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明日海りお、天草四郎を熱演!花組公演「MESSIAH」開幕

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  ©宝塚歌劇団

 

明日海りお、天草四郎を熱演!花組公演「MESSIAH」開幕

 

トップスターとして充実期を迎える花組の明日海りおが、隠れキリシタンの救世主といわれた天草四郎時貞に扮したミュージカル「MESSIAH(メサイア)」―異聞・天草四郎-(原田諒作、演出)とショー・スぺクタキュラー「BEAUTIFUL GARDEN」―百花繚乱-(野口幸作作、演出)が、13日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

天草四郎時貞は、江戸時代初期、九州・天草に流れ着き、キリシタンの教えを知ることによって、島原藩主のキリシタン弾圧と過酷な年貢の取り立てに苦しむ人々のために立ち上がり救世主(メサイア)と呼ばれたほどのカリスマ的存在の美少年。宝塚でもこれまでに1972年の花組公演「炎の天草灘」(阿古健作、演出)で甲にしきが、1983年の月組公演「春の踊り-南蛮花更紗-」(酒井澄夫作、演出)の一場面で大地真央が演じている。14歳とも16歳ともいわれているが実際は年齢不詳、今回の明日海バージョンは倭寇の頭目、夜叉王丸が天草に漂着、四郎と名乗ったという設定で20歳前後。タイトルに「異聞」とあるように人物関係などは自由な発想で創作している。しかし、その割には結構、史実を踏まえたところもあり、とりわけ無神論者の四郎がなぜ一揆を立ち上げる決意をするに至ったかというあたりにポイントを置いた作劇は見ごたえがあった。原田氏らしく土台をしっかりと組んだうえで宝塚的な味つけをほどこした感じ。

 

阿古版は天草四郎が一揆を立ち上げるところまでを描いたのに対し、原田版は落城シーンのあとのエピローグまである完全版。1時間35分でここまでまとめたのは功績だが、ストーリーを急ぐあまり四郎が養子として迎えられるエピソードやリノ(柚香光)の身代わりになって踏み絵をする場面(一人だけの踏み絵で役人が帰るわけがない)などややご都合主義で甘いところも散見、せっかく四郎が一揆を立ち上げる決意をする経緯や幕府側の思惑などを丁寧に描いているのに、観客の思いが一揆に向かってひとつに繋がっていかないはがゆさがあった。ただラストの原城陥落シーンは宝塚ならではの人海戦術を駆使したなかなかの迫力で、感極まって号泣者が続出するほどだった。

 

南蛮屏風の幕が上がると銀橋に後姿の明日海のシルエットが浮かび、振り向きざまにスポットライトが当たって倭寇の頭目、夜叉王丸に扮した明日海が颯爽と登場する。なかなかかっこいいプロローグだ。仲間と共に日本に向かう途中で嵐に見舞われ、場面変わって20年後の江戸城。南蛮絵師、山田祐庵(柚香光)が将軍・家綱(聖乃あすか)に呼ばれ、島原の乱唯一の生き残りである祐庵が、乱の一部始終を家綱に語るという形で、天草四郎と島原の乱の真実をひもといていく。四郎を元海賊の頭目と設定したところがミソだろう。

 

明日海もただの祭り上げられた美少年ではなく、荒々しい面を持つ青年という造形ではつらつと演じており、島民の心がひとつになるナンバーは、トップスター明日海の求心力の発露とも重なって感動的な場面となった。

 

相手役の仙名彩世は、前の藩主、有馬晴信の遺臣、松嶋源之丞(和海しょう)の妹、流雨。夜叉王丸を引き取った甚兵衛たちとこの流雨たちとの関係が最初よくわからないのがやや混乱するところだが、元武家娘の品格を保ち、「仮面のロマネスク」から始まった明日海とのコンビでは今回が一番しっくりときた。台詞の涼しげな声と透き通った明瞭な歌声は健在。

 

南蛮絵師、リノこと山田右衛門作(のちの祐庵)の柚香は、実在の人物ではあるが、四郎以上に謎の多い人物。敬虔なキリシタンでマリア像に流雨を重ね合わせ、四郎と敵対しながらも最終的には心を許し、一人生き残ることを選択する。柚香は、彼らの代弁者として生きたリノを誠実に演じ好感が持てた。

 

ほかに印象に残ったのは鳳月杏が扮した島原藩主、松倉勝家。一揆の原因となるキリシタン弾圧と過酷な年貢の取り立てを敢行した大名で、その憎々し気な演技はこの舞台最大のヒール役。鳳月の容赦ない表情に凄みがあった。幕府の老中、松平信綱の水美舞斗もうまかった。冷徹で計算高い官僚的な雰囲気を出しながら人間味を漂わせたのは立派。

 

あと、徳川家綱の聖乃、小西行長の遺臣、渡辺小左衛門の瀬戸かずやそして四郎の名付け親、益田甚兵衛に扮した専科の一樹千尋といったところが主要な役どころ。聖乃に風格が出てきたのに感心させられた。

 

ショーは花組を花園にたとえて、いろんな花が咲き競う世界の庭めぐりをしようというコンセプトのショー。花組全員がひとつの大きな花束になってしまう絢爛豪華なプロローグから雨のパリ、スペインの闘牛場、ローマの剣闘士、夏の浜辺、ニューヨークと次から次へとバラエティー豊かに展開、気が付いたら華やかなフィナーレという段取り。ひとつひとつの場面は素敵だが、関連性がないので終わってみればちょっぴり印象が散漫というショーでもあった。でもそれはそれで楽しい。

 

明日海はプロローグでの舞台上での早変わりから、ピアソラの「乾杯」をバックにしての伝説の闘牛士マノレテに扮してのスパニッシュ。仙名との激しいダンスに死の影的な存在で水美がからんだ印象的なナンバー(振付ANJU)。中詰めはトロピカルなtubeメドレーで「夏を抱きしめて」(振付三井聡)次が荒々しくローマの剣闘士スタイル。ここの相手役は妖艶な柚香。そして、ニューヨークではトップハットにケインの燕尾服スタイルでのガーシュインメドレーと続く。今売れっ子の振付家を総動員、まさに明日海の魅力のすべてを見てもらおうといわんばかりの早変わりの連続だった。

 

前回のショー「SANTE!」と花組はメンバー的にはあまり変わっていないはずだが、水美の出番が圧倒的に増えたのが印象的。プロローグの後のラインダイスでは蜂美男子としてメーンを務め、アンダルシアでの闘牛士の死の影、ヒップホップ風の花美男子でも柚香とのコンビがひときわ目立った。バウでの単独公演の成果が一気に噴き出た感じ。柚香はパリの場面で「雨にぬれても」をバックに傘を片手に踊るナンバー(振付Oguri)が洒落ていた。相手役の舞空瞳がかわいかった。

 

パレードのエトワールはこの公演で退団する天真みちると若草萌香。天真の朗々たる歌声が響き渡った。恒例の初日挨拶で明日海は、先日来の地震と大雨の被災地のみなさんへのお見舞いの言葉をかけることを忘れず「花組の公演をご覧になってハライソ(天国)の思いを抱いて頂ければ」と天草四郎に思いを重ね合わせていた。

 

©宝塚歌劇支局プラス7月14日記 薮下哲司

 


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