とホテル・ナシオナルのダンサー、レイナ(晴音アキ)、その兄で、ゲバラとカストロの出会いのきっかけを作る反政府軍のミゲル(蓮つかさ)の3人の作りこみが伏線とともに見事に書き込まれ、これが奥行き深いものになった大きな要因だろう。
それにしてもゲバラを演じた轟の神々しいまでの若々しさはどうだろう。若い月組生を前に何の違和感もないのも驚異的だが、アルゼンチンの裕福な家庭に育ち、医師となるも、貧困にあえぐ人々の姿を見るにつけ、自分がなすべきことを模索するゲバラというストイックな青年像が轟にダブルイメージとなって舞台に息づいたのだった。革命が成功した後、アメリカの経済封鎖に耐え切れず、カストロがソ連に援助を申し出たことで決裂、ゲバラはボリビアで新たな戦いに参加、志半ばで銃弾に倒れる。銃口を向ける兵士に伝えた最後の有名な言葉が轟の口から再現されるラストシーンは感動的だ。
一方、カストロ役は月城かなとの怪我による休演で急遽、100期生の風間柚乃が起用されたが、これが予想をはるかに上回る素晴らしさ。大先輩の轟相手に一歩もひかない存在感で対峙した。役への作りこみが自然でありながら、カストロという大物感がきちんと表現できている。轟ゲバラに対する風間カストロの懐の大きさがこの作品の成功の要因かもしれない。
反バティスタ政権の地下活動グループに参加する大学生で、のちにゲバラの妻となるアレイダの天紫も、男役出身という常套句など関係なく、その凛とした美しさと芯の通った演技で、ひたむきで強い女性を鮮やかに表現した。ヒロインとしてのタイプは全然違うのだが天紫の凛々しいパンツルックに「ブルー・ジャスミン」の遥くららをふと思い出した。いろんな役のできるふり幅の広い新たな娘役誕生の予感がする。
ミゲルの蓮、レイナの晴音の兄妹役、それにからむルイスの礼華はこのドラマのもうひとつの主役といっていい。三役三様印象的だが、やはり礼華が、キューバ革命の成功を左右する大きな情報を漏洩する役でもあり、ドラマのカギを握る役として強く印象に残る。礼華もここまで大きな役は初めてだと思うが好演だった。
ほかにもゲバラの友人のカメラマン、エル・パトホの千海華蘭、キューバ山中でゲバラたちを応援する農民、輝月ゆうま、香咲蘭夫妻とその弟きよら羽麗にもワンポイントの見せ場がある。
バティスタに扮した光月の憎々しいまでの悪徳大統領ぶりも、ゲバラたちを巧みにうかびあがらせた。あと、ニューヨークタイムスの記者マシューズに扮した佳城が、冒頭のハバナ観光の青年とダブルキャストなのも何かの暗示か。
©宝塚歌劇支局プラス8月15日記 薮下哲司