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柚香光が、美貌のツンデレ男子を熱演!「花より男子」
花組の人気スター、柚香光が主演した、大ヒット少女漫画の宝塚版、TAKARAZUKA MUSICAL ROMANCE「花より男子」(野口幸作脚本、演出)が、東京・赤坂の赤坂ACTシアターで上演中(7月2日まで)。東京のみの公演とあって全国映画館でライブ中継されるほどの人気となっている。
神尾葉子氏の原作は日本では松本潤、小栗旬らでドラマ化、台湾、韓国、中国でも映像化されるほどの人気漫画。宝塚でも何度か企画に上がったらしいが、道明寺司に柚香といううってつけのキャラクターを得て、満を持して舞台化が実現した。舞台の成功はほぼ柚香の起用といっていいだろう。
宝塚版は全37巻ある原作の1巻から12巻までを描き、原作では貧乏で負けん気の強い牧野つくしが主人公のところを、柚香扮する大財閥の御曹司、道明寺を中心にして城妃美伶扮するつくしとの屈折した恋模様に、聖乃あすか扮するつくしの初恋の人、花沢類との気になる関係を絡めて3人のトライアングルラブを浮き上がらせた展開。幼稚園から大学までエスカレーター式の名門私立高校が舞台なので、現実の高校とはかけはなれたお気楽な学園生活が展開、途中であほらしくなる人もいるかもだが、その世界に入り込んで見ればミュージカルナンバーの挿入がツボを心得ていて、ストーリーのテンポもよく、なにより出演者たちの各キャラクターへのなりきりぶりが見事で、休憩をはさんで約3時間飽かすことがなかったのはお手柄だった。
柚香が扮する道明寺は、道明寺財閥の御曹司。親の七光りをフルに発揮、英徳学園を仕切る「F4」のリーダー。F4とはFlour Four(花の4人組)。花男こと花組男役にぴったりの名称でもある。これまでなびかなかった女性はひとりとしていないというイケメン高校生。そんな彼が唯一、思うようにならなかったのがつくし。表向きはけんか腰だが、徐々にひかれていくという展開。40年代ハリウッド映画のスクリューボールコメディのような丁々発止のやりとりが快調。突っ張っている割には「雲泥の差」を「うんどろ」と読んだりするなどバカ丸出しで、どことなく憎めないところが道明寺の魅力になっているが、そのへんを柚香が絶妙の間合いで演じている。柚香の代表作に一つになるだろう。歌唱力も本人比でずいぶんと安定してきた。
ヒロインつくしの城妃も、観客の感情移入を一手に引き受ける、中産階級(?)の勝気な高校生役を自然体で演じて、柚香とのやりとりのテンポも抜群で、見ていて気持ちがいいことこのうえない。この二人のこの感覚は2015年のショー「宝塚幻想曲」によく似たシーンがあって、あの時の息の合った感じがあったから今回の起用になったのかも。いずれにしてもいい感じだった。
つくしの初恋の人、類の聖乃は、新人公演の主演はじめ、順調に大役に起用されていて、ついにここまで来たかという感覚。もちろん起用に間違いはなく、ノーブルな美貌に純白の衣装がことのほかよく似合い、華雅りりか扮する藤堂静とのちょっとアダルトな関係が、学園ものにありがちな青臭さを払拭してあまりあった。
F4はほかに、裏社会のボスの跡取り息子、美作あきらが優波慧、茶道家元の次男、西門総二郎が希波らいと。今回はこの二人に関するエピソードはないので、常に側にいるという感じだが、優波も希波も金持ちのおぼっちゃまという雰囲気は十二分に感じ取れた。
あとドラマのカギを握る謎の転校生、三条桜子に扮した音くり寿が、正反対の役柄を巧みに演じわけて芝居心のある所をみせつけた。彼女の好演が、絵空事のようなこの作品に血を通わせたような気がする。
©宝塚歌劇支局プラス6月29日記 薮下哲司