Quantcast
Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
Viewing all articles
Browse latest Browse all 575

紅ゆずる×綺咲愛里サヨナラ公演「GOD OF STARS食聖」「エクレール・ブリアン」開幕

$
0
0

  ©宝塚歌劇団

 

紅ゆずる×綺咲愛里サヨナラ公演「GOD OF STARS食聖」「エクレール・ブリアン」開幕

 

星組トップコンビ、紅ゆずると綺咲愛里のサヨナラ公演となったミュージカル・フルコース「GOD OF STARS食聖」(小柳奈穂子作、演出)とスペース・レビュー・ファンタジア「Eclair Brillant(エクレール・ブリアン)」(酒井澄夫作、演出)が12日、宝塚大劇場で開幕した。紅ならではのドタバタ・コメディと久々の本格的な優雅で華やかなレビュー、紅の最後の公演にふさわしい振り幅の広い二本立てとなった。

 

「-食聖」は、「西遊記」でおなじみの孫悟空のライバル、紅孩児(こうがいじ)が、天界から地上に落ちたことが物語の発端。紅扮する紅孩児は地上ではホン・シンシンと名乗り、上海の総合料理チェーンの看板シェフになっていたが、傲慢さがたたってシンガポールで文無しに転落、空腹で行き倒れたところを綺咲扮する屋台の娘アイリーンに助けられる。そこで食べた素朴なタンタンメンに感激したホンは一念発起、一からシェフとしてスタートすることを決意、中華料理の最高峰、満願全席で再び食聖コンテストに挑戦するというお話。

 

作者の小柳氏がかつて見たさまざまな香港映画をベースに、紅のために新たに書き下ろしたコメディで、発展著しいシンガポールと上海を舞台に、グルメ文化を揶揄しながら人にとっての幸せとは何かをテーマにしたクッキング・コメディだ。ただ笑いの感覚が客席同士で微妙にずれていて、おかしくもないところで一部の客席から爆笑が起こったりして他の客席は置いてきぼりになることしばしば。紅ファンにしかわからない楽屋落ちのギャグがちりばめられている。少林寺ならぬ「小林(こばやし)寺」というカンフーの聖地が登場するのもご愛きょう。

 

紅の作る料理が、どれも全くおいしそうではないのに看板シェフとはと思っていたら、その理由がちゃんと明かされるオチがあり、そんなのありかよと突っ込みたくなって思わず笑ってしまったが、全体的には天界の話と地上の話が、有機的に絡んでこず、なんだかガチャガチャとしていて最後までまとまりがない印象。とはいえ舞台上のメンバーが楽しんでいるのにシーンとしていてもつまらないので、取り残されないように面白くなくても大笑いするぐらいの方が楽しめる。ダンスパフォーマンス集団、梅棒が一部振付を担当するというので期待したが宝塚では実力を発揮できず、なんとも疲れるコメディだった。

 

紅は、傲慢きわまりないホン・シンシンをオーバー気味にキャラを立てて演じ、サヨナラ公演の舞台を存分に楽しんでいる風情。ラスト近く、ライバルのリー・ロンロンに扮した礼真琴に向かって「星はお前にやった」というセリフがあって会場大拍手の一幕も。

 

同じく退団公演となった綺咲は、勝気で前に出る現代的な女子アイリーンを、水を得た魚のように生き生きと演じて有終の美を飾った。

 

次期トップが発表されている礼は、ホンのライバルリー・ロンロン。歌のうまさはもちろんのこと、芝居力もめきめき上達、普段は小心者なのに、好きな女性の前では突然、人格が変わる、この間どこかで見た王子様のような面白い役どころを、思い切りはじけて演じている。

 

あとホンを後おしするレストランのオーナー、エリックが華形ひかる。アイリーンの父親ミッキーが天寿光希、その妻エレノアを音波みのりといったところが印象的な役どころ。ほかに若手では食聖コンテストのイメージキャラクターとして登場する女性アイドルグループ“エクリプス”が、クリスティーヌに扮した舞空瞳を筆頭に小桜ほのか、桜庭舞、星蘭ひとみ、水乃ゆりと美形がずらり。アイドル歌手、ニコラスの瀬央ゆりあを中心とする売れないアイドルグループ“パラダイス・プリンス”のメンバーも天華えま、天希ほまれ、極美慎、天飛華音と若手男役勢ぞろい。歌やダンスもふんだんにあってなかなか効率のいい売り出し作戦!?汝鳥伶が牛魔王役で登場するがこれはもったいなかった。

 

花組から組替えになり次期トップ娘役に決まった舞空は、目の覚めるような美貌がさえて、初めての星組参加にもかかわらず組にも馴染み、その舞台度胸の潔さがみていて気持ちよかった。礼が一目ぼれするという役どころで、舞空がリードする形の初々しい二人のコンビぶりがほほえましかった。

 

疲れるコメディあとのレビュー「エクレール・ブリアン」。これが、まあ見事なものでさすがはベテラン酒井氏手練れの演出。紅というトップスターの個性を知り尽くし、彼女がどうすればかっこよく素敵に見えるかを見事に体現、かといって古めかしくもなく優雅でありながら斬新であっというまの55分だった。紅自身にとってもこれまでの集大成といってよくレビューの代表作といってもいいのではないかと思うほどの素晴らしさだった。

 

漆黒の闇に、閃光が斜めに入り、銀橋センターにたたずむ銀色の羽を背負った紅にピンスポットが。初日の客席からは思わず歓声があがったほどの強烈なオープニング。宇宙から紅扮する星の紳士Sが舞い降りたという設定。幕が上がると星組男役、娘役が勢ぞろい、綺咲、礼も歌いながら参入、総踊りとなる。華やかなプロローグが終わった後も紅一人が残り、銀橋でジルベール・ベコーの名曲「ひとり星の上で」を歌う。安奈淳らこれまで多くのスターが歌い継いできた曲だが、紅の丁寧な歌唱で久々に聴くとなんとも落ち着く。

 

次の「パリ」の場面がまたしゃれていた。点描画で知られるスーラの絵を活人画で再現したようなシーンで風に扮した礼が舞空扮する美少女に恋をするというポエティックなダンスシーン。二人のダンス力が生かされて印象的。

 

続いてラテンのシーンになり紅が「エルクンバンチェロ」を麻央侑希、紫藤りゅうを従えて。紅、綺咲、礼がからむ場面で天寿が歌うというぜいたくショットも。そのまま華やかな中詰めになるのだが、もう中詰めという展開。瀬央が娘役と残って「マシュケナダ」を歌ったあと「スペイン」の場面がこのレビューの肝。

 

舞台下手から上手に長い階段がしつらえられ、満天の星空のもとくすんだ黄色い衣装のスパニッシュな男女が紅扮するボレロの男Sを中心に「ボレロ」を荘厳に踊る。全員がそろったころ、紅が上手階段上から再び登場すると階段が回り舞台で正面に回転、ダンサーが踊る中、金色に輝く紅が階段中央でポーズをとってボレロはクライマックスに。何度もみた「ボレロ」だが、見事に宝塚アレンジされた鮮やかなボレロだった。

 

洗練されたレビューの醍醐味を味わった後は、一気にサヨナラモードに。華形ひかるを中心にした「ニューヨーク」の場面は麻央、如月蓮の退団組が白妙なつ、夢妃杏瑠とともに「ザッツライフ」を歌い、そのままラインダンスメンバーをプレゼンテーション。ラインダンスには組配属されたばかりの稀惺かずとら研1生8人も参入。新旧交代が感慨深かった。フィナーレは上妻宏光演奏の三味線による千住明氏作曲「風林火山~月冴ゆ夜」をバックに燕尾服のダンスという豪華版。パレードのエトワールは恒例に従って次期トップ娘役の舞空が務めた。

 

このところJポップを使ったレビューを見続けていたせいもあるが、シャンソン、ラテン、クラシック、ポップスと全曲スタンダードメロディーでつづるレビューはやはり宝塚レビューの王道。トップスターの特性を生かし、いかに美しく見せるかを知り抜いたベテラン作家の恐るべき実力を思い知らされたレビューだった。

 

©宝塚歌劇支局プラス7月13日 薮下哲司 記

 

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 575

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>