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星組トップコンビ、紅ゆずる、綺咲愛里プレサヨナラ公演「鎌足」開幕

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  ©宝塚歌劇団

 

星組トップコンビ、紅ゆずる、綺咲愛里プレサヨナラ公演「鎌足」開幕

 

 10月13日付で退団を発表した星組のトップコンビ、紅ゆずると綺咲愛里のプレさよなら公演となる楽劇「鎌足(かまたり)」-夢のまほろば、大和(やまと)し美(うるわ)し-(生田大和作、演出)が5日、梅田芸術劇場シアタードラマシティで開幕した。

 

4日には礼真琴を中心とする星組全国ツアー公演が、梅田芸術劇場メインホールで公演をスタート、両劇場とも満員御礼で、重なった5、6の両日の劇場周辺は宝塚ファンであふれた。7日には全ツメンバーが大挙してドラマシティ公演を観劇、劇場内は華やかなムードに包まれた。

 

 「鎌足-」は、飛鳥時代、代々神祇官を務める中臣(なかとみ)氏に生まれ、後に大化の改新を成し遂げた中臣鎌足の波乱に満ちた生涯を描いた和製オリジナルミュージカル。2004年、彩輝直主演の月組公演「飛鳥夕映え」(柴田侑宏作)は、鎌足が暗殺する蘇我入鹿(そがのいるか)を主人公にしていたが、今回は暗殺した側の立場から描く。「飛鳥―」の鎌足は、権謀術数にたけた策略家として描かれていたが、登場人物も出来事もほぼ同じだが、歴史は勝者がつくるとの定説どおり、前回の作品とは180度違った視点で描かれている。とはいえ、入鹿のほかにも何人もの政敵を手にかけている鎌足を、単純に志を持ったヒーローというにはかなり無理があり、幼馴染の与志古(よしこ)との愛をメーンに描いているものの、鎌足の人間像に魅力が感じられず、紅と綺咲のプレサヨナラになぜこの作品が選ばれたのか大いに疑問にのこる作品となった。新元号「令和」を寿ぐために、日本初の年号「大化」の時代を描くということなら、うってつけの主人公ではあるが、描き方の選択を間違ったようだ。

 

時は飛鳥時代、所は大和。留学先の唐から帰国、鎌足や入鹿が学んだ学塾を開いている学問僧、僧旻(そうみん)に扮した一樹千尋、蘇我氏の下で歴史書「国書(くにつふみ)」の編纂にあたっている船史恵尺(ふねのふひとのえさか)に扮した天寿光希が、隕石が衝突したといわれる故事に習い、過去から未来を読み解こうとする僧旻の回想から物語は始まる。隕石=天狗(てんこう)というのだそうだが、いきなり予備知識もなく説明されてもほぼ意味不明、かくして舞台はなんだか訳がわからないまま展開していく。

 

鎌足(紅)と入鹿(華形ひかる)は、豪族、貴族の子弟が学ぶ僧旻の学塾で出会う。神祇官の長男ということで周囲から疎まれていた鎌足をかばったのが入鹿だった。以来、2人はよりよい大和の将来を夢見て親友になるが、入鹿が父、蝦夷(えみし=輝咲玲央)から大臣(おおおみ)の位を継いだことから状況が一変、鎌足は、皇極帝(有紗瞳)の子、中大兄皇子(瀬央ゆりあ)に近づき、入鹿暗殺を謀る。このあたりは「飛鳥夕映え」とほぼ同じで、同じ場面、同じセリフもある。前半は、鎌足と中大兄皇子による入鹿暗殺までが描かれ、後半は、中大兄皇子との葛藤の末、「藤原」という名をもらうまで。後半の展開が尻すぼみになるため、やはりここは前半で話を終えて、鎌足と入鹿の2人に焦点を絞った方がドラマとして見ごたえがあったように思う。綺咲とのコンビを考えて与志古役にフィクションを交えて膨らませたことで逆に話の腰を折った。さすがにこのあたりは柴田侑宏氏の老練の腕が冴えた。

 

とはいえ鎌足役の紅は、志高く、国を憂うばかりに一直線に突き進み、自身が利用されていることをわかりながらも、まい進する青年像をストレートに演じていて、ラストなどは切なくなるほど。何とも言えないほろにがい後味を残す。歌唱も高音がよく伸びて充実、持ち前のユーモアをまじえた演技のふり幅も大きくて、退団前の公演に華を添えた。

 

相手役の綺咲は、鎌足とは幼馴染で、鎌足のすべてを理解している、鎌足にとっては理想の女性。中大兄皇子に略奪結婚されるときも、断れば鎌足が殺されると知り、進んで身を投じる。綺咲は、現代的な庶民感覚が身上で古代のしとやかな女性は似合わないが、時には鎌足をリードする強い古代の女性像は思いのほかはまった。

 

一方、入鹿役の華形が、豪族の息子らしい華やかな雰囲気をはっきりした台詞の口跡と押し出しのある演技で巧みに表現、入鹿にぴったりの品性ある堂々たる貫録で魅了した。華形の代表作と言っても過言ではないすばらしさだった。前半は華形が主演と言っていいできばえ。

 

中大兄皇子の瀬央は、権力の頂上に上り詰めた青年の孤独と恐怖感がもう少し出れば、さらに役が膨らむのではないかと思った。それにしても、この皇子、なかなかの切れ者である。「あかねさす紫の花」はこの前段の話だが、大海人皇子から額田王を略奪したことを思いながら見るとさらに興味がわくだろう。

 

皇極帝を演じた有沙が、圧倒的な存在感で、華形とともに舞台を引き締めたことを最後に付け加えたい。公演は13日までドラマシティ。19日から25日まで日本青年館で。

 

©2019年5月8日宝塚歌劇支局プラス 薮下哲司記

 


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