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一路真輝さん、「エリザベート」生みの苦しみと喜びを吐露 「宝塚歌劇講座特別編」開催

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一路真輝さん、「エリザベート」生みの苦しみと喜びを吐露

「宝塚歌劇講座特別編・エリザベートと宝塚」大盛況裏に開催

 

甲南女子大学の宝塚歌劇講座特別編「エリザベートと宝塚」が、初代トート役の元宝塚雪組トップスターで女優の一路真輝さんをゲストに招いて9月2日、同大学で開かれた。地元だけでなく東京や名古屋など全国から駆け付けた約440人の受講者の前で、一路さんは「エリザベート」初演のエピソードの数々を披露、貴重な話に受講者にみなさんは、改めて作品の大きさに感じ入っていたようだった。

 

同大学の宝塚歌劇講座特別編は昨年11月に「レビュー100年」を記念、演出家の三木章雄さんと元月組組長の出雲綾さんをゲストに開講、レビューの歴史から制作の苦労、出演者の知られざる裏話などを講義、受講者のみなさんに高い評価を得て、今回の第2回開催となった。

 

 今回はエリザベート皇妃の没後120年を記念、宝塚月組でミュージカル「エリザベート」が上演されていることもあって「エリザベートと宝塚」をテーマに、宝塚初演で黄泉の帝王トート役を演じ、現在の「エリザベート」人気の基礎を作り、退団後も東宝版の「エリザベート」でエリザベート役を演じた一路さんをゲストに迎えてのシンポジウム。

 

 まず同大学の宝塚歌劇同好会エトワールの学生たちによる「エリザベート皇妃とは」の発表。パワーポイントを駆使してエリザベート皇妃の一生をわかりやすくまとめた。続いて、今年3月まで同大学で11年間、宝塚歌劇講座を担当した私が「エリザベートと宝塚」の歴史を解説。

 

 「エリザベート」のウィーンでの初演が1992年9月3日であったこと。そして作曲家シルベスター・リーバイさんが「エリザベート」を作曲したいきさつなどを説明。その初演のライブCDを演出の小池氏がロンドンのCDショップで求め、その曲をバウホール公演「ロスト・エンジェル」で使用したことが「エリザベート」と宝塚の最初の出会いであったことなどを説明。

 

 「ロスト・エンジェル」は、涼風真世、麻乃佳世、天海祐希らが出演した小池氏のオリジナルミュージカル。天使が現代に舞い降りてくるという筋立てで、バンドのメンバー役の天海が「キッチュ」を歌っている。当時、ビデオが発売されたが、著作権の関係で歌の場面はすべて無音となるなど、幻のミュージカルとなった。

1995年、翌年に退団することが決まった一路さんのサヨナラ公演として「エリザベート」が候補に挙がり、主人公をエリザベートから黄泉の帝王トートとすることの了解を得て、権利を獲得、1996年2月上演にこぎつけた。以来、今回の上演で10演目、1000回以上、240万人を動員する宝塚を代表するヒット作に成長した。

 

楽曲のすばらしさ、人間ではない死という新たな魔性の男役の創造、魅力的なヒロインの造形。ヒットの三大要因を述べて、一路さんにバトンタッチした。

 

これを受けて一路さんは、まず1995年春、当時の雪組プロデューサーの勧めで、ウィーンで初めて「エリザベート」を観劇した時の強烈な印象を披露。小池氏からは「エリザベートが主演だから男役中心の宝塚には向かないと思う」と言われていたのもかかわらず、トートの強烈なインパクトに「宝塚を初めて見た時と同じくらいの衝撃を感じた」といい、「小さな役でもいいからトートをやりたいと思った」と運命的なものを感じたという。

 

その夜、小池氏から「できるだけ男役らしい格好をしてすぐに来てくれ」という連絡があり、髪をリーゼントにし男役らしいスーツで向かったところ、そこにリーバイ氏がいて紹介された。「小池先生がリーバイさんに男役という存在を実際に理解してもらうために呼ばれたのだと思う」と話し、これが功を奏したのかトートの出番を飛躍的に増やす了解が得られ、宝塚版「エリザベート」誕生のきっかけになった。

 

「愛と死の輪舞(ロンド)」というトートのための新曲はこうして生まれ、翌年1月、実家に里帰りしていた一路さんのもとに小池氏からFaxで譜面が送られてきた。「ロック調のいい曲だなあ」というのが第一印象だったという。

 

こうして稽古が始まったが「すべてが歌で進むミュージカルは宝塚では初めてで、台本がすべて分厚い楽譜、しかも、どれが正解なのかわからない音どりの難しい曲ばかり。しかも二小節くらいのメロディーにおびただしい訳詞がついていて、しかも小池先生の訳詞がどっちの音符についているのか分からなかったりして(笑)みんな本当に大変でした」。一方、自分のナンバーでは高嶺ふぶきが演じたフランツ・ヨーゼフとのラストの掛け合いがなかなか音と詞が収まらず「何度もやり直して、できたときは楽譜を放り投げて抱き合いました」と生みの苦しみを語ってくれた。

 

こうして出来上がった「エリザベート」は、一路さんが初演したあと22年たっても、いまなお人気は上がるばかり。ここからは私と司会の永岡俊哉講師とともにフリートーク形式で、さまざまなエピソードを聞いた。

 

初演の初日、一幕最後に「エリザベート!」と歌い上げて、袖に引っ込んだとき「客席がシーンとして、ああダメだったと落ち込んだ途端、ものすごい拍手の音が聞こえてきて、鳥肌が立つほどうれしかった」というエピソードや、ウィーンでの「エリザベート」公演千秋楽に招かれて、カーテンコールで舞台に上がり、トートの衣装で日本語で「最後のダンス」を歌った時の逸話も。「客席のみなさんはポカーンとされていましたが(笑)作詞家のミハエル・クンツェさんが、真っ赤な顔をして駆け寄ってくださったんです」。男性が演じるトートにどこか違和感があったというクンツェさんが本来、理想としていたトート像が、「宝塚の男役が演じるトートから見えたと興奮しておっしゃってくださいました」と最高の賛辞を受けたことを明かしてくれた。

 

退団後は東宝版「エリザベート」の初演に出演、こちらではエリザベート役を演じた。「男役の発声から本来の女性の歌を歌うのは苦しかったけれど、また新たにエリザベートという作品の世界にかかわることができてうれしかった」と感想。結局600回以上、エリザベート役を演じた。

 

「初演時は無我夢中で、ここまでのヒット作になるとは思ってもみませんでしたが。こうなると語り部としてこれからも語り継いでいきたいですね(笑)」と笑顔で講座を締めくくった。

 

約40分のフリートークはあっというまで、その後、受講者のみなさんからの質問コーナーもあって二時間の特別講座は和気あいあいのうちに終了。今回の講義録は、講義報告書として来年も開催される予定の特別講義時に配布されることになっている。来年はどなたがどんな話をしてくださるか、楽しみにお待ちください。

 

©宝塚歌劇支局プラス9月4日記 薮下哲司

 

なお、一路真輝さんがご自身のブログでも今回の講座について取り上げて下さいましたので、リンクを貼っておきます。

https://ameblo.jp/ichiro-maki/entry-12402372695.html

 

 

 


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