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真風涼帆×芹香斗亜 絶妙のバディ感!宙組公演「オーシャンズ11」開幕
真風涼帆を中心とした宙組によるミュージカル「オーシャンズ11」(小池修一郎脚本、演出)が4月19日、宝塚大劇場で開幕した。柚希礼音主演の星組(2011年)蘭寿とむ主演の花組(2013年)に続く3度目の再演だが、真風と芹香斗亜の息の合ったバディ感覚と適材適所の若手男役陣の活躍で、前2回とはまた違った胸のすく好舞台だった。
ラスヴェガスにあるカジノホテルを舞台に、ムショ帰りの天才詐欺師ダニー・オーシャンが、愛妻テスを取り戻すべく10人の男たちを集めて、悪徳ホテル王ベネディクトを出し抜き金庫破りに挑む、という痛快エンターテインメントで、もともとはフランク・シナトラ主演の映画、ジョージ・クルーニー主演でリメイクされヒットしたワーナー映画「オーシャンズ11」の世界初の舞台化だ。初演から8年、セキュリティー装置やスマホなどITの進歩は目覚ましく、プロジェクションマップや舞台装置の金庫がリニューアルされているのがリアルで、時の流れを実感させられる。セットだけでなく出演者の衣装も微妙に現代的に変化しているのがさすが細部までこだわる小池流だ。
ハード面がリニューアルされ、出演者たちも若返り、現代を舞台にしているのもかかわらず、なんとなく懐かしく落ち着いた舞台になっているのがなんとも不思議な感覚。というのも星組初演の新人公演で主演した真風が8年ぶりに本公演で主演のダニー・オーシャンに扮し、加えて相棒のラスティを演じる芹香斗亜も初演の新人公演でラスティを、花組再演では新人公演でダニー・オーシャンを演じており、主演二人に既視感があり、初日から二人とも余裕たっぷりなのがその原因。ホームグラウンドに帰ったというかなんというか、なんとも安定感のある舞台を繰り広げた。
再演を重ねるにしたがって演出のテンポがさらにスムーズになったことも、今回の大きな特徴。一部の仲間をチョイスしていくくだりもショーシーンを巧みに挟んでテンポよく進め、後半のクライマックスである犯罪の実行シーンは、舞台中央の回り舞台でカジノを転換、オーシャンたちとベネディクトたちをその両サイドに置いて、両者の攻防を一気に見せ、映画さながらの臨場感を生むことに成功。この場面は何度見ても感嘆させられる。天才的な舞台手腕といっていいだろう。とはいえ、男役が映える舞台という当たり前のセオリーがきちんと守られているのが見ていて安心できる一番の要因だろう。ここが雪組公演「20世紀号に乗って」と決定的に違うところだ。
ダニーの真風は、新人公演のころとは比べ物にならないくらいの格段のうまさで、すっかり大人の男の色気というか雰囲気を身に着け、頼もしい兄貴感をかもしだした。細身のスーツで少し顔をかしげる仕種がなんともかっこいい。柚希、蘭寿のダニーもよかったが、遊び人だが根は案外ピュアで憎めないというどこか古風な雰囲気はやはり真風のものだろう。
ラスティに扮した芹香はピンクのスーツがことのほかよく似合い、新曲「オーシャンズ10」の真風との銀橋でのかけあいも快調で、ダニーとラスティの関係のち密さをこれまでよりもさらに強調、役の比重も大きくなった。芹香もそれによくこたえて真風とのバディ(相棒)感をよく出し、クライマックスの偽医者に化けるシーンもアドリブ連発ながら適度に短く、会場を沸かせていた。
テスに扮した星風まどかは、ついこの前まで初々しい少女が似合う娘役だと思っていたのだが、今回は都会的で洗練された堂々たるファッショナブルレディに大変身。初演の夢咲ねねそっくりのセリフ回しには思わずにやりとさせられたが、トレンディな女性の魅力をたたえた好演だった。
ベネディクトの桜木みなとも精悍な濃いメイクで、外見から野心的な男の雰囲気づくりと芯のある力強いセリフで悪徳ホテル王を自然体で熱演した。宝塚オリジナルの作品だと、主人公の弟とか優しい青年役がまわってくるところだが、海外原作のこういう作品だと思いがけない役がつく。そこが面白いところで、本人も演じ甲斐があるに違いない。甘いマスクに似合わずこういう役がきちんとできる実力を兼ね備えているところが桜木の強みだ。
ディーラー、フランクの澄輝さやと、マジシャン、バシャーの蒼羽りく。この公演で退団する2人も適役好演。なかでも澄輝が意外な役どころをさっそうと演じ、こんな役をもっと早くに見たかったと思わせた。しかし、仲間たちのなかでの一番の儲け役はライナスの和希そら。スリの少年役だが、この和希が、ちょっと影があって、しかし若さ弾けるはつらつさも巧みに表現、最高に魅力的な造形で挑んだ。大型の男役に囲まれると小柄なのがよくわかるが、歌もダンスもエッジが効いていて、それを全く感じさせない素晴らしさだった。今後も実力と魅力で活躍してくれることを期待したい。
ホテルのショースター、クイーン・ダイアナは舞台オリジナルの役。今回はこの公演で退団する純矢ちとせが扮したが、圧倒的な声量と存在感で見せた。彼女がメーンのショーの場面が二回ほどあるが、大勢の男役を従えてのゴージャスなショーシーンは迫力満点だった。
この公演は105期生40人の初舞台公演で総勢117人の公演。初舞台生は公演前の口上とフィナーレのラインダンスに出演。芹香の主題歌披露の後、初舞台生40人が御織ゆみ乃振付のラインダンスを披露。「NEVER GIVE UP」と「JUMP」と「オーシャンズ11」からの曲で、音彩唯(ねいろ・ゆい)はじめ真っ赤な羽飾りのついた衣装で、複雑なフォーメーションを元気にこなした。
©宝塚歌劇支局プラス4月20日記 薮下哲司