OSK真麻里都サヨナラ公演、ミュージカル「My Dear」&「宝塚BOYS」が大阪で大千秋楽
OSK日本歌劇団の実力派ダンサー、真麻里都のサヨナラ公演、ミュージカル「My Dear~OSKミー&マイガール~」(麻咲梨乃脚本、演出、振付)が、大阪・近鉄アート館で、一方、宝塚歌劇団にかつて存在した男子部にスポットをあてた「宝塚BOYS」(鈴木裕美演出)が、大阪・シアターブリーゼで、それぞれ2日、千秋楽を迎えた。
まず「My Dear」は「ミー&マイガール」を、ストーリーの骨格はそのままに現代的に翻案したもので音楽などはすべてオリジナルだが、宝塚版を熟知したスタッフがそろっていて、そのエッセンスを巧みに引き出し、OSKらしいコンパクトな舞台に再現、元を知らなくても楽しめ、知っていればなお楽しいおしゃれでハッピーなミュージカルに仕上げた。「巴里のアメリカ人」はじめ最近のOSKの好調ぶりが如実に表れた快作だ。これがOSK最後となる真麻の三拍子そろったパフォーマンスもあっぱれの一言で、これで退団というのは惜しすぎるというほかない。
ビリー(オリジナルはビル)が真麻。ジル(サリー)が千咲えみ。ソフィア(マリア侯爵夫人)が朝香櫻子、ジョージ(ジョン卿)が楊琳、シンディ(ジャッキー)が白藤麗華、フィリップ(ジェラルド)が翼和希、アーネスト(パーチェスター)が愛瀬光。コンシェルジュのガストン(ヘザーセット)が登堂結斗といったキャスティング。遥花ここ扮するベテランバトラーのエマというオリジナルキャラクターもいる。
ロンドンの下町ハックニーの養護施設で育ったストリートパフォーマンスの人気者ビリーが、由緒ある老舗ホテルの跡取りだったことがわかったことから、てんやわんやの大騒動になるというストーリーで、基本的には「ミー&マイガール」とほぼ同じ展開、しかし、ビリーが歌、ダンスが得意という設定で、紆余曲折の後、遺産相続の条件が上流階級の顧客にふさわしいディナーショーを成功させることということになり、フィナーレがそのショーの場面というのがいかにもOSKらしくてしゃれていた。
「ミーマイ」は1900年代初頭の設定になっているが、この作品の舞台は現代。ヒップホップやロックにパソコンやスマホといったハイテクも登場、イギリスの階級格差を皮肉った笑いや風刺は薄まっているが、オリジナルよりもナンバーが短くてテンポ感があり、真麻以外も歌、ダンス芝居と三拍子そろったOSKの実力派メンバーが持てる力をフルに発揮、なんともハッピーなミュージカルに仕上がった。
真麻は、旧OSK解散直後、New OSKとなった2004年にあやめ池の研修所に入所、初舞台は2006年。タップダンスが得意で、早くから大役に起用され、2010年には世界館での初主演公演に起用された。次代のOSKを担うスタートして期待されたが、今年7月トップスターの高世麻央退団を追うように退団を発表した。「My Dear」は真麻の希望の演目というが、得意のタップもふんだんに披露、なめらかな歌声とともに、演技も硬軟自在で退団はなんとも惜しい。
一方、「宝塚BOYS」は、5年ぶり5度目の再演。戦地から命からがら帰還した青年たちが、夢を求めて宝塚歌劇団男子部に入団するも、さまざまな事情で、結局、一度も大劇場の舞台に立つことなく解散していく姿を描いた青春群像劇だ。辻則彦氏の取材ドキュメント「男たちの宝塚」をベースに中島淳彦が脚本化した舞台は、実際の男子部の現実とはかけはなれた美談フィクションになっていて初演からやや違和感を覚えたのだが、クライマックスの幻想シーンはじめ夢が叶えられなかった青年たちの青春群像劇としての完成度が高く、現実と舞台は別物と考えることができ素直に感動できた。しかし、今回の舞台(skyチーム)は出演者の技術がやや未熟で舞台に隙間風が吹き、作品自体のフィクションの粗さが浮き上がってしまった。出演者の一生懸命さは買えるし、それが「宝塚BOYS」にも通じるところがあって、ほほえましいところはあるのだが。これでは宝塚の舞台には立てないだろうなと観客に思わせてしまっては元も子もない。一方、彼らを見守る寮のおばさん、君原役を演じた愛華みれの全身からにじみ出るような慈愛にみちた演技はさすがだった。
©宝塚歌劇支局プラス9月4日記 薮下哲司