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期待のホープ、彩海せらが熱演!雪組公演、幕末ロマン「壬生義士伝」新人公演

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      新人公演プログラムより

 

 

 

期待のホープ、彩海せらが熱演!雪組公演、幕末ロマン「壬生義士伝」(石田昌弘脚本、演出)新人公演(町田菜花担当)が、6月18日宝塚大劇場で行われた。

 

「壬生―」は、浅田次郎の同名長編小説を石田昌也氏が一時間半にダイジェスト、舞台化したオリジナルミュージカル。家族を養うために脱藩、新選組に入隊して人斬りの俸給を家族に仕送りした“出稼ぎ侍”こと東北の下級武士、吉村貫一郎の半生を描いている。

 

本公演の公演評でも触れたが、作品の基本的なスタンスには共感できないものの、作品自体の完成度は高く、これは新人公演を見てもよく分かった。なかでも、鳥羽伏見の戦いに敗れ、新選組隊員がバラバラになったあとも己の義を通して戦い抜き、瀕死の重傷を負いながら大坂の南部藩蔵屋敷に逃げ込んできた貫一郎と盟友大野次郎右衛門の緊張感あふれるやりとりは新人公演でも大いに盛り上がった。

 

貫一郎(望海風斗)に扮した彩海せらは102期生。研4で169センチと男役としては小柄な部類だが、目鼻立ちのくっきりした愛らしい笑顔が印象的で、すでに本公演や新人公演では大きな役に起用されている。前回の「ファントム」新人公演ではシャンドン伯爵役、バウ公演「PR×PRINCE」でも第三王子に扮してはつらつとしたところを見せていた。

 

冒頭、上手セリから登場しての銀橋ソロ。最初の見せ場、聴かせどころだが、男役の発声というより、少女が男の子のふりをして歌っているような甘い歌声で、貫一郎に求められる粗野な男気という感じが全くない。鹿鳴館の場面の後で、舞台がそこそこ温まったあとでの主役登場ということもあり、緊張で声もうわずりがちだった。一瞬、この後どうなるのだろうかと不安になったが、芝居が始まるとそれは杞憂に終わり、その甘い声が青年の純粋な心根にぴたりとはまり、芝居心のある演技とともに見るものをぐいぐいひきつけていった。谷三十郎の介錯を手伝ったあとで金を無心するユーモア感、妻しづそっくりの鍵屋の娘みよを思わず「しづ」と呼んでしまう純真さ、などなど彩海ならではのさわやかさで魅せた。男役としての完成形にはまだ遠いものがあるが、まだまだ時間があるので、これから数多くの舞台を踏んで作り上げていけば、将来楽しみな存在になりそうだ。

 

貫一郎の妻しづと京都の大店の娘みよの二役(真彩希帆)を演じたのは彩みちる。すでに新人公演ヒロインも外箱公演でもヒロインを演じた経験のある彩は、今回の新人公演での中心的存在。舞台での居住まいに落ち着きがあって、大きな舞台を自分のものにする存在感のようなものが感じられた。楚々とした田舎娘しづ、派手やかな京都の町娘みよ、正反対の女性像を別の役者が演じているかのような見事な演じ分けだった。

一方、この新人公演のかなめともういうべき存在が、大野次郎右衛門(彩風咲奈)を演じた諏訪さきだ。下級生のころから演技巧者として注目してきたのだが、役に恵まれず、なかなか言及することができなかったのだが、今回の大野役は本公演の彩風に勝るとも劣らないくらいの名演。役の良さにも助けられたが、貫一郎との関係性が、下級生の彩海との関係性とダブって切ないまでの好演だった。新人公演最上級生となり、次回はぜひ主演で見たいものだ。

 

 そしてもう一人の注目は斎藤一(朝美絢)に扮した星加梨杏(せいか・りあん)。鋭い眼光で「俺はお前を好かん」と貫一郎に言い放つ斎藤。新選組の生き残りとして、明治時代と幕末の両時代に登場するおいしい役。強烈な個性を作りあげて見るもの目に焼き付いた。

 

 ほかに新選組は、近藤勇(真那春人)が汐聖風美、土方歳三(彩凪翔)が縣千、沖田総司(永久輝せあ)が眞ノ宮るい、谷三十郎(奏乃はると)がゆめ真音といったところが主要人物。谷に扮したゆめが奏乃ゆずりのユニークな役作りで客席を沸かせていた。男役はほかに松本良順(凪七瑠海)の壮海はるま、大野の息子、千秋(綾凰華)の一禾あお、下侍の佐助(透真かずき)の麻斗海伶あたりが印象的。

 

 娘役は大野の生みの母・ひさ(梨花ますみ)の羽織夕夏、貫一郎の娘、みつ(朝月美和)の潤花、鍋島栄子(妃華ゆきの)の野々花ひまりぐらいしか印象に残る役がなく、いずれもやや役不足気味だった。なかで野々花のドレス姿の美しさが目を射た。

 

全体的には、さすが“日本ものの雪組”といわれるだけあって、新人公演でも所作、殺陣さばきなど安心して見ていられ、隅々に至るまでレベルの高い、きっちりした舞台成果を上げていた。

 

©宝塚歌劇支局プラス6月20日記 薮下哲司

 


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