月組のアイドル、朝美絢主演のワークショップ「A―EN」が開幕
月組は現在、5班に分かれて公演を行っているが、朝美絢を中心とした若手18人によるバウ・ワークショップ「A―EN(エイエン)」(野口幸作作、演出)が、8月29日から宝塚バウホールで開幕した。今回はこの模様を報告しよう。
「A―EN」は、芝居とショーの二本立てのワークショップで、以前、月組トップの龍真咲らが若手時代にバウで公演した「young blood」シリーズの再現。朝美絢版と暁千星版の2バージョンがあり、芝居はアメリカの高校のプロムを題材にしているという共通点があるだけで中身は別物、ショーの方も題名は同じだが、内容は異なる。公演はまず朝美バージョンからスタートした。
「プロムレッスン」というタイトルの芝居の舞台は、卒業シーズンが間近に迫った、ニューヨークはブルックリンの高校。プロムキングナンバーワン候補のイケメン、アーサー(朝美)は、ひょんなことから彼女のリリィ(叶羽時)に振られ、眼鏡をかけたうだつのあがらない少女ヴァイオラ(紫乃小雪)を、「マイ・フェア・レディ」ばりに教育、美しく変身させて、一緒にプロムに参加してリリィを見返そうとするのだが。今時の高校生の流行語をふんだんにちりばめた台詞など、なんだか、テレビの青春ドラマみたいだが、約1時間ですっきりまとまっていた。
甘いマスクの朝美は、アイドル系イケメン男子という雰囲気にぴったりではまった。くわえて歌、ダンスとなんでもできるのが魅力だ。ヒロイン役の紫乃も、メガネ姿のさえない少女から、パーティーでは見事に可愛く美しく変身、芝居心のある演技が要注目だった。生徒役はミランダ役の叶羽のほか親友マイルズ役の輝月ゆうま、ライバル、ルーベルト役の夢奈瑠音、ダンスの振り付け担当でおかまっぽいアダム役の佳城葵が主要な役どころ。おちゃめな叶羽、安定感のある輝月、二枚目路線の夢奈に続いて佳城のいやみのない明るい個性が光った。
それ以外では学生食堂の従業員ハンナ役の晴音ユキが、大人の女性の魅力を発散、歌にダンスに達者なところをみせて舞台を締めたほか、保健室の先生ミランダの花陽みら、彼女目当てに保健室に通う社会科の教師ジョーの輝城みつるが面白かった。
一方、ショーは「A―EN MOONRISE」と題し、月のさまざまなタイトルをつけた8部構成。まずは朝美が、三日月のゴンドラに座り宙乗りで登場。主題歌を歌いながらゆっくりと下降したゴンドラから降りてくるというオープニング。朝美は全8場すべてにメーンで出演、とっかえひっかえ、これでもかとばかりに着替えて、汗だくの熱演。第5場のタンゴや6場の闘牛士の場面など、歌もダンスもいいものをもっていて、いい場面はたくさんあるのだが、どれもいっぱいいっぱいな感じがして、見るほうが疲れてしまった。タンゴの場面などもう少しじっくりと見たかった。二番手は輝月で、歌がうまく、聴かせられるので、朝美のいない場面で重用されていたが、二番手というにはやや地味。見せ方聴かせ方の工夫のほしいところ。
朝美の相手役には晴音以外は風間柚乃、天紫珠李、夢奈と若手男役が起用された。風間と天紫は、研2と研1で、ワークショップとはいえ大抜擢といっていいだろう。風間は天海祐希や大和悠河を思わせる月組伝統の美形男役で、上背もあり、大型男役候補として期待できそう。まだ動きに機敏さがないが、今後の精進次第では要注目の存在。ちなみに女優、夏目雅子さんの姪にあたる。天紫は、ラテンの場面で朝美の相手を務めたが、きりっとしたさわやかな顔立ちで動きもシャープ、こちらは正統派男役のタイプ。今年の音楽学校文化祭で主役を務めた実績もあり、芝居でもプロムの実行委員役で好演、今後大いに楽しみな存在だ。
芝居で相手役を務めた紫乃にはほとんど出番がなく、娘役は晴音がメーン格だったが、華やかな容姿に加えて歌のうまさと大人なダンスでやはり魅力的だった。本公演でももっと活躍してほしい。ショーの構成としては18人という少人数とは思えない展開。初めての振付家の参加もあり、舞台全体に新しい風も感じられた。
©宝塚歌劇支局プラス 9月1日記 薮下哲司