©宝塚歌劇団
芹香斗亜が自由を求めた貴族青年を熱演!ミュージカル「群盗」開幕
宙組の人気スター、芹香斗亜主演によるミュージカル「群盗」(小柳奈穂子脚本、演出)が、9日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕した。18世紀ドイツの作家シラーによる処女戯曲の舞台化で、自由を求めて出奔、理想を追って群盗となり、悲劇的な運命をたどる青年をドラマチックに描いたミュージカル。ここのところコミカルな漫画や映画の舞台化が続いていた小柳氏にとっては久々のシリアスな作品への挑戦で、骨太で見ごたえのある作品に仕上げている。
舞台は、芹香を中心とした出演者全員が、これから始まる舞台の中身を予感させる歌とダンスで勢ぞろいするプロローグの後、鷹翔千空扮するライプチヒの元役人で現在はパリに住んでいるヴァールハイトの回想から始まる。
厳格な父(凛城きら)と病弱な母、そして従姉妹アマーリア(陽雪アリス)とともに穏やかな少年時代を送っていたカール(碧咲伊織)のもとに異母弟フランツ(真白悠希)がやってくる。3人は兄弟同様に仲良く育つが、やがて成長したカール(芹香)が父親の反対を押し切ってライプチヒの大学に進学を決意したころから、アマーリア(天彩峰里)やフランツ(瑠風輝)そして家族の間に微妙な亀裂が走り、それが取り返しのつかない方向に広がっていく。カールは、ライプチヒで自由を謳歌、新しい思想に心酔するあまり学生運動に参加して父親から勘当されてしまい、正義のための犯罪者、群盗として生きることを宣言する。
第一部は、カールが自由を求めて出奔、群盗のリーダーになるまで。第二部は、お尋ね者になった自分の行動が父を死に追いやったことを知ったカールが、実家に帰郷、叔父ヘルマン(希峰かなた)とフランツの陰謀を暴く……という展開。生きるうえでの自由とは何かという重いテーマとともに、断絶した親子の和解という普遍的な家族の問題もからめて後半は悲劇的に大きく盛り上がる。
芹香は、何不自由なく育った貴族の青年が、新しい世界で新しい思想に心酔していくというピュアだが直情的な役どころをストレートに演じていて魅力的。ドラマシティ公演は花組時代のヒーローものの「MY HERO」以来だが、悲劇的な役どころのこちらの方がずっと魅力的だった。
芹香を中心にした群盗メンバーは、秋奈るい、穂稀(ほまれ)せり、愛海(まなみ)ひかる、雪輝(せつき)れんや、なつ颯都(はやと)そして紅一点の華妃まいあの6人。なんともフレッシュなメンバーだが、いずれも地に足の着いた好演。
ヒロインのアマーリア役を演じた天彩は、その愛くるしい容貌に加えて、しっかりとした芝居心があり、芹香との絡みはそう多くないのだが、カールが帰郷してからの後半のラブシーンは緊張感がみなぎっていいシーンとなった。
このドラマの一番のカギになるのがフランツの瑠風。カールに対する嫉妬からさまざまな陰謀を企てるが、少年時代に両親を亡くしたことから家族の愛に恵まれなかったという伏線がある悲しい役どころ。難役を好演している。
進行役の鷹翔はそのクリアな口跡が暗くなりがちな舞台にさわやかな風を吹き込むことに力が貸した。ほかにコジンスキー役の風色日向や少年グリムを好演した娘役の湖々さくらなど若手にもワンポイントで印象的な役があり、宙組若手の層の厚さをうかがわせた。
18世紀後半、新旧の価値観が混とんとした時代を背景に、生きるうえでの自由とは何かを突き付けたシラーのテーマは2019年の今でも決して古びていなかった。
©宝塚歌劇支局プラス2月13日記 薮下哲司