OSK日本歌劇団資料より
荻田浩一がOSKでアーサー王伝説を!「円卓の騎士」開幕
元宝塚歌劇団で現在ミュージカル界で幅広く活躍している演出家、荻田浩一氏が宝塚と同じ女性だけのレビュー劇団、OSKでミュージカル・ファンタジー「円卓の騎士」を演出、21日、大阪・近鉄アート館で初日の幕を開けた。涼風真世らが出演したミュージカル「レベッカ」(山田卓也演出)の大阪公演もスタートしたので合わせて報告しよう。
「円卓の騎士」は、映画、舞台でよく知られるアーサー王伝説を題材にしたミュージカル。宝塚でも宙組誕生時に上演された「エクスカリバー」(小池修一郎脚本、演出)や月組の珠城りょうのトップお披露目公演となったドラマシティ公演「アーサー王伝説」(石田昌也脚本、演出)がある。今回荻田氏が取り組んだ「円卓の騎士」は、中世に語り伝えられたアーサー王伝説の原点を掘り起こしたミュージカル・ファンタジーで、アーサー王に扮した楊琳、王妃グイネヴィアに扮した舞美りんはじめOSKの実力派メンバーの好演もあって幻想的で見ごたえのある舞台に仕上げている。
アーサー王伝説が、イギリスの5〜6世紀に生まれたものであるということから、今回の舞台は忠実にその時代を背景にしていて、当時のイギリスを制覇していた独自の信仰に対して大陸から伝えられてきたキリスト教との対立が、物語の大きなカギとなる設定で、王妃グイネヴィアと騎士ランスロットの不倫も魔法使いの陰謀であるという解釈になっていて、舞台全体に常にかすみがかかっているような舞台づくりが、西洋のお伽噺をひもとくような懐かしくも幻想的な雰囲気で、なんともいえない不思議な空間を作り上げた。
オープニングは若きアーサー王がまぎれこんだ森には妖精たちが戯れている。妖精たちの衣装は、身体にフィットしたタイツのような感じに花飾りがついている「PUCK」に登場する妖精たちのような装い。幻想的な妖精たちのダンスに誘われるかかのように物語が進展していく。これぞまさしく久々に見る荻田ワールドだ。
物語も、ミュージカル「キャメロット」で知られるアーサー王伝説とはちょっと異なっていて魔法使いマーリン(愛瀬光)や湖の妖精イグレイン(朝香櫻子)がカギを握る重要なキャラクターとして登場、全体的にファンタジー色が強いのが特色。なかでもアーサーの従妹で幼馴染の娘、モルガン・ル・フェイ(城月れい)の存在が異色。
アーサー王に扮した楊は、朝夏まなとに似た凛とした雰囲気の男役で、立ち姿が美しく、ダンスに切れ味があるのが魅力的。生まれながら王となる運命であるアーサーがたくましく成長していく姿をさわやかに演じている。
王妃グイネヴィアの舞美りらは大きな瞳と明るい笑顔が印象的な娘役。ヒロインとしての華やかさがあって今後の活躍がおおいに期待される存在。今回も本来の明るさが、暗くなりがちなこの舞台を救っていた。
アーサーの親友でグイネヴィアとの不倫を疑われる騎士ランスロットは若手ホープの翼和希。アイドル的資質が舞台映えして若き騎士ランスロットにはぴったりのキャスティング。ほかにモルガン・ル・フェイの城月の歌とダンスの実力の確かさが印象的だった。また、その息子役のモードレッド役の実花ももが、後半で大きな存在感を示した。
全員で13人という少人数の公演だが、それぞれがパワフルでその少なさを感じさせなかった。
一方、ミュージカル「レベッカ」は来年1月の東京・シアタークリエ公演に先駆けて年末の20日からシアター・ドラマシティで大阪公演が始まった。ダフネ・デュ・モーリア原作のサスペンスミステリーの舞台化で、「エリザベート」のクンツェ=リーバイコンビによるミュージカルで、8年ぶりの再演。
レベッカ役が大塚千弘、平野綾、桜井玲香のトリプルキャスト。マキシム役は山口祐一郎、ダンバース夫人が涼風真世と保坂知寿のダブルキャスト。初日は乃木坂46出身の桜井と涼風というバージョン。桜井の初々しい演技が印象的だった。
装置が一新された以外、演出は初演とほぼ同じだったが、森公美子、石川禅、吉野圭吾、今拓哉、そして出雲綾と東宝ミュージカル常連の実力派がわきを固めて、レベルの高い個人技が堪能できる本格的ミュージカルに仕上がった。なかでも涼風の圧倒的な存在感がここでも見ごたえ聴きごたえがあった。日本のミュージカル界になくてはならない存在になりつつあるようだ。
©宝塚歌劇支局プラス12月22日記 薮下哲司