©宝塚歌劇団
柚香光×水美舞斗、同期コンビ競演「メランコリック・ジゴロ」全国ツアー
人気スター、柚香光を中心とした花組全国ツアー公演、サスペンス・コメディ「メランコリック・ジゴロ」(正塚晴彦作、演出)とスパークリング・ショー「EXCITER‼2018」(藤井大介作、演出)が15日、ツアー最終地、大阪・梅田芸術劇場メインホールでの公演の初日を迎えた。客席には前日に「ファントム」宝塚大劇場公演を終えたばかりの雪組トップコンビ、望海風斗、真彩希帆に加えて凪七瑠海も駆け付け、満員の会場は開演前から興奮状態、そんななか始まった公演は、息の合った同期コンビのパワーが爆発、エネルギッシュなステージとなった。
「メランコリック・ジゴロ」は1993年に安寿ミラ、真矢みきのコンビで初演され、ヤンミキコンビの人気を決定づけた伝説の作品。二人の印象が強すぎてなかなか再演されなかったが2008、10年に真飛聖、壮一帆時代の花組で久々に再演され、2015年には朝夏まなと、真風涼帆の宙組コンビでも再演され、今回は以来3年ぶりの上演。
歴代では一番若いコンビとなったが、もともと主人公のダニエルは大学生という設定なので違和感なく、柚香と水美が同期ということもあって、二人の演技の間が絶妙で、見ていてとにかく心地よかった。演じている方も楽しく、気持ちよかったのではないかと思う。
田舎娘アネット(春妃うらら)との浮気がもとでパトロン(華雅りりか)に捨てられ、無一文なったダニエル(柚香)が親友スタン(水美)のもうけ話に乗せられたことから、次々に予想外の話に巻き込まれるというコメディータッチのミュージカル。第一次世界大戦をはさんで、貨幣価値が大変動したことが、お話の大きなカギになっているのだが、そのことを誰も知らなかったというのは、あまりにも世間知らずというかなんというか。まあそんな細かいことをスルー出来れば、かっこいい主演二人を見ているだけで十分楽しくみられる。
宝塚のスターになるために生まれてきたような華やかさのある柚香は、入団10年たってスーツ姿の360度どこから見てもかっこよく見えるすべを身に着け、長い手足を美しくしなやかにさばくと周囲の空気が動くような錯覚さえ感じさせた。これぞ宝塚のスターの王道で、ショーのセンターがこれほど似合うスターは近来にない。
芝居心もあって「メランコリック・ジゴロ」で言えば、どちらかというとダニエルよりスタンの方が似合うタイプ。ダニエルはプレイボーイぶってはいるが実は優しくまじめな青年というところがミソで、朝夏まなとはその辺のバランスがうまかったが、柚香だと最後のハッピーエンドの後、フェリシア(舞空瞳)をちゃんと幸せにしてくれるかどうか、ちょっと不安なところが見えてしまう。そんなちょっとワルで崩れた部分が垣間見えるのが柚香の魅力でもある。新しいタイプの男役スターとして、これからの活躍に大いに期待したい。
一方、スタン役の水美は、バウ初主演以後、急速に赤丸上昇中。すっかり花組の重要な戦力になった。端正な顔立ちにシャープなダンスが強みだ。スーツ姿もすっかり身体になじみ、柚香との相棒感がなんともいえず心地いい。ダニエルにもうけ話を口説くくだり台詞のテンポが抜群だった。
娘役はダニエルを兄と信じて訪ねてくるフェリシアが舞空、スタンの恋人ティーナが華優希。それぞれの個性をうまく振り分けて適役好演だったが、それぞれの相手役の組み方が逆の方が似合うような気がした。
ほかではフォンダリの羽立光来と息子バロットの飛龍つかさがひときわ翔んでいた。バロットの妻ルシルの真鳳つぐみの弾けぶりも面白く、謎の浮浪者、高翔みず希が舞台を締めたのはいうまでもない。
ショーは花組の名物となったおなじみショーの再演だが、柚香のショースターとしての華やかさが十二分に生かされ、テンポ抜群のあっというまの50分だった。柚香はダンスと存在感の大きさで歌の弱さを完全に忘れさせた。客席おりが何度もあって、ファンサービスも堂に入ってきたようだ。恒例チェンジボックスの変身シーンのかっこよさも極めつけだった。
柚香と水美のコンビがショーのメーンになっていて、二人のコンビネーションのよさもショーを盛り上げた一因。踊れる娘役、舞空の見せ場もあって、ポスト愛希れいかを思わせて頼もしかった。歌のうまさで定評のある和海しょう、羽立、乙羽映見らの聴かせどころもきちんとあり、花組少数精鋭のパワー満開だった。
©宝塚歌劇支局プラス12月15日記 薮下哲司