“王様”渡辺謙、日本に凱旋!ミュージカル「王様と私」東京公演開幕
渡辺謙が王様役を英語で演じて歌い、ブロードウェーとロンドンで大好評を博したミュージカル「王様と私」が、13日から東京・シアターオーブで始まり、連日満員の熱気で盛り上がっている。
このミュージカルは「サウンド・オブ・ミュージック」などのリチャード・ロジャース作曲、オスカー・ハマースタイン二世作詞による旧作のリバイバル版。19世紀のシャム(現在のタイ)を舞台に、王子たちの家庭教師として赴任した英国人女性アンナ(ケリー・オハラ)と雇い主のシャム国王(渡辺謙)が、衝突しながら理解を深めていく様子を描いた物語。東西の文化や価値観の違いを西洋の視点で描いている。
原作や初演舞台は、西洋優位、東洋蔑視の色合いが濃く、キリスト教的でないものはすべて野蛮という思想が、脚本の根底にあって、舞台となったタイでは国辱ものという評価で、映画はいまだに上映禁止になっている。今回のリバイバル版は、その辺をかなり留意、シャム側の西洋に対する視線を加えたほか、第一夫人を誇り高く意志の強い女性像に書き改め、当時の欧米各国のアジア植民地政策などの世界情勢を俯瞰的にとらえるなど、かなり気を使った現代的でグローバルな脚色。テンポも速く、かなりイメージの違う作品に生まれ変わっていた。
ハマースタイン&ロジャースのロマンティックな曲の数々がこのミュージカル最大の魅力で「シャル・ウイ・ダンス」は言うまでもなく「口笛吹いて」「ハロー・ヤング・ラバーズ」などなどが次々に登場、豪華な王宮の装置とともに目と耳を楽しませてくれる。
デボラ・カーとユル・ブリナーが主演した映画版(1956年)が有名だが、日本では越路吹雪、市川染五郎(現松本白鸚)主演で初演され、その後、松平健の王様役でアンナが鳳蘭、一路真輝、紫吹淳と宝塚出身女優で受け継がれてきた。これまでの日本公演版は初演以来の西洋優位バージョンをそのまま踏襲していた。
ここ20年来ずっと松平の王様役で見てきたこともあって、王様役のイメージが松平で固まっていたが、今回の渡辺はオリジナルの英語版でありながら、ケリー・オハラに対して決して引けをとらない圧倒的な貫禄と存在感。王としての威圧感のようなものは松平に分があるように思ったが、ユーモアとウィットは渡辺も負けていなかった。英語のセリフも力がありながら耳に心地よく、民族衣装以外にも背広も似合う新しい国王のイメージ。威厳と柔軟さのバランスが見事だった。
アンナ役のケリー・オハラは、メトロポリタン・オペラ版「メリー・ウィドウ」にも出演しているミュージカル界が誇るプリマドンナ。たたずまいに品格が感じられるのがなによりで、オープニングの「口笛吹いて」から縦横無尽のなめらかな歌声は耳福だった。
ほかに国王の腹心のクララホム首相に「ファントム」に主演した大沢たかおが起用され、しっかりと脇を固めていたのが印象的。プログラムに渡辺のアンダースタディとあったので、大沢の王様も見てみたい気がした。リンカーンセンターシアタープロダクション制作でほかにも日本人が何人か出演している。
西洋優位、東洋蔑視の色合いはだいぶ薄まっているとはいうものの、基本的な部分では変わりなく、みていてあまり気持ちのいい作品でないが、渡辺扮する王様の毅然とした態度は溜飲がさがり、今後の日本公演に際してはせめてこのリバイバル版での上演を願いたいものだ。
公演は8月3日までだが、この公演のロンドンでのライブビューイングが9月27日からTOHOシネマズ日比谷ほか全国で順次アンコール上映されることが決まったのでお知らせしておこう。詳細は劇場にお問い合わせを。
©宝塚歌劇支局プラス7月21日記 薮下哲司