井上芳雄が「君住む街角」を献歌。「小藤田千栄子さんを偲ぶ会」開催
ミュージカル評論の草分け的存在の演劇評論家、小藤田千栄子さんが昨年9月になくなって約半年、ゆかりの人々による偲ぶ会が10日、東京都内のホテルでしめやかに営まれた。東宝株式会社取締役演劇担当、池田篤郎氏はじめ錚々たるメンバーが発起人に名を連ね、世話人は演出家の小池修一郎氏と演劇評論家の萩尾瞳さん。映画、演劇界の重鎮たち約130人が集結、小藤田さんの人徳がうかがえるゴージャスな偲ぶ会だった。
会場中央に設えられた献花台には凛とした表情の小藤田さんの写真、日本のミュージカル草創期の全作品を網羅した労作「ミュージカル・コレクション」と1998年、ニューヨークで日本のミュージカルブームについての現況をレポートされた時に「CHICAGO」や「キャバレー」「蜘蛛女のキス」の作詞作曲チームであるフレッド・エブとジョン・カンダー、名女優チタ・リベラ、そしていまや伝説のタカラジェンヌ、大浦みずきとともに写った貴重な写真が飾られ、小藤田さんのお別れ会にふさわしいお膳立て。
発起人に名を連ねた池田氏、岩波ホール支配人の岩波律子氏、宝塚歌劇団、小川友次理事長、元キネマ旬報編集長の白井佳男氏、そして劇団四季の吉田智誉樹社長が次々に献辞を述べ、宝塚歌劇団の演出家、植田紳爾氏が献杯のあいさつというこれ以上ない豪華メンバーが勢ぞろい。
白井氏の「彼女と私が出会うきっかけを作ってくれたのはジジ・ジャンメール(フォーリー・ベルジュールの大スターで映画女優)の脚でした」と小藤田さんがキネマ旬報に入社した際の知られざるエピソードを披露。「小藤田さんの分もまだまだ私が頑張っていきたい」と元気なところを披露するなど和気あいあいの雰囲気でスタート。
井上芳雄が、日本のミュージカルの夜明けとなり、小藤田さんがその初演の興奮を語り伝えた「マイ・フェア・レディ」から「君住む街角」を「小藤田さんをイライザと思って歌います」と心を込めて披露。あまりの素晴らしさに、小藤田さんがお聴きになったらどんなに喜ばれるかと思うと思わず感涙にむせんでしまうほどだった。続いて、初風諄、安寿ミラ、湖月わたるのタカラジェンヌOG、そして市村正親がそれぞれの思い出を披露。安寿が「どんな公演もすべてご覧になって頂き、終わりには必ず楽屋まで来てくださって、いつも「よかったよ」と力強い握手をしてくださいました。その声を聴くために今まで頑張って気がします、もう聴けないと思うと何を励みにしていいのかわからない」とあいさつ、新たな涙を誘っていた。
小池氏は「学生時代にミュージカルの面白さを教えて頂き、宝塚に入ってからもずっと後を押してくださった大恩人」と小藤田さんの存在があったからこそ、今の自分があると挨拶。小藤田さんが、日本のミュージカル界の母的存在であったことが改めて浮き彫りになった。
私的には、昨年一月「ポーの一族」が宝塚大劇場で上演された時「いつご覧になりますか」とメールを送ったら「大劇場の予定はありません。小池さん、ご活躍ですね」という返信を頂いたのが最後になってしまった、まさかそんなことになるとは思わなかったその無念さを改めて思い出した偲ぶ会だった。
©宝塚歌劇支局プラス3月11日 薮下哲司記