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望海風斗、真彩希帆、歌唱力コンビがコメディでも実力全開、熱気の「20世紀号に乗って」

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  ©宝塚歌劇団

 

 

望海風斗、真彩希帆、歌唱力コンビがコメディでも実力全開、熱気の「20世紀号に乗って」

 

20世紀初頭、シカゴからニューヨークまでの豪華特急列車内で起こったドタバタ騒動を描いた戯曲のミュージカル版「20世紀号に乗って」(原田諒脚本、演出)が、望海風斗、真彩希帆の雪組トップコンビの主演によって3月22日から4月7日まで東京・シアターオーブで上演中。観劇した28日昼の回には蘭寿とむ、真飛聖、壮一帆といった望海の花組時代のトップスターが客席に勢ぞろい、同期生で専科の凪七瑠海も姿を見せるなど、会場は華やかな雰囲気に包まれた。今回はこの模様を紹介しよう。

 

「特急20世紀号」(1934年)のタイトルで日本でも公開された映画版は「グランドホテル」などの二枚目ジョン・バリモア(ドリュー・バリモアの祖父)とブロンド美女でコメディエンヌのキャロル・ロンバード(クラーク・ゲーブルの妻)が主演。戦前「赤ちゃん教育」などの傑作コメディを連発、戦後は「リオ・ブラボー」などのアクション映画を得意としたハワード・ホークスが監督したいわゆるスクリューボールコメディ(台詞の応酬で笑わせる喜劇)の快作。1978年にブロードウェーでミュージカル化され、1990年には大地真央、草刈正雄主演、宮本亜門演出で日本でも上演された。今回は2015年にブロードウェーで再演されたバージョンをもとに原田氏が脚本、演出したというが、中身は大地版とほぼ同じだ。

 

ヒット作を連発して飛ぶ鳥を落とす勢いだったブロードウェーのプロデューサー、オスカー(望海)だが、このところ失敗作続き、シカゴでの公演もさんざんの不入りで、借金を踏み倒してニューヨークに帰ろうとしているところからスタート。オスカーは、シカゴ、ニューヨーク間を走る特急列車20世紀号に、人気女優リリー(真彩)が乗り合わせることをキャッチ、部下のオリバー(真那春人)とオーエン(朝美絢)に強引に隣のコンパートメントをとらせて、リリーを新作の舞台に引っ張り出そうとさまざまな策をめぐらすというのが大筋。リリーはかつてオスカーが抜擢、スターに仕立て上げたが、今はハリウッドで大女優になっているという設定だ。

 

大ざっぱにいえばバックステージ物で、戦前アメリカのショービジネスの映画界と演劇界の確執もまじえた通むけのドタバタコメディだ。今見てこの古めかしいコメディのどこが面白いのかといわれると答えに窮するが、「スイート・チャリティー」などヒット作も多いサイ・コールマン作曲による難曲ぞろいのナンバーを宝塚随一の歌唱力を誇る望海、真彩のコンビが朗々と歌いこなすその快さは何ものにも代えがたい。曲自体は、あまりメロディアスなものはなく、ブロードウェー初演の出演者の実力に合わせたような高低差のある難曲ばかり。それを楽々と歌いこなす二人に笑う暇もなくただただ聞きほれる。

 

望海は、二番手時代からシリアスな役が続いており、久々のコメディに水を得た魚のようにのびのび。スーツ姿にひげもよく似合い、大物プロデューサーの雰囲気をよくたたえて、たぶんこの役を歌唱も含めてここまで完璧に演じることができるのは、日本の演劇界でも彼女くらいだろうと思わせた。

 

一方、リリー役の真彩はそのリリカルなソプラノのすばらしさは彼女ならでは。コミカルなピアノ伴奏で、オスカーに見初められて抜擢され、稽古場の場面から凱旋門を前にした華やかなショーシーンに一転するくだりで、早くも歌のうまさが際立った。ただオスカーとリリーがほぼ対等の役だけに、歌のうまさだけではどうにもならないものが感じられたのも確か。ないものねだりかもしれないが大地真央がリリーを演じた時の圧倒的な華やかさを知っているだけにやや物足りなく感じたのかも。

 

他の配役では、オスカーを取り巻く二人、マネージャーのオリバーに真那、宣伝担当のオーエンに朝美が起用されたのに注目した。オスカーの腹心の部下といった感じでずっと出番があるので本来ここは彩風咲奈、彩凪翔がキャスティングされるだろうと思っていたの、が意外な配役だった。しかし、この二人が息の合った迷コンビぶりを発揮、なかでも真那がこれまでの蓄積を一気に噴出させたかのような快演だった。

 

彩風はリリーの現在の恋人役ブルースという、二枚目だがちょっとおつむの弱い二枚目半的な役どころ。何度もドアに頭をぶつけられる古典的なギャグで笑わせるかわいそうな役だが、ピンクのスーツが似合っていてなかなかのとぼけた好演。二番手の華やかな存在感をアピールした。歌は別にして彩風がリリーを演じたらまた別の面白みがでたかも。

 

彩凪は20世紀号の車掌フラナガン役。制服に赤帽姿で車掌チームのリーダー的存在でタップダンスの見せ場があり、鮮やかな足技を披露、気を吐いた。

 

期待の若手ホープ、縣千は、オスカーの元部下で現在はハリウッドの大物プロデューサー、マックスというおいしい役。出番は少ないが颯爽とした雰囲気でうまく空気感を出していた。

 

「ファントム」東京公演千秋楽からたった一か月で、難易度の高い歌やタップダンスの場面があるこれだけの舞台を作り上げることができるのはさすが宝塚。望海や真彩のコメディ演技と歌には聞きほれるものの、この作品を宝塚でやる意味がどこにあるのか、といわれると、どこが面白いのかといわれた時と同じように絶句してしまう作品でもあった。でもまあ楽しければいいじゃないですか。これも宝塚の魅力には違いない。

 

 

©宝塚歌劇支局プラス3月29日  薮下哲司

 

 


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