写真は公演プログラムより抜粋 ©宝塚歌劇団
瀬央ゆりあ初主演、星組「ガイズ&ドールズ」新人公演、アデレイド役の真彩希帆好演!
瀬央ゆりあの最初で最後の主演となった星組公演、ミュージカル「ガイズ&ドールズ」(酒井澄夫脚色、演出)新人公演(原田諒担当)が、8日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様を報告しよう。
北翔海莉のトップお披露目公演「ガイズ―」は、夏休みも重なって連日満員の盛況で上演中。男と女のかけひきを軽妙なタッチで描いた小粋な大人のファンタジー、宝塚に向いているようで一番難しいミュージカル。北翔以下の新生星組本公演メンバーは巧さで手堅くまとめたが、新人公演はかなり難度の高い作品だ。今回の新人公演は、一幕第4場や二幕冒頭のホットボックスの場面などをカットするなど微妙に短くしてあったが、ほぼ本公演通りに進行。
主演のスカイ・マスターソン(本役・北翔)を演じた瀬央は、「眠れない男ナポレオン」と「The Lost groly」新人公演で紅ゆずるの役を演じて存在をアピールしていた。同期の礼真琴の活躍の影に隠れていた感があったが、今回は礼が本公演でアデレイドという大役を演じていることからアンサンブルに回り、瀬央にやっと主演が巡ってきた。研7ということで最初で最後の主演ということになったが、瀬央にとってはラストチャンスに格好の役に巡り合ったといえそうだ。すっきりした甘い容貌は、プレイボーイのなかのプレイボーイというギャンブラー役にぴったり。さぞや似合うだろうと思ったのだが、登場シーンから意外と小さくまとまった感じ。歌や芝居の立ち居振る舞いは素敵で、いつもの二枚目なら全然かまわないのだがスカイとなると話は別。全体的にさらっとしすぎていて物足りない。この役はもっとキザに、格好をつけた方がいい。自信たっぷりの男という余裕がみえなかった。台詞や歌がまだ身体になじんでいなかったのも減点材料。初主演のプレッシャーだったら、東京公演ではぜひリベンジしてほしい。
相手役のサラ(妃海風)は綺咲愛里。前トップ娘役、夢咲ねねのもと「The Lost―」と「黒豹の如く」の新人公演で立て続けにヒロインを演じ、今回で3度目となる。バウ公演などでもすでにヒロイン経験があるので、安心して見ていられた。今回も余裕たっぷりのステージングで、サラの勝ち気なところなど感じが出ていた。ただ、台詞や歌に独特の妙なアクセントがあり、今回はそれが気になった。それさえなければ、いつでも出番はOKだろう。
紅が演じたネイサンに抜てきされたのは紫藤りゅう。もともと実力派の男役だと思っていたが今回は賭場の仕切り屋ネイサンがことのほか似合っていた。やくざっぽい台詞が、身についていたほか、アデレイドとのかけあいの間合いが見事だった。ほれぼれするような男ぶりだった。本役の紅もよかったが、この役は初演の剣幸が硬軟自在で素晴らしかった。それらをお手本にしながら自分の味をだした紫藤はなかなかのもの。今後さらに楽しみな存在だ。
アデレイド(礼)は真彩希帆。このアデレイドが最高だった。歌の実力は花組時代から定評があったが、難しい大人の歌を無理なくなめらかに見事にうたいこなした。それだけでもすごいが、それがなんともチャーミングなのだ。真彩が演じると14年間、ずっとネイサンを愛し続けているというありえないカップルの関係が嘘にみえない。自然でキュートな感じがこの舞台全体の世界を心地よいファンタジーに昇華させていた。この天性のセンスは誰にもあるものではないだろう。普通の宝塚ヒロインも当然できるだろうから、今後役に恵まれることを期待したい。
ほかにはナイスリー(美城れん)のひろ香祐が、独自の黒塗りに工夫して、相変わらずの達者さで一歩リード。シカゴの大物ギャング、ビッグ・ジュール(十輝いりす)の桃堂純も長身を生かしたとぼけた演技が何とも味があって満員の会場をおおいに沸かせた。
ベニー(七海ひろき)の天華えま、ラスティ(麻央侑希)の綾鳳華、ハリー(壱城あずさ)の天希ほまれ、そしてブラニガン警部(美稀千種)の遥斗勇帆らもここぞとばかり弾んでいて星組パワー健在をみせつけた。NHKのスペシャルドラマ「小林一三」出演メンバーのなかで極美慎が救世軍のメンバーのクロスビー(紫藤)で出演、美貌がひときわ目立っていた。
なお、アンサンブルで出演した礼真琴は街の男やハバナの男などいろんな男役に挑戦。スカイを載せたタクシーの運転手で一言台詞があって客席を沸かせた。終演後の挨拶も長としてしっかり行った。
©宝塚歌劇支局プラス9月9日記 薮下哲司