夢のスペシャリスト、北翔海莉、大劇場お披露目公演 新生星組「ガイス&ドールズ」開幕
星組新トップコンビ、北翔海莉と妃海風の宝塚大劇場お披露目公演、ブロードウェイ・ミュージカル「ガイズ&ドールズ」(酒井澄夫脚色、演出)が、21日から開幕した。80年代の宝塚を代表する大地真央、黒木瞳コンビの代表作であり、2002年には紫吹淳、映美くららのコンビでも再演されたこのミュージカルに、北翔、妃海の実力派コンビがどんな新風を吹き込むか、興味津々の話題作。今回はこの模様を報告しよう。
カラフルなネオンサインが煌めくブロードウェーのタイムズスクエア、ソフト帽をかぶったギャンブラー、スカイ・マスターソン(北翔)が後ろ向きに登場、こちらを振り向いて思いきりキザなポーズから主題歌を歌い始める。宝塚の「ガイズ&ドールズ」の世界が、これで一気に甦った。懐かしいオープニングは健在だった。
スカイに続いて、ニューヨークの街のさまざまな人々が次から次へと現れ、1948年当時の町の日常風景がダンスナンバーで表現される。30年前、まだミュージカルの上演がそれほど多くなかったころに見た大地版はそれなりに斬新で楽しかったのだが、いま見ると懐かしいというよりなんだかクラシック。随分、古めかしい感じ。92年にニューヨークで見た「ガイズ&ドールズ」も、振付や装置がもっとシンプルで斬新、すごくおしゃれだったことを思うと、ここはもう少しモダンな感じに作り替えてもよかったかとも思うが、北翔×妃海の本格実力派コンビにはこの古めかしさが逆にぴったり、70年前のニューヨークに自然にタイムスリップした。
警察の目を逃れて賭場をはるやくざなギャンブラーが、救世軍の女士官を「一晩で落とす」ことを1000ドルで賭けるうちに、ミイラ取りがミイラになってという大人のファンタジー。デイモン・ラニヨン原作の「サラ・ブラウンのロマンス」という短編小説を原作に「ハンス」のフランク・レッサーが作詞、作曲したミュージカル・コメディだ。始まる前からラストが分かっているようなお話なので、いかに楽しく夢を見させてくれるかが身上。北翔、妃海そして紅ゆずる、礼真琴ら新生星組メンバーは、気持ちよく夢を見せてくれるスペシャリストたちだった。
北翔は、前回の「ガイズ&ドールズ」で、今回、麻央侑希が演じているラスティ役を本公演で演じ、新人公演では紅が演じたネイサン・デトロイトを演じたこともあって、専科時代から再演があれば出演を熱望していたという。それがトップ披露で、しかも主演のスカイ役で実現することになり、感慨もひとしおだろう。彼女の個性からいうとスカイよりネイサンのほうが似合うと思ったのだが、泣く子も黙るギャンブラーの中のギャンブラー、スカイを北翔ならではのかっこよさと達者さで演じ切った。ニューヨークのギャンブラーというよりは、どことなく江戸前のスカイだが、歌の実力は文句なく、安心して聴いていられた。スカイが、遊びのつもりで誘ったサラに本気になっていくあたりの、ハバナの場面から「はじめての恋」のソロにいたるあたりの微妙な心の動きが、生来の真面目さが先に出てしまって、意外性が感じられなかったのと、二幕の見せ場、クラップゲームのダンスナンバーが新たな振り(AYAKO振付)に変わったものの、クラップをしているように見えず、決めポーズが平凡でいまいちかっこよくない。いずれも一工夫ほしいところだ。とはいえ初演の大地真央の印象が強いこの役を、北翔ならでは新たな解釈で全く別物として甦らせたのは見事だった。
相手役サラの妃海は、真っ赤な制服がよく似合って、人形のような美しさ。よく伸びる歌声は、これまでのサラでは最高かも。ハバナで初めてお酒を飲んで酔っ払うシーンが一番の見せ場。可愛さでは黒木にかなわないが、なんともキュートで芝居心がこもっていた。
ネイサンの紅は、こういうやくざなギャンブラー役はいまやお手の物という感じ。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の勢いをそのまま踏襲した好演だった。格好をつけているけれども、どこか抜けていて人間味があるという役は、紅にぴったり。歌もずいぶん表現力がついてきた。そろそろ花組の望海風斗が「星逢一夜」で演じた源太のような役を紅でも見たいものだ。
ネイサンの14年来の婚約者でダンサーのアデレイド役の礼は、やや若すぎるきらいはあったがまたまた歌、ダンス、演技と器用なところをみせつけた。紅を相手に一歩もひけをとらない舞台度胸は見事だ。また、男役とは思えない自然な発声で、娘役演技も全く違和感がなかった。新人公演では主役経験を積んできているが、本公演ではまだ少年役から脱し切れていない。大人の男役が自然と演じられるようになれば、さらに大きく花開くだろう。
この4人以外の大きな役といえばギャンブラー3人組。ナイスリーが美城れん、ベニーが宙組から組替えになって初めての大劇場公演となった七海ひろき、ラスティが麻央という顔ぶれ。初演で未沙のえるが演じたナイスリー役の美城が味のある演技で好演。七海、麻央が両脇を明るく締めた。あとシカゴのボス、ビッグジュールは十輝いりす。とぼけた味がなんともいえず、客席からも大いに笑いを誘った。いつも小脇に抱えたテディベアがアクセントで、ブロマイドも早々に売り切れる人気とか。
ハリー役の壱城あずさ、救世軍チームの天寿光希、ジョーイの十碧れいやといった面々はやや手持ち無沙汰の感はあったが、ハバナの場面に登場したクバーナの歌手で夏樹れいが気を吐いたのが印象的だった。
フィナーレはラインダンスから始まる変形バージョン。まず紅と礼のデュエットダンスがあり、続いて北翔を中心にしたガイズの群舞、舞台上で衣装をチェンジした北翔が妃海とデュエットダンスへと続く。歌いながらのダンスはさすが北翔。パレードはエトワールが毬乃ゆい。十輝×七海、礼、紅、妃海そして北翔と続いた。大きな羽を軽々と背負った北翔の底抜けに明るい笑顔が印象的だった。
©宝塚歌劇支局プラス8月25日記 薮下哲司